もしもエクグラシアにホワイトデーがあったら
疲れて帰ってきて、なろうにログインする元気もないとき、よく寝転んでXで思いつくままに呟きます。
これも2023年のホワイトデーとかに呟いたもの。
『王城での仮装パーティー』なども、そうやって出来あがりました。
エクグラシアでもホワイトデーがある日、王城でもみんなが忙しそうだ。わたしはみんなの邪魔をしないように、ようすを見てまわった。
ライアスはオドゥに教えてもらって、四番街の花屋さんに大量の花飾りを注文したらしい。むせかえるような花の香りに囲まれているかと思ったら、配送まで頼んだらしく本人はのんびりしていた。
「女性に何を贈ったら失礼にならないかと考えて、花ぐらいしか思いつかなくて」
ポリポリと困ったように自分のほっぺたをかくライアスを見て、わたしは思いだした。
「そういえば、時計台のある広場でも、ネリモラの花飾りを買ってもらったね。そっかぁ、女性に贈るには無難な贈りものなんだね!」
「無難……いや、あれは……」
何だかショックを受けたような顔をしているライアスに、わたしはあのとき優しくしてもらったのがうれしくって、あらためてお礼を言った。
「ライアスもあのとき、わたしに気を使ってくれたんだね。でも本当にうれしかったよ。ありがとう!」
「いや、気を使ったわけでは……」
ごにょごにょとライアスは歯切れ悪く答えるけれど、こういうところが彼の優しさなんだと思う。わたしをちっちゃなかわいい女の子になったような気分にさせてくれる。少しだけ背のびしてでかけた、あの夏の日……とても楽しかった思い出。
「楽しかったね」
にっこりすると、ライアスは少しだけ目を見開いて、くしゃりと顔を崩して笑った。
「ああ、とても楽しかった」
研究棟ではユーリがサラサラとカードに何か書き、それを受けとったテルジオが手際よく封筒に入れて封をして、転送魔法陣に放りこむという流れ作業を続けている。
「ユーリのお返しは詩?」
「まぁそうですね。テルジオが用意した文面を清書するだけですけど」
そう言ってピラリと一枚見せてくれたカードは、赤いスピネラの押し花が紙に漉きこんである。
「わ、可愛い。王子様からこんなカードもらったらうれしいよね。どれどれ……『感謝とともにスピネラをきみに』?」
文面を考えたというテルジオが、得意そうに胸を張った。
「ふふふ。バーチェ夫人の新作をモチーフにしています。ヒーローがヒロインにそっと差しだすんですよ」
「お前さぁ、どうでもいいけど、変なトコだけロマンチストだよな」
ぶぅぶぅ言いながら、それでもサラサラと筆を走らせるユーリに、テルジオがキッと目をつりあげた。
「殿下が『めんどくさい、文面お前が考えろ』って言うからでしょう!」
「それで『リサーチのため』とか言って、目を潤ませながらロマンス小説読んでたくせに」
「あっ、今ここでそれ言います⁉」
「今じゃなかったら、いつ言うんだよ!」
何だかしょうもない言い争いが繰りひろげられながら、目の前ではステキな言葉が書かれた可愛いカードが、どんどん量産されて女性たちのところに飛んでいった……。
わたしは師団長室でのんびりしているオドゥに声をかける。彼はソラが淹れたコーヒーを飲みながら、あちこちから飛んでくるエンツをさばいていた。
何かしているわけでもないのに、彼のところには次々に感謝のエンツが飛んでくる。彼はそれを受けとって「僕もだよ」「喜んでくれてうれしいよ」「あたりまえだろ?」と短く返しては、さっさと切っている。
「オドゥはどんなお返しをしたの?」
「僕はひとりひとり違うから〜花屋のエレンにはヌーメリア特製のハンドクリームだし、劇をいっしょに観る子にはオペラグラスで、相談に乗ってほしい子にはその場でカクテルを作るかなぁ」
「器用すぎて訳わかんない……」
訳わかんないけど彼の予定は、夜までいっぱいらしい。オドゥは眼鏡のブリッジに指をかけ、中庭をちらりと見てから聞いてきた。
「それよりレオポルドに『ホワイトデーで男は別に菓子を作らなくてもいい』って教えてあげたら?」
中庭ではサラサラした銀髪を春の日差しにきらめかせながら、黒衣の魔術師団長がライアスのかまどの前にたたずんでいた。
そう、わたしもさっきから彼の存在には気づいていたんだけど……。
「そう、なんだけどね……ミトンはめてかまどの前に立ってるレオポルドがなんか可愛くて」
「たしかに可愛いな」
カードの転送を終えたのか、テルジオとやってきたユーリまでうなずく。
「可愛いですね。あんな姿が見られるとは意外です」
「うん……」
彼の手はおっきいので、実はあのミトン……わたしの手作りなのだ。デーダスから連れてきた〝妖精の銀針〟で、自分用のミトンを作ったことを思いだしながら、ソラと布地を選んでチクチク縫ってみた。
だからさ……それを使ってくれてるだけでもう!
