表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/78

16.生徒会役員選挙準備①

登場人物設定を第一部分に追加させていただきました。

その影響で、第一話からが第二部分からとなり、ページが一つずつズレておりますので、予めご了承ください。

引き続きよろしくお願いいたします。

 夜。


「う〜ん……」


 私は目の前に置かれた紙……もとい、『生徒会役員選挙立候補者説明』に視線を落として唸る。


「ゲームが始まるのは来年の4月からで、その時には既に攻略対象者達は生徒会役員とヴィンス先生は顧問になっていたから、選挙の詳細を知らなかったけれど……、まさか、こうなるとは」


 前世で学校に行っていなかった私は、生徒会役員選挙というものを知らない。

 ルビーの転生知識で何となく記憶にはあったものの。


「生徒会役員立候補者は、選挙の時に自己アピールだけでなく、他者からも応援演説をしてもらわなくてはいけないなんて……!」


 そう、自己アピールは既に考えてあるから良いのだけど、問題は応援演説……つまり、他者に一緒に登壇してもらい、私のアピールをしていただかなくてはいけないというのだ。

 普通であれば、親友や友人に頼めば良いのだろうけど、残念ながら私にそんな存在はいない。


(アデラ様が味方になってくれたけれど、彼女は公爵令嬢で年上だし、学年も違うしで頼みづらい……)


 せめて同じクラスに誰か居てくれれば……とも思うけれど、それも難しそうだ。


(味方は徐々に増えつつあるけれど、登壇してまで王太子殿下の対抗馬である私を全面的に推すと言って下さるかは不明)


 つまり、信頼できる味方がいないということに、初めて挫折を味わう。

 せめて一人でも友人がいてくれれば……なんて思ってしまうけれど、嘆いていても仕方がない。

 今からでもどなたか味方になってくれる人を作るしかない。


(期間は残り三週間を切った。応援演説者は選挙三日前までに名前を提出すれば良いからまだ間に合う!)


 新生ルビー・エイミスがこんなところで挫けてたまるか!

 と根性と気合いで乗り越えることにしたのだけど。


「……後もう一つ、気になっていることがあるのよね」


 私は生徒会役員立候補者の名前が連なったその部分をじっと見つめた。





「ごきげんよう」


 朝食を摂っている私の耳に、特徴的な高い声が耳に届く。


(……やっぱり来たわね)


 私はその声の主を振り返り、挨拶を返した。


「ごきげんよう、第二王子殿下」


 その言葉に、彼は少し目を見開いた後、この前のように恐る恐る尋ねた。


「……隣、座っても良い?」


 そう言って子犬のような目で私を見るものだから、まるで私がいじめているようだわと思ってしまうけれど、今日は私も彼に用事があったからと口にする。


「どうぞ」


 それだけで、パァッと嬉しそうに笑みを溢し、隣に座る彼を見て少し驚いてしまう。


(……さすがは兄弟ね。王太子殿下と良く似ているわ)


 よく分からないところで喜ぶところも笑顔も、やはり兄弟ねなんて思ってしまっていると。


「……あ、あの」

「何でしょう?」


 彼は顔を赤くさせながら呟くように言った。


「あまりそんな、見られると……」

「あぁ、ごめんなさい」


 無意識に見てしまったことについて謝罪をし、食事を食べ進める。

 そして、あまり凝視しないよう彼の様子を窺いながら、いつ話を切り出そうか考えあぐねていると。


「……生徒会役員、立候補するんだってね」


 彼から紡がれた言葉に思わず顔を上げる。

 まさか自分が切り出そうとしていた話題を先に振られるとは思わず、少し動揺しながらも頷き返す。


「え、えぇ」

「……そっか。頑張ってね。応援してる」


 そう言った彼の表情は、どこか無理して笑っているように見えて。

 その表情を見て私が尋ねるべきでないと、考えていた言葉を呑み込み、代わりに礼を述べる。


「ありがとうございます」


 私の言葉に彼は笑みを浮かべたまま珍しく言葉を続ける。


「それにしても、やっぱりルビーは凄いね。

 夏休みが明けて、最初にルビーを見た時は驚いたというのが正直な感想だけど……、ルビーは、変わろうとしているんだよね。……格好良いなあ」


 まるで眩しいものを見るように目を細めて言われた言葉に、意を決して口を開きかけた、その時。


「おはよう」

「「!?」」


 声をかけてきた人物に、第二王子殿下と共に振り返ると、そこにいたのは、無駄にキラキラとしている他所行きの顔をした彼だった。


「……お、おはよう」

「隣、座っても良いか?」

「えっ」


 そう私に向かって尋ねた王太子殿下を見て、第二王子殿下が声を上げる。

 私は危うく、げ、と顔を顰めそうになった。

 だって。


(両隣に王子ってどういう状況!?)


