29.学園革命②
私達新生生徒会が発足し、演説をしたことによって、王家にも動きがあり、学園は対魔物を見据えた魔法強化に力を入れ始めた。
だけど、これはまだほんの序章にすぎない。
私達の革命はまだ始まったばかりで、なかなか古くから根強くある“悪しき風習”を打破することまでには至っていない。
そのため、相変わらず授業でも惜しむことなく、私が本気であることを伝えるために、自らの魔法を遺憾無く発揮している。
そして、今日の授業は二週間後に控えた試験のための属性強化の授業だ。
「シンシア様、お疲れ様。一ヶ月前の授業より魔力が強くなっているわね」
その言葉に、彼女は嬉しそうに笑みを溢した。
「はい! ルビー様の訓練のおかげです!」
「それだけではなく、カーティスからも聞いているわ。『真面目で飲み込みも早い彼女は魔力の成長も著しい』と。
珍しく真剣な表情でそう褒めていたわよ」
「……!」
シンシア様の反応で、聞かずとも何となく彼女の気持ちを悟った私は、もう一言付け加えておく。
「カーティスはお世辞ではよく褒めるのだけど、真剣な表情で述べる時は本当に思っている時だけだわ。だから自信を持って、胸を張りなさい」
「っ、はい……!」
シンシア様がそう頷くと。
「よく俺のこと知ってるね〜! さすがルビー」
「……カーティス」
後ろから不意に現れたカーティスの存在に、ため息を吐いて口にする。
「あなたのそういうところがなければ、評価してあげないこともないのだけど。いかんせん性格に難あり、だものね。良い加減演じるのはやめたらどう?」
そう口にすると、シンシア様もカーティスも驚いたように目を見開く。
カーティスは、笑みを浮かべて言った。
「嫌だなあ。俺のこの性格は生まれつきだよ? 女性は愛でるものでしょう?」
「……まあ、それがあなたの生き方だというのなら別に興味ないし否定はしないけれど。
本当に好きな方とか出来たら変わるのかしらね? 逆に見て見たい気もするわ」
「え、えぇ?」
カーティスが間の抜けた返事をしている間に先生に呼ばれたため、先生の元へ駆け寄る。
そこには、グレアム様の姿もあって。
「先生、何でしょう?」
そう尋ねると、見た目が仙人のような先生が口を開いた。
「グレアム君とルビー君は、属性魔法に秀でているので是非皆の前で手本を見せてあげてほしい」
その言葉に、二人で一瞬目を合わせてから頷いて言った。
「「分かりました」」
私達が頷くと、先生が皆をこちらに注目させ、私達をお手本にするようにと言う。
(……絶好の機会を与えてくれたわ。先生に感謝しなければ)
本当は試験でお見せする予定だったけど、少しだけ本気を出してみようかしら。
そんなことを考えながらも、先に水属性魔法を発現させたグレアム様を何気なく見やれば、その魔法の威力に気が付く。
(あら、グレアム様も魔力が上がっていない?)
私と決闘した時よりは格段に威力が増している気がする。
私よりも生徒会会長としての仕事が激務なはずの彼だけど、あの忙しさで自分の魔法も鍛錬しているのね、と感心しつつ、もしかしなくても余程私との勝負が悔しかったのかも、なんて思ってしまっている間に私の出番が回ってきた。
「では、次にルビー・エイミス君、前へ」
「はい」
私は頷くと、皆の前に進み出る。
といっても距離があるため、魔力を加減すれば十分に本気を出せそうだと判断しながら、先生の言葉を待つ。
「では、エイミス君、得意な属性を教えてくれるかな?」
得意な属性。それは言わずもがな、火属性だけど。
「私の得意な属性は、火と風と水、結界属性です」
「……えっ!?」
グレアム様の驚いた声を耳にし、思わず口角を上げる。
そして、私はその場で出しても安全な範囲の魔力量を調節しながら呪文を唱えた。
「炎・龍」
現れたのは、言わずもがな龍をかたどった炎……、これは一度グレアム様との決闘で使った魔法だけれど、見たことのない生徒達も多かったらしく感嘆の声を上げる。
次に唱えるのは。
「風・翼」
そう口にすれば。
「エイミス様のお背中に翼が……!」
私の背中に翼が現れ、地面を蹴れば高く舞い上がる。
そして上から生徒達を見下ろし、その生徒達に向かって手を翳して……。
「水・滝」
刹那、大量の水が私の手を中心に放出され、彼らの頭上に降り注ぐ……寸前で、最後の呪文を唱えた。
「結界・吸収」
そう一言静かに唱えれば、大量の水は生徒に当たることなく結界の内に吸収される。
「っ」
その反動が大きかったけれど、何とか堪え、地面に着地すると。
「お見事です、エイミス君!」
そう先生に興奮気味に拍手され、胸に手を当てお辞儀をすれば、それだけで女子生徒から感嘆の声が上がる。男子生徒も唖然とした表情で固まっているところを見て、成功したとホッと息を吐く。
「二属性以上、それも四属性を満遍なく扱える生徒など今まで見たことがない!