なんかめちゃめちゃ可愛くない⁉
着るものに無頓着な彼は、帰ってきてそのままミトンをはめて、わたしのためにお菓子を作りだしたの!
止めるヒマもなかったの!
でも見守っているのもソワソワ落ち着かないし、彼のほうも見られているとやりにくいのか、「一時間ぐらいウロウロしてこい」とポイっと放りだされたから、その通りにしてたんだけど……。
ユーリは庭にいるレオポルドを見て首をかしげた。
「別にかまどの前で待ってる必要もないですよね?」
「そうなんだよね」
術式を調整すれば、火加減とか焼く時間だって設定できるはず……。
見守っていたら時間になったのか、ミトンをはめた手でかまどをパカッと開けて、焼けたクッキーを無表情に皿へ移しはじめた。
「オドゥ、これ……僕ら帰ったほうがよくないですか?」
「何で?」
「だって……邪魔じゃないですか?」
そう言ってユーリがチラッとわたしを見る。そういう気の使われかたって恥ずぃんだけど!
「へーきへーき。ここは研究棟だし、僕らがココにいることも、あいつにとっては織りこみ済みだよ」
「あ、そういうもんなんですか。そっかぁ……」
「それにあいつは本気で邪魔だと思ったら、問答無用で跳ばすから。ひとにらみで終わりだよ」
そう言ってオドゥはコーヒーのおかわりをソラに頼んだ。
おまけ①
研究棟の三階で、カディアンはもじもじしながら、持ってきた包みをメレッタに差しだした。
「あの、メレッタ……これ」
可愛くラッピングされた包みをガサガサと開け、メレッタは目を丸くしてカディアンにたずねた。
「カディアン、これなぁに?」
「そ、その……バレンタインのお返しにと思って。きみに新しいカチューシャを作らせたんだ。メニアラで織ったシルクをタクラで染めてもらった」
ツヤのあるキレイな発色のカチューシャは、メレッタがいつもつけている物より、だいぶ高級そうだ。
「ずいぶん高そうだけどバレンタインって?」
ふしぎそうに首をかしげるメレッタのようすに、カディアンはあわてて言った。
「えっ、チョコクッキーくれただろ?」
「クッキー……そういえば」
「あれは私が作りメレッタに持たせたものだ!」
「カーターさん⁉️」
二階にいるはずのカーター副団長が、いつのまにか背後に立っていて、カディアンは飛びあがった。だいじょうぶ、まだ何もしていない!
けれど副団長はギロリと目を光らせると、メレッタの手にあったカチューシャを取りあげ、ふんと鼻を鳴らした。
「お前にまで食わせる気はなかったが、お返しというなら貰ってやる!」
そう言ってガシッと頭にカチューシャをはめたものだから、カディアンは青くなって叫んだ。
「待って!それはメレッタに!」
「なんでお父さんがカチューシャをはめるの⁉️」
「うるさい、うるさい!クッキーのお返しというなら私宛だろう!メレッタにプレゼントなど百年早いわ!」
おまけその②
樹海でボソボソとヴェリガンは、祖母のフラウに相談した。
「ばあちゃん……か、彼女に何を贈ろう……」
彼女というのはヌーメリアのことで、婚約したらたがいに贈り物をしあう習慣がエクグラシアにある。アミュレットを贈ったものの、いざとなると他に何を贈ればいいのかわからない。
祖母の知恵を借りようとしたら、フラウは大きなため息をついて渋い顔で首を横に振った。
「ヴェリガン、あたしゃねぇがっかりしたんだよ」
「が、がっかり?」
「お前が蜘蛛の糸を送ってきて『布を織ってくれ』なんていうからさ、てっきり花嫁衣装だと思ったのに!」
「ば、ばあちゃんそれ……気が早」
「うるさいね、老い先短い老婆をいつまで待たせる気だい!さっさと蜘蛛捕まえてきな、今度こそ花嫁衣装作るよ!」
「い、今から⁉️」
「とっととお行き!」
「ひいぃ!」
フラウに追い立てられるようにして、ヴェリガンが樹海へ走っていき、のんびりと薬草茶をすするフラウのところに、ヌーメリアが顔をだした。
「あの……ヴェリガンは?」
「ああらヌーメリアちゃん!うちの孫のことはいいからさ、この婆とおしゃべりしようかねぇ」
おまけ③
『女性の涙をどう思う?』
ユーリ「僕はふだん見られない表情に、ちょっと興奮しちゃいますね。オドゥは?」
オドゥ「チャンス!って思うね。ふたりの距離が縮まるじゃん?」
ライアス「俺は頭が真っ白になるというか慌てるな。必死になぐさめる」
ヴェリガン「ぼ、僕はどうしたら……。な、何の力にも、なれないから……ウェッ、グスッ」
オドゥ「うわ、ヴェリガンが泣いてどうすんだよ。レオポルドは?」
レオポルド「泣きたいのなら泣かせておけ」
オドゥ「そういうけどさ、この中で一番女泣かせてんの、レオポルドだからな?」
レオポルド「…………」









