大晦日の大行事-十三-
✿-✿-✿
その頃の白雪は、妖怪と話しをしつつも真司が神社へと向かうのを密かに見守っていた。
すると、隣にそっと菖蒲が座った。
「行ってしまったなぁ」
「あら、菖蒲様」
「全く。白雪は、真司に甘い!」
ぷくーと頬を膨らませる菖蒲に白雪は苦笑する。
「折角、真司にもっと色んな妖怪達と接してほしかったのにのぉ」
「でも、以前に比べるとだいぶ打ち解けていますよ? それに、真司さんは、もうずっと前から菖蒲様の正体を気にしていましたし。ふふふっ」
「知っておる。まぁ、今日は無理でも近々バレよう……」
「縁、ですか?」
白雪の言葉に菖蒲が小さく頷く。
「うむ。縁は既に結ばれておるからの。……私もあそこに向かわなければならんからな」
苦虫を潰したかのように言う菖蒲に白雪は苦笑する。
「ふふっ、相変わらず嫌そうですね」
「当たり前じゃ! 何が好き好んであ奴らに会わなあかん……はぁ……」
項垂れるように溜め息を吐くと、白雪が神社の方を見た。
「真司さんは、あの方達に会うでしょうか?」
「今日は大晦日で人も多いゆえ、無理じゃろ。私の匂いを嗅ぎつけて、近々、勝手に商店街にやって来るかもな……はぁ、嫌だ嫌だ」
「あらあら、ふふふっ」
✿-✿-✿
真司は、多治速比売神社へと着くとキョロキョロと辺りを見回していた。
この多治速比売神社から梅林公園までは歩いて約三分~五分の所にある。堺に引っ越して来て、真司は初めて多治速比売神社へとやって来たのだ。
「うわ……すごい人」
拝殿の前には、たくさんの人の列が並んでいる。列は奥まで並び、後列は見えないぐらいだった。
「それにしても……」
(ここ、お社が一つじゃないんだ)
真司は、すぐ近くに建っている神社の案内図を見る。
「ええと……僕が今いるのが脇門で、あの列に並んでいる人達は拝殿に向かって並んでて……あ、稲荷神社もある。他にも、白山社……住吉社……熊野社……弁天社……へぇ〜、色々あるんだなぁ」
そう。この多治速比売神社には沢山のお社があり、神を祀っている。そして今日の大晦日に並んでいる列は、全て多治速比売を祀っている拝殿への列だった。
しかし、ちらほらと稲荷社や弁天社にもお参りをする人達もいた。
真司は神社に来たのだからついでにお参りしていこうと思ったが、長蛇の列に並ぼうとは思えず、視線は自然と隣の稲荷社へと向いていた。
「稲荷社なら直ぐ隣にあるし、今日は、ここで軽く御参りしようかな」
稲荷社の鳥居をくぐろうと、軽く鳥居に向かって一礼をする。そして、鳥居をくぐる両端には巻物らしき物を咥えた狐とそうでない狛狐が鎮座していた。
(な、なんか……この狐の顔怖いなぁ……)
お社を護る神使だからだろうか?目は鋭く、足も太く、とても勇ましい感じがした。
真司は東京の稲荷社にいる狐を思い出す。
(確か、あっちの狐は小さくて可愛かったような……? 地域や神社によって、姿形って違うんだなぁ)
そう思うと、真司は二礼をし、お賽銭を入れ鈴を鳴らし、二拍手する。しかし、いざお参りをしたはいいものの、これといってお願い事や新年の抱負などは浮かばなかった。
目を閉じながら「どっ、どうしよう!?」と、思っていると、ふと菖蒲たちの姿が頭に過ぎった。
「…………」
真司は目を閉じ、改めて神様にお願い事をする。
(……菖蒲さんや他の妖怪達と、もっと面と向かって仲良くなれますように)
そう心の中で願い、目を開け一礼をしてお参りを済ませると、真司は思い出したかのようにハッとなった。
(そういえば、手を洗ってなかった!)
真司は「忘れてごめんなさい!」と、最後に神様に言って稲荷社を出る。その後もなんとなく境内を散策してみたはいいが、これといって菖蒲に関することを見つけることができないでいた。
真司は諦め、溜め息を吐きながら多治速比売神社を出ようとする。
「結局、何も見当たらなかったし菖蒲さんののとも何もわからなかったなぁ……はぁ……」
「ほぅ~。お主、やはり菖蒲のことを知っておるのか? 全く興味深いのぉ~」
「え……?」
背後から女の子の声が聞こえてきたので、真司は振り返る。しかし、そこには誰も居なかった。
「???」
(今、女の子の声が聞こえたような気がしたんだけど……)
気のせいかと思いながらも真司は首を傾げ、神社を出たのだった。