特に最後の結界の『吸収』魔法は、防御し受け止めた魔力をそのまま自分の身体に吸収することが出来る、結界魔法の中でも非常に高度な魔法……、君は一体どこで学んだんだのかね!?」
「エイミス辺境伯です」
「君のお父上ということか! 素晴らしい……」
「ありがとうございます」
ここまで褒められるとは。多少の無茶をした甲斐があるものだと、大量に魔力を消費した後に吸収したことで疲労を感じつつも、少しでも私の本気が伝われば良いと、もう一度皆に向かって礼をしたのだった。
授業が終わったところで、生徒達に囲まれた。
“悪しき風習”はまだ残ってるとはいえ、男子生徒も少しずつ私を認めてくれる方も少なからずいて、その方々に質問責めにされていると。
「ルビー、ちょっと」
グレアム様に手招きされ、私を囲んでいた女子生徒が色めき立つ。
最悪なことに、生徒会役員に二人揃ってなってしまったことにより、私達がまた寄りを戻すのではないか、なんて一部では囁かれる始末で。
思わず顔を顰めそうになったけれど、さすがにそれは露骨すぎると大人の対応をすることにし、グレアム様の後をついて行く。
「何か用?」
皆の前では態度で示さなかったけれど、長い廊下にはグレアム様しかいなかったため不機嫌さを隠さずに口にすると、そんな私の対応に大分慣れてきたグレアム様は尋ねた。
「少し頑張りすぎているんじゃないか」
「……は?」
思いがけない言葉に目を瞬かせれば、彼はなおも言葉を続けた。
「君は強い。だけど、心配なんだ。……君は正義感が強いことを知っているつもりだが、なりふり構わず一人で戦っているような、そんな気がして」
「……!」
そんな彼の言葉に、一瞬虚を衝かれたものの、グッと爪が手のひらに食い込むほど強い力で拳を握って口を開いた。
「……あなたに何が分かるの」
「え……」
そう呟いたことで驚く彼をキッと睨むと、はっきりと告げた。
「心配ご無用よ。それに、人の心配をする前に自分の心配をしたら?
……私は文字通り強いもの。弱いあなたに心配されずとも、自分のことは自分で出来るし分かっているわよ!」
「待て、ルビー!」
彼の制する声を無視して踵を返し歩きながら、爪が思いの外食い込んでしまったようで、痛む手を片方の手で握る。
(……分かっているわよ、そんなこと。でも、多少の無茶でもしない限り、皆は付いてきてくれない)
“百年に一度の災厄”は、この間にも刻々と迫っているのだから……。
「ルビー」
「!?」
後ろから声をかけてきた人物の存在に気が付かず、ハッとして後ろを振り返ると、そこにいたのはヴィンス先生だった。
「ヴィンス先生、どうなさったのですか?」
「グレアムを探していてね。見かけなかったかな?」
「今さっき別れたばかりですけど……、どうなさいましたか?」
先生の顔色が悪いことに気が付き、何だか嫌な予感がしてそう尋ねれば、ヴィンス先生は少し逡巡した後、意を決したように口を開いた。
「出来れば、君とグレアムだけに伝えたい。話はそれからでも良い?」
「もちろんです」
そう頷いている間にも、心臓は嫌な音を立て続けているのだった。




