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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
発売三周年SS

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49/62

男たちの雑談

6月29日で『魔術師の杖』は連載開始4周年です(^^)ノ

よくある「白派?黒派?」のお話。3人組+1名の雑談。

『あなたは白派?黒派?』


 ライアスはちょっと首をかしげて即答した。


「俺は白かな」


 質問の意図などぐるぐる考えだしたらキリがない、こういうのは直感で答えるに限る。


(どうして白が好きなのかとか、さらに突っ込まれたら困るが……やはり清潔感かな)


 生真面目なライアスが白が好きな理由を、あれこれ考えはじめたところで、ユーリはサラリと軽い調子で言った。


「僕は黒もイイと思います。妖艶だし素肌が引き立ちますよね」


 こげ茶の髪をしたオドゥがすかさず、からかうように突っこみを入れる。


「へぇお前、素肌なんて見る機会あるの?」


(……それは俺も思った)


 パチッと目が合うとライアスの考えが伝わったのか、ユーリは意味深なほほえみを浮かべた。


「あ、内緒でお願いします。『王太子は黒が好き』なんて王都新聞にでも書かれたら、売り場が黒一色になりますからね」


 何だろう、大人ユーリに負けた感がある。ちょっだけ焦ったライアスは、レオポルドに話を振った。


「レオポルドはどっちだ?」


「…………」


 銀の長いまつ毛が物憂げに動いただけで、黄昏色の瞳には何の変化もない。それでも話はちゃんと聞いていたらしい。


「脱いでしまえば、どちらも同じだろう」


 それだけ言ってまた口を閉ざす。もとより飲み会のネタみたいな雑談に加わる気もないし、聞いてきたのがライアスだから返事をしたまでだ。


 それでもネリアが白と黒の下着を持って、「どっちがいいかな?」と聞いてきたら、まじめに考えて答えるだろうが。


「そ、そうか……」


 話が途切れて、ライアスもそれ以上突っこめない。


「『どちらも同じ』って、オドゥが言いそうなセリフですよねぇ」


 ユーリがそう言って、オドゥに赤い瞳を向けた。


「僕はそんなこと言わないよ」


 黒縁眼鏡のブリッジに指をかけ、深緑色の目を細めたオドゥは、笑ってユーリの言葉を否定する。


「どっち派っていうか……そうだな、トップノートはヴィオで、ミドルノートにはパウアの花やサラーの樹皮も使う。マウナカイアみたいな南国で採れる素材は、官能的で神秘的な香りになるからね」


 何だか呪文みたいな単語がたくさん出てきて、ライアスは顔をしかめた。


「香り?」


「そう、下着の色なんてどうでもいいけど、抱きしめたときにふわりと感じる、相手の香りにはこだわるかな。ベースとなる抽出には錬金釜で合成したものを使う。錬金術師ならではだろ?」


