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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
2023ハロウィンSS(短編集①『錬金術師グレンの育てし者』収載)

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アミュレット作り

2022ハロウィンSSの後日談です。

対抗戦が終わって秋の終わり、デーダスに行く前ですね。

 魔女のお茶会があった翌日、アレクがトコトコわたしの所にやってきて、内緒話をするように耳元へ口を寄せた。


「ネリア、ヌーメリアにないしょで、ヴェリガンを手伝ってほしいんだ」


「ヴェリガンを?」


 ヌーメリアは工房にいる。わたしはそっと師団長室を抜けだし、アレクといっしょにヴェリガンの研究室に行った。


 するとホウメンゴケの上に敷物を敷いて、何やら植物を仕分けしていた彼が、わたしをみるなり「キャア!」と悲鳴をあげた。真っ赤になった顔を両手で覆い、そのままつっぷしてしまう。


「は、恥ずかしいぃ……」


「え、何なの。さっぱりわからないよ」


 ヴェリガンはもごもごと何かつぶやいている。


「アミュ……を……くて」


「網をくれ?」


 顔をあげたヴェリガンは涙目になっていた。わたしが泣かしたみたいじゃん!


「アミュレットを………つ、作りたくて。ヒィック!」


 こんどはちゃんとつっかえながらも最後まで言い切って、けれどしゃっくりのおまけつきだ。


「アミュレット?」


 何とかヴェリガンのしゃっくりを落ち着かせて聞いてみると、ヌーメリアのためにアミュレットというお守りを作りたいらしい。


「身につけるお守り、アクセサリーみたいなのだよ。お茶会帰りの魔女からバスケットを受けとったから、お返しをしたいんだって」


「そうなんだ」


 アレクが説明した方がよっぽどわかりやすい……。ヴェリガンは赤くなってもじもじ続ける。


「彼女が喜びそ……なデザイン……相談に乗ってほし……」


「僕、髪飾りもかわいいよねって話したけど、こういうの女の人だからさ、ネリアのほうがわかるかと思って」


 やっぱりアレクの説明の方がわかりやすい……。ヴェリガンはアミュレットの材料にするハーブを準備していたという。


「いいね!わたしもアミュレットがどんなものだか調べてみるね!」


 わたしはマリス女史にエンツを送った。





「そんなわけだから、アミュレットについて教えてほしいの」


「何がそんなわけだ」


 目の前にいる銀髪の魔術師は、せっかくの美貌をだいなしにするようなシワを、眉間にくっきりと刻んでいる。


「だってあのふたりぎこちないからさ、けっこうレオポルドも気を使ってくれたし、教えておこうと思って。それに〝魔女のお茶会〟にもくわしかったし」


「塔は魔女だらけだからな」


 ため息をひとつつき、レオポルドは黄昏色の瞳でじっとわたしを見つめてたずねてきた。


「お前もアミュレットがほしいか?」


「へ、なんで?」


 聞き返して思いだした。わたしもこいつにボッチャのお菓子、差しいれたんだ!


「あ、昨日の夜に差しいれたお菓子のお礼なら、気にしないでいいよ。ちょっと体験したかっただけだし」


 気軽に答えたらレオポルドの顔色が変わった。


「まて!」


 ……ガタン!


 ……バタン!


 レオポルドが叫ぶと同時に、バルマ副団長が椅子の音を立てて勢いよく立ちあがり、マリス女史も師団長室のドアから飛びこんできた。


「いまの話は本当ですかっ⁉️」


「ネリス師団長からバスケットを……⁉」


 ふたりとも血相を変えてレオポルドにつめ寄り、彼は苦虫をかみつぶしたような顔になった。


「……お前たちが思うようなことはない」


「でも召しあがられたんですよね。ネリス師団長!」


 キッと眉をあげたマリス女史が、わたしをふりかえる。


「ひゃいっ!」


「ちょっと体験したかった……って。いくらウチの師団長が相手でも、もっとご自分を大切にしてください。その後お体に変わりはないですか?」


「うん、だいじょうぶ。そのあと居住区に帰ってぐっすり寝たし」


 ボッチャジュースでほわほわとしたいい気分だったけど、お酒を飲んだわけじゃない。二日酔いみたいなこともなかった。そう思って答えると、マリス女史はジロリとレオポルドをにらんだ。


