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24.生徒会役員選挙準備⑨

 生徒会役員選挙を明日に控えた放課後、立候補者への説明会が行われた。

 立候補者は全部で八名。

 女子生徒は言わずもがな私一人だ。

 立候補者の面々を横目に思う。


(この中で選ばれるのは五名のみ)


 ゲーム中では、確か名前もスチルもないモブキャラが一人と攻略対象者の四名だった。

 でも、今回は違う。何としても、その五名の枠に入らなければいけない。

 でなければ、私が転生したことも、この一ヶ月間で行ってきたことも全てが水の泡になる。


(未来を救えるのは、私だけ)


 この先起こることを知る私は、生徒会の一員となり、学園のあり方を変えていかなければならないのだ。


(でないと、多くの犠牲を払うことに)


「ルビー」


 物思いに耽っていた私の耳に届いた声に顔を上げると、目の前にはエディ様がいた。

 彼がこの場にいるということは。


「僕もやっぱり、生徒会役員に立候補することにしたんだ」

「……そう」


 ゲームの展開もあるし、私が仕向けたということもあって予想していたが、改めて彼はライバルになるのだと理解し、馴れ合う必要はないと配られた資料を鞄にしまっていると、彼はそのまま言葉を続けた。


「僕は強い男になりたい。その気持ちはきっと兄上にも負けない。

 だから、立場なんて関係なく、僕は僕が信じる道を歩むことに決めたんだ。

 ……ルビーのように」


 その言葉に思わず顔を上げると、エディ様は笑っていた。

 その笑みはいつもとは違い、どこか自信と期待に満ち溢れた、良い目をしていた。


(……ようやく、王子という立場を自覚し、それに相応しくなったわね)


 もう彼は大丈夫だと思いながら、以前のルビーが抱いていた心配が安心に変わるのを感じていると、不意に鞄を持っていた手に手が重ねられた。


「!?」


 突然のことに驚く私に、エディ様は真剣な眼差しで言う。


「そして、僕は決めた。この気持ちは封印しようと思っていたけれど、君が兄上との婚約を解消した今、僕にも権利はあると思うから」

「……権利?」


 まさか。目を見開いた私に、彼はグレアム様と同じ瞳で私を見つめて言葉を紡いだ。


「僕は、君に認めてもらいたい。君の助けになりたい。

 君を守れるくらい強く……、そうなったら、今度は他の誰でもなく、僕と歩む道を考えてくれませんか」

「え……」


 思いがけない言葉に目を丸くしていた、その時。


「抜け駆けは禁止だ」

「っ!?」


 エディ様に取られていた手を、今度は後ろから庇うように取られる。

 その声の主は、振り返らずとも分かって。

 そんな彼に、エディ様は呆れたように言った。


「本当諦めが悪いね、兄上は。言っておくけど、僕はもう兄上に譲ったりしないよ?」


 その言葉に、グレアム様が挑戦的に返す。


「良いだろう、その勝負受けて立とう。

 どちらが彼女に相応しい男に選ばれるかどうか」

「……受けて立とうって何?」

「っ!!」


 私はグレアム様の手の甲をつねる。

 そして、二人に向かって言った。


「私はあなた方の戦利品じゃない!

 というか、それでは婚約を解消した意味がなくなってしまうでしょう!?

 ……私は誰の手も取らない。一人で生きていくと決めたのだから!」

「「ルビー!」」


 彼等の呼び止める声が聞こえたけれど、無視して鞄を手に教室を出る。

 追いかけては来なかった彼等のことが気になり、念のためこっそり教室の中を覗けば。


(あ……)


 兄弟二人、彼等は何かを言い合い、笑っていた。

 その姿が幼い頃の二人の姿と重なって見えて。


(……もう、大丈夫そうね)


 私を取り合うとか意味の分からない言動はいただけないけれど、これがあるべき本当の兄弟の姿なんだわ。


(……羨ましい)


 今世では可愛い歳の離れた弟はいるけれど、前世の妹とは当たり前だけれどもう会えない。


(元気にしているかしら)


 何もあなたに返せなくてごめんね、と心の中で謝ると。


「ルビー様?」

「シンシア様」


 そこには、もうとっくに下校したはずのシンシア様の姿があって。

 驚く私に、彼女は苦笑して言った。


「やっぱり心配で。居ても立っても居られず、教室で待っていました」

「まあ、そうだったのね。では、一緒に帰りましょう?」

「はい!」


 笑みを浮かべてくれる彼女に、前世の妹の笑みと重なって見えて。


(なんて、感傷に浸ってしまうなんて私らしくないわね)


 一度目を閉じ、雑念を払ってから彼女に向かって尋ねる。


「明日の生徒会役員選挙に向けて、準備はどう?」

「……そうですね」


 シンシア様はそこで言葉を切ると、私に向かって両拳を握って言った。


「とってもワクワクしています!」

「!」

「いつもならガチガチに緊張してしまって、失敗するかもとかあれこれ悪い方向に考えるのですが……、ルビー様が一緒だと思うと、何かが大きく変わるような、そんな気がして。期待の方のドキドキが優っています」

「……シンシア様」


 二週間前に会った彼女とは別人に思うほど、明るく溌剌とした彼女の姿に、私も自然と笑みが溢れる。


「……それはこちらのセリフよ」

「え?」


 シンシア様がこちらを向く。

 私は笑みを浮かべて言った。


「私を応援してくれてありがとう」

「っ、はい!」


 シンシア様の元気な返事に頷くと、私は彼女に鞄からあるものを取り出し、渡す。


「これは……?」

「明日読む、私の原稿よ」

「!?」


 驚くシンシア様に、私は真剣な表情で言った。


「あなたには、私が今から行おうとしていることを知っておいてほしいから。

 ……自分でもとんでもないことをこれからしでかすと思うから、それを読んでもあなたが私についてきてくれるというのなら明日、私と共に登壇して」


 これは、私の賭けでもある。

 お互いの演説は当日の楽しみにしていようと言ったけれど、私が行う革命に彼女を巻き込んでも良いものかどうかは迷っていた。


(下手をしたら学園を……、いえ、国中を敵に回すかもしれない)


 それでも、私には譲れないものがある。

 たとえ彼女が来なかったとしても、私は壇上に上がり、皆に訴えなければならないのだから。

 その覚悟を決め、彼女に原稿を差し出せば、シンシア様はそれを両手で抱え込むようにして受け取ってから言った。


「……分かりました。ルビー様の魂のこもった原稿、拝読いたします」

「私の、魂……」


 思わず反芻してしまうけれど、あながち外れでもないと彼女の言葉に大きく頷き、言葉を発した。


「よろしくお願いね」

「はい!」


 こうして、運命の生徒会役員選挙は、もうすぐ始まりを告げようとしていた。

いよいよ次回、生徒会役員選挙の始まりです…!

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