お泊まりおでかけ with 副団長⑤
メリークリスマス!
「副団長、ただいまー!」
図面を見ていた副団長は、顔をあげてギロリとわたしの顔を不機嫌そうににらむ。
「ずいぶん早いですな」
「そんなことないよ。湖まで行ったし、けっこう歩き回ったよ。湖畔のレストランでお茶もしたし」
コルト夫妻が用意した晩餐はこじんまりしたもので、コルト夫人の隣にカーター副団長が座り、その反対にレオポルドが座る。そしてわたしの隣はコルト伯爵だ。
副団長は研究棟での昼食とはちがい、かきこむこともなく落ち着いて受け答えしながら、ゆっくりと食事を楽しんでいる。
「散策は楽しめましたか、ネリス師団長」
「はい、とっても!」
コルト伯爵みたいな年上の穏やかなオジサマとは、仕事ではあまり接しないから逆に緊張する。そのせいかわたしは、ハキハキと答えた。
「ほう、何か興味を引くものがありましたかな」
「やっぱり湖底都市ですね」
湖のほとりで見つけたお店で、湖底都市にまつわる話をいろいろと聞いた。
水の中に街がそっくりそのまま沈んでいる。まるで時が止まったみたいに、窓辺に置かれた植木鉢もそのままで。
そこに住んでいたはずの人々の姿は影も形もなく、ただゆらゆらと揺れる水底で眠るように存在する都市。
「〝大ぼら吹きと幻影都市〟のモデルだと言われている街ですな」
「何それ」
カーター副団長は知っていることを教えてくれた。
「おとぎ話です。湖の精霊が創りあげたとも言われております。自然が作りだした造形にしては、あまりにも人工的で人が暮らしていたとしか思えない」
「もともと地上にあった街が沈んだとかではなく?」
「いずれにしろ大昔すぎて記録にも残っておりません」
こっちの世界では精霊には、あまり時間の概念がないらしい。あっちの世界だと発掘で年代を特定することができるんだけど……。湖底に沈む都市なんてすごく気になる。
「ふうん。地層とか街の壁から、年代測定できたらいいのにね」
「年代測定?」
けげんな顔をする副団長に、わたしは何とか説明しようとした。
「えっとほら、地層とかはできた年代を、ある程度さかのぼれるじゃん。たとえば街の建材は、どこから採ってきたのか調べれば……」
「そんなもの造形魔術でしたら、いくらでも作成できましょう」
「…………」
願えば叶う魔法の世界で、建物の成りたちを調べることが、こんなに難しいなんて!
そういえば修復の魔法陣でも、家が再生できるんだもんね。とするとその街がいつできたかなんて、本当にわからないのか……。
「時計塔からならきれいに見えるって、レオポルドに聞いたんだけど」
「ならば明日ですな。幸い天気もいいようです」
「じゃあ今日は早く寝よう」
にこにこと返事をすれば、コルト伯爵が咳払いをして給仕に合図する。
「いかんな。年のせいか酔いが回ったようだ。今夜はこのへんで休むとするか」
「そうですわね。私もそろそろ……」
「はい、おやすみなさい」
眠そうなコルト夫妻にあいさつして、わたしも立ちあがる。
「じゃあね、レオポルド」
「まて」
うなずく彼に手を振って、自分の部屋に戻ろうとすると呼びとめられた。
「なあに?」
「部屋まで送る」
「へ?」
コルト夫妻と副団長が見守る中、彼は不機嫌そうに立ちあがった。
「あの、まさか……」
デーダスの家でもやったアレ、ですか⁉
「当然だろう」
彼の大きな手が伸びてきて、ぐわしっとわたしの肘を捕まえた。
「では、失礼する」
そっけなくコルト夫妻にあいさつして、彼はそのままずんずんと歩きだす。
連行!連行だからこれ!
ふたりを見送って、コルト夫人がそばにいた錬金術師に話しかける。
「……カーター副団長」
「はい」
「おふたりは……その、どのような?」
副団長は貴婦人とのしゃれた会話術などは、とくに学んでいなかった。
「ま、見ての通りですな。仲が悪そうには見えませんが」
見たまんまを答える。コルト夫人は夫を見あげた。
「どうしたらいいかしら」
「さて」
首をかしげる夫を見て、コルト夫人はため息をつく。こういうときに夫は頼りにならない。夫人はふたたびカーター副団長に向きなおった。
「手助けは必要かしら?」
「ふむ」
副団長はもったいぶって、あごに指をあてる。
「私が魔術師団長にちょっと聞いてみましょう。何、こう見えて彼からはよく相談を受けるのです」
「まぁ、さすがですわね!」
コルト夫人がパアッと笑顔になり、副団長は気分よく歩きだした。
クオードはすぐにレオポルドを見つけた。彼女を部屋に送り届けて、自分の部屋に戻るところらしい。スタスタと長い脚で歩くうしろ姿を、副団長は小走りで追いかける。
「魔術師団長!」
「?」
ふり向いた銀髪の男に追いつき、副団長は息を整えた。
(まったく……追いつくのに息切れがするとは。ぐっ、鍛えねばならんか……)
「き、聞きたいことがありまして」
「なんだ」
「ネリス師団長のことですが、あなたからはどういうふうに見えているので?」
銀の魔術師はちょっとだけ首をかしげた。
「繊細な砂糖細工の花……だろうか」
「はい?」
カーター副団長は自分の耳を疑った。
「ふれると壊れてしまいそうで……」
「ふれると壊れる?」
(……あの師団長が?)
カーター副団長の目から見ても、ネリアは元気いっぱいで威勢がいい。
「ええと、だれの話をしているので?」
「彼女のことだが」
「そう、ですか」
「それだけか?」
「はい」
レオポルドはそのまま自分の部屋に入り、廊下に残されたカーター副団長は首をひねった。
「壊れそうな、繊細な砂糖細工の……花?」
(……あの師団長が?)
カーター副団長はレオポルドの目を検査したくなった。