 さすがにこれ以上は目立ちたくないのだけど! 悪目立ちにも程があるわ! 

 と全力で拒否したかったけれど、相手は王子だし、他に空いている席はないしで結果。


「……ドウゾ」


 死んだ魚の目でそう返した私に、王太子殿下は少し驚いた様子だったけど、空いていた私の隣の席に座る。

 そして、両隣に王子という構図が出来上がったわけで。


(……駄目だ、怖くて周りを見られない)


 これでは私が王子二人を侍らせているように見える、とあらぬ噂が立つのを予感しながら、なるべく早く食事を摂ることに専念していると。


「ル、ルビー? 何もそんなに早く食べなくても良いんじゃないか? 

 ……それとも、俺は来ない方が良かっただろうか」


 王太子殿下が呟いた言葉に、咄嗟に肯定しそうになった私より先に言葉を被せてきたのは。


「そうだよ」

「「!?」」


 言わずもがな、私の左隣にいる第二王子殿下で。

 その目が完全に据わっているのを見て、思わず頭を抱えそうになる。


(そうよ、この二人、幼い頃から犬猿の仲だったわ……)


 前世、ファンの間でも話題になった兄弟の確執。

 その確執は結果的にヒロインでさえも分からず、彼らは最初から最後まで顔を突き合わせればケンカをしていた。

 そして、それは今も。


「婚約を解消されてもなお、そうやって付き纏うのは良くないよ。いくら何でもしつこすぎる。ルビーのことを考えていない証拠だよ」

「はっ、臆病者のお前にだけは言われたくないな。うじうじうじうじ、いつまでそうしているつもりだ。一国の王子が聞いて呆れる」


 そうして繰り広げられる兄弟喧嘩に、周囲は何事かと遠巻きに様子を見ている。

 そんな周囲の目をよそに、彼らの喧嘩はヒートアップしていく。


「大体、お前こそルビーに執着しすぎている。

 ルビーが生徒会役員に立候補すると聞いたから、立候補を取りやめた。違うか?」

「……!」


 その言葉に、第二王子殿下はこれ以上ないほど大きく目を見開いた。

 そんな第二王子殿下の反応を見て思う。


(……やっぱり、そうだったのね)


 私が第二王子殿下に聞きたかったこと。

 それは、“なぜ生徒会役員に第二王子殿下が立候補しなかったのか”。

 ゲームでは彼も、書記としてその務めを果たしていた。

 だからこそ攻略対象者だったはずなのに、その彼の名前が配られた資料には載っていなかった。

 そして、考えられる要因は一つ。


(ゲーム通りに動いていない私が立候補したことで、ゲームと違うことが起きている)


 つまり、私の存在が第二王子殿下のシナリオを妨げている、ということになるわけで。

 そうして、王太子殿下という犬猿の仲の相手から指摘された第二王子殿下は激昂し、言葉を発する……より先に、私は一言、静かに告げた。


「静かにしていただけますか」

「「!」」


 二人が醸し出していたどす黒いオーラよりも有無を言わさない、氷点下の笑みを顔に貼り付けて口にすれば、彼らは凍りついたように固まる。

 それを見て息を吐き、今度は笑みを消して続けた。


「朝から耳元で怒鳴るのもやめていただけますか。迷惑です。

 一国の王子でいらっしゃるというのに、食事も静かに摂れないのですか」

「「……ごめんなさい」」


 二人が謝罪を述べたのを一瞥し、その間に食べ終わっていた私は席を立つ間際、簡潔に二人だけに聞こえるように言う。


「昼、裏庭に集合」

「「…………はい」」


 そう行ってシュンと項垂れる姿を見て、トレイを持ち踵を返す。


(……彼らは気が付かないのかしら)


 何をするのも息ピッタリよ、と突っ込みたくなったけれど、兄弟喧嘩に朝っぱらから付き合わされた私は、後でこの怒りをぶつけようと、そう誓ったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