大晦日の大行事-十四-
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百鬼夜行の宴がされている梅林公園へと戻ってきた真司は辺りに人がいないことを確認し結界の中に素早く入る。すると、一気に賑やかな声が辺りに響き渡った。
妖怪達は、酒を飲んだり食ったり踊ったりと、どんちゃん騒ぎしている。そんな中ある妖怪がひょっこりと顔を出し、真司に向かって手を振っているのが見えた。
「お?真司! おーい、こっちやこっちぃ!」
「あ、勇さん」
「よ! さっきぶりやな!」
「はい」
「ん? なんやなんや? 何か元気ないやんけ」
真司は勇の隣に腰を下ろし、お酒ではなくオレンジジュースを勇から手渡される。真司はそれを素直に受け取り、菖蒲の正体の事や白雪に神社に行くよう勧められたが特に何も無かったことを勇に話した。
すると勇は深く頷いた。
「ははーん。なるほどなぁ~」
「それと……」
「ん、なんや?」
「神社を出る時に、女の子の声が聞こえたような気がしたんです……。でも、誰もいなかったんですよねぇ。やっぱり、気のせいだったのかなぁ?」
「ほぉ~」
勇が少し驚いたように頷くと真司は首を傾げた。
すると勇は二つに分かれている尻尾をユラリと揺らしニヤリと笑った。
「菖蒲様の正体は俺も口には出せんけど、その声の主なら検討はつくな。……それは、多治速比売命かもしれへんなぁ」
「え? た、たじ……?」
真司は聞いた事のない名前に首を傾げる。
「やから、多治速比売命や。その多治速比売神社の祭神のこと」
「……それって、神様ってこと?」
「せやで」
真司は未だにあの声が神様の声だと信じがたかった。
(でも、どうして僕に?)
確かに、妖怪や梅の精霊といったものは見える。いや、見えるようになった。
しかし、まさか神様まで見えるとは思えなかったのだ。
(って、まぁ、姿までは見てないんだけど……)
真司は菖蒲と出会い、あやかし商店街を知り、この自分の力が少しづつ強くなってきているような気がした。
だけど、不思議とそれは嫌じゃなかった。
昔なら、きっとそれは嫌だっただろう。
真司は梅の木を見上げる。梅の花は小梅の力で満開だ。
「なんや、ぼーっとして?」
「あ。ううん。何でもないです」
酒と魚を皿につまむ勇に真司は微笑んだ。
「ふーん。なら、ええけど?まぁ、あれやな……」
「??」
「お前は、お前の信じる道を歩けばええってことや。道は一つちゃう。何通りもある。どれを選ぶかはお前次第ってことやな」
そう言いと一気に酒を飲む。まるで、真司の考えが勇にはわかるみたいだった。
そして、さすが年長で長く生きた妖怪なだけはある。言っていることが、菖蒲同様に意味ありげでとても深かった。
「菖蒲様の正体も、その内……いや、こりゃぁ、近い内にわかるかもしれへんなぁ」
「そうなんですか?」
「まぁ、あの神の興味が出てきたらの話しやけどな」
「……はぁ」
曖昧な返事をする真司。そこで、真司はハッとなり辺りを見回した。
近くに星や白雪、お雪は居たが、肝心な菖蒲の姿だけは見当たらなかったのだ。
「そういえば、菖蒲さんは?」
「ん? あぁ、菖蒲様なら酒を渡しに行ったわ」
「酒って……あのお酒ですか?」
「せや」
勇が頷くと、神社の方から遠くの方から声が聞こえてきた。
「ハッピーニューイヤー!!」
「あけましておめでとう!」
どうやら年が明けたらしい。その声を合図に、近くにいた周りの妖怪達も盃を持って隣同士で乾杯し合う。
「おめでとうございます~」
「一年お疲れっす!」
勇は盃を地面に置くと「明けたなぁ」と、呟きおもむろに自分の膝を叩く。
「さーて! これからが、この宴の本番や!!」
そう言うと勇は立ち上がり、どこからともなく丸い大きなボールを取り出した。
「一番、勇! 玉乗りするでぇ!」
「……へ?」
勇が突然玉に乗り始め芸を披露する中、真司は驚きのあまり口がポカンと開いていた。
周りの妖怪たちは笑いながら勇を囃し立てる。
「おー! いいぞいいぞ!」
「勇! かましたれ~!」
「今年は顔から転ぶなや」
「あっははは! 確かにそうだ!」
真司は一体何が始まったのか、これから何を始めるのかがわからなかった。
しかし、周りの妖怪達は意気揚揚とした表情で笑っている。中には、勇同様に何かを取り出し披露する者もいた。
急な盛り上がり用に呆然としていると、近くにいた木魚達磨がそれを教えてくれた。
「ごれがら、この宴の醍醐味、百鬼夜行の一発芸が始まるんだべ」
「一発芸、ですか……あ、あははは……」
真司は、次から次へと芸を披露していく妖怪達を見て苦笑し、そして、それは次第に可笑しくなり笑いへと変わり始める。いつしか自分も他の妖怪達のように、飲み物を片手に重箱をつまみ、芸を披露する妖怪に笑っていた。
きっと、この光景は異様なものだろう。妖怪と一人の人間が笑いあっているのだから。
そして、真司は思った。
(まだ半年も経ってないけれど、怖いものばかりじゃないんだ。ううん……それだけじゃない)
真司は、咲き誇る梅の花をまた見上げると小さく呟いた。
これは、小さな小さな独り言だ。
「人も妖怪も何も変わらない……」
お互いに笑い合い、時には馬鹿騒ぎもする。それは、人だってそうだ。
きっと今日この日、集まっている者なら同じことをやっているだろう。生き方や生まれ方が違っても、人も妖怪も同じ感情がある。
まだ妖怪たちと知り合ってから間もない真司はそう思った。
すると真司は、小物屋で買った月下美人の簪をポケットから壊れないようにそっと取り出す。お店の人が、わざわざ簪用の布を用意してくれたので、簪はポケットに入れても傷は付かなかった。
(これ、どうやって渡そうかな……はぁ)
――人と妖怪は変わらない。
改めてそう思った真司に、また一つの小さな悩みが出来たのだった。
(終)
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