「朝までいっしょにいて差しあげなかったんですか?」


「頼む。本当にこいつはわかってないだけだ」


 レオポルドは頭痛でもするかのように、自分の額を押さえて力なくうめく。


「や、押しかけたのわたしだから。それにレオポルドは食べるだけじゃなく、わたしにクッキーサンド作ってくれたし」


 おもてなしだってちゃんとしてくれた。押しかけた割には親切な対応だったと思う……と必死にフォローすれば、マリス女史とバルマ副団長はさらに目を見開いた。


「お返しまでされたんですか⁉️」


「ガチじゃないですか!」


「お前はもうよけいなことを言うな!」


「えっ、何⁉」


 マリス女史とバルマ副団長は眉をよせて、わたしとレオポルドの顔を交互に見くらべ、それからふたりで顔を見合わせると大きくため息をついた。


 バルマ副団長は苦笑いしてレオポルドに告げる。


「あー……アルバーン師団長、来年の〝魔女のお茶会〟までにはきちんと説明してあげた方がいいですよ。なし崩しに事を済ませなかったのは、ほめてあげますが」


「こいつが訪ねてくるとは思わなかった」


 レオポルドが憮然として答えれば、気を利かせたマリス女史がさっと話題を戻した。


「そうですね……アミュレットでしたか、いくつか図案をお持ちしましょうか」


「お願いします!」


 そのままわたしは塔の師団長室で、アミュレットの図案を見ながら、レオポルドから講義を受けることになる。


「アミュレットは魂を守るもの、魔除けでもある。ヴェリガンの故郷はサルジアとの国境に近い。呪術や死霊使いにもなじみのある土地だ」


「護符とはちがうものなの?」


 首にさげたグレンの護符にふれながら質問すれば、レオポルドはうなずいた。


「似ているがちがう。アミュレットは死霊使いが使う呪具が元になっている。もともとは死者の魂を、悪しきものから守るための埋葬品だ」


「えっ、埋葬品⁉」


「使う術が特殊であまりいいイメージがないが、死霊使いの役割は生者と死者をつなぎ、死者を守ることだ。アミュレットを贈るのはヴェリガンの故郷では習わしなのだろう」


 レオポルドは目を伏せて、図案のページを一枚一枚めくっていく。


「相手の一生を……魂までもふくめて守る、という決意をあらわすものだ。生者が身につければアクセサリーとなる。その者に近しい者が作り、肌に直接つけた方が効果が高い」


「じゃあ、相談されたわたしも責任重大だね。わ、いろんなデザインがある。指輪にブレスレット、それに首飾り?」


「身につけられるなら何でもいい」


「それならアレクが提案した髪飾りも入れてもらおうかな。ヌーメリアは灰色の髪があまり好きじゃないから。それとペンダントはいつも下げているから、ブレスレットとかどうかな」


「色石を使うなら、指輪や耳飾りなども華やかですよ」


 マリス女史の提案に、わたしは首を横にふる。


「ヴェリガンは植物で作るつもりなんだって。彼の魔力が乗せやすいから、色のちがうハーブを準備してた。指輪や耳飾りだとかさばるかも」


「さすがは〝森の王〟ですわね。ならば伝統的な古い図案もありますよ。素朴だけれど躍動感がありますね」


「いいね!」


 わたしはマリス女史に手伝ってもらい、虫をかたどったものはやめて、花や鳥をモチーフにした髪飾りとブレスレットの図案をいくつか選ぶ。


「これであとはヴェリガンに決めさせよう。魂までも守るという決意かぁ。ステキだね、憧れちゃうなぁ」


「お前……自分はいいのか?」


 ふとレオポルドが聞いてきた。


「何が?」


「師団長ともなれば縁談も舞いこむ。国王に頼めば身元のたしかな相手とて紹介してくれるだろう。だれかと添いとげようとは思わないのか?」


「わたし、そんなガラじゃないもん。師団長やるだけで精一杯だし」


「…………」


 無言になったレオポルドに、わたしは言葉を重ねた。


「このままで、じゅうぶんだよ」


 住めるところがあって、おいしいものが食べられて、身分も保証されている。イヤなことがあればライガでひとっ飛びすれば、たいていのことは忘れられる。


 レオポルドは息をつき、広げていた図案を取りあげた。


「師団長ならばアミュレットも権威を感じさせるものがいい。若い女性なら華やかさもほしい。シンプルでも色石を使い、極小の魔法陣を刻む。グレンの護符にライガの腕輪があるから、耳飾りか指輪だ」


「錬金術をやるとなると、指輪は外しちゃうかなぁ。つけてると邪魔なんだよね。イヤリングは耳たぶが痛くなるから、長時間つけると頭痛がしちゃうの」


「……そうか」


 小さくつぶやき、彼は図案をパタリと閉じて、マリス女史に渡した。


「後でもういちど見る」


「かしこまりました」





 ヴェリガンが選んだのは、二羽の小鳥が赤い実を運ぶかわいらしい図案だった。


 寄り添う小鳥は〝相愛〟、実は〝豊穣〟をあらわすらしい。未来を築いていくふたりにはピッタリじゃない?


「ふふっ、ヴェリガンうれしそうだね」


「ネリア、だれかを幸せにできるって……うれしいよ。それが好きな相手なら……なおさら」


 さっそくハーブを編んでいく彼の横顔は、わたしから見ても何だかカッコいい。しばらくヌーメリアにはないしょだね、とふたたびアレクとささやきあう。


 ヴェリガンが手を動かしながら言葉を紡ぐ。


「僕は……ずっと迷惑をかけないように……ってそればかりで。だれかを自分の力で幸せにするなんて……考えたこともなかった。そんなこと……できないと思ってたし」


「ヴェリガンは自信がないだけだよ」


 こくりとうなずいて、ヴェリガンがアレクの頭をなでた。


「アレクが教えてくれた……『ヴェリガンはすごい』って。それに『ヌーメリアはこうすれば喜ぶ』とか、彼女が困ってることとか……いろいろ」


「アレクが?」


「へへっ、僕の作戦勝ち!」


 おどろいてアレクを見れば、ニカッと笑ってガッツポーズを決める。


「僕はさ、ヌーメリアやネリアがいくら親切にしてくれても、王都でどうしたらいいかわからなかったからさ。ヴェリガンの世話をするのがちょうどよかったんだ」


「うっ」


「だって僕から見てもどうしようもない大人なんだもの。朝は起きられないし、ご飯だってちゃんと食べないし」


 ひとつひとつアレクが欠点を挙げていくと、ヴェリガンの背が縮こまった。


「でもさ、ヌーメリアを幸せにしてくれるなら、どんな大人でもよかったんだ。あの日僕を助けてくれた彼女を幸せにする仲間なんだよ」


 ふたりは拳と拳をコツンとぶつける。


「アレクの