 オドゥの説明に、ユーリは軽いショックを受けた。


「錬金術師ならではって……僕、そんなの知りませんよ」


「だってお子様には関係ないもん、抱きしめたときの香りなんて」


「僕は成人してますよっ!」


 ユーリが抗議すると、オドゥはめんどくさそうに言う。


「成人つってもさぁ、ついこないだじゃん。植物系の香りならヴェリガンだって詳しいぜ」


「えっ……」


 ここでまさかのヴェリガンが急浮上。ユーリは赤い瞳をきらめかせて身を乗りだした。


「僕がウブルグからカタツムリの話を聞いているあいだに、オドゥとヴェリガンはそんな話をしてたんですか⁉」


 オドゥは思いだすように首をひねる。


「まぁ、そうなるかな。ヴェリガンは行動力が伴わないだけで、女の子が喜びそうなこと、ちゃんと研究してたし」


「僕もそういうの交ぜてくださいよ」


 口をとがらせたユーリに、オドゥは意外そうな顔をする。


「だってお子様には関係ないだろ」


「だ・か・ら、僕は成人してますよっ!」


「あー……そのうちね」


「うわ、はぐらかされた」


 あくびをしてすっとぼけたオドゥにユーリがむくれていると、今まで黙っていたレオポルドがぽつりとつぶやいた。


「……香りか。さすがオドゥだな」


「何、お前も興味あんの?」


「彼女はきれい好きだからな、好みの香りで染めるのはおもしろそうだ」


 すっくと立ちあがったレオポルドに、オドゥは目を見ひらいた。


「まさか今すぐやる気か?」


「塔にも素材はある」


 ふっと口の端に浮かべたほほえみ、それだけで見る者の動きを止めてしまうほどの、精霊のごとき美貌を残像のように残し、銀の魔術師は転移して姿を消した。


 三人はそれをあっけにとられて見送り……しばらくして我に返ったオドゥが天を仰いだ。


「うわ、あいつ上機嫌で塔に帰っていった。こういうとき差が出るんだよなぁ。レオポルドが本気になったら、僕にはどうしようもない。『さすがオドゥだな』とか言いながら、何でも自分のモノにしてオイシイとこ全部持ってくんだよ!」


「差が出るとは、どういうことだ」


 けげんな顔をしたライアスに、オドゥはため息をついて説明した。


「僕のは後づけの知識だからさ。香料の歴史や産地、ベストな配分なんてのは、貴族階級で育ったあいつは自然と身につけている。いまごろ組みあわせをいろいろと考えているだろうよ」


 レオポルドはいつもそうだ。何にも興味がなさそうな淡々とした態度をとるが、やる気になったときの行動力は凄まじい。


「え、僕はそんな知識学んでませんけど」


 戸惑うユーリに、オドゥが指摘する。


「アルバーン公爵夫人なら、調香師に自分の香水を作らせるだろうけど、リメラ王妃はそういうタイプじゃないから、その差じゃねぇの?」


「あ、そこかぁ」


 納得したユーリに対し、ライアスは出遅れ感がハンパない。白がいいとか考えている場合ではなかった。


「俺は香水の知識も身につけないといけないのか……」


 これならずっとドラゴン相手に訓練をするほうが、まだマシかもしれない。だいぶ弱気になったライアスを、オドゥがなぐさめるようにフォローした。


「ほら、ドラゴンなら龍涎香とかあるじゃん。あと脇からでる分泌物も人気なんだろ?」


「ドラゴンの脇汗か?たしかに業者がときどき竜舎に布を回収しにくるが……」


 竜舎の敷布に沁みついた香り……香水に混ぜれば深みがでるらしいが、それはあくまで微量だ。まともに嗅いだら、竜舎で寝ているような気分で落ち着かないだろう。


 花や樹木、柑橘類のさわやかな香りとブレンドしてこそ、本領を発揮するのであって、それだけではただの動物臭とあまり変わらない。


「俺は絶対レオポルドには敵わない気がする」


 腕組みをして大きくため息をついたライアスに、首の後ろに手をやったオドゥは、眉を下げてなぐさめにもならないことを言った。


「いや……まぁ、あいつも抜けてるトコあるから」





 レオポルドは仮眠室の机に材料をならべ、長い銀髪を邪魔にならないようヒモでくくると、さっそく作業に取りかかる。


 子どもの頃はミラが調香師にあれこれと、口うるさく注文するのを、ただ冷めた思いで聞いていただけだった。


 素材からの抽出には時間がかかる。調薬ぐらいはレオポルドもよくやるから、その要領で魔法陣で調整しながら香りを取りだす。


 香りをたらした試香紙を軽く振り、風にあててその変化を書き留める。


「ふむ、おもしろい」


 風のように自由で、それでいて真っ向から向かってくる、彼女のイメージを香りで表現していく。柑橘系もいいが、さわやかな森の香りもいれたい。


「さすがオドゥだな。香水作りがこんなに心躍るものだとは」


 組み合わせは幾通りもあり、配分しだいで香りも変わる。どうすればいいのか簡単には答えが見つからない。だからこそ楽しい。


 できあがった香りをひと吹き……彼女が素肌にまとったとしたら。それを想像することさえ、罪深い空想のように感じる。けれど彼の手は止まらなかった。


(納得いくものができたら、七番街のガラス工房に香水瓶を注文しよう)


 いつもの彼を知る者が見たら、その黄昏色の瞳に宿る強い輝きに、きっと驚いたことだろう。

レオポルドが作る香り……どんなものができあがるでしょうね。

ドラゴンがいるあっちの世界の龍涎香は、こちらの龍涎香とはまったく違う物だと思われます。

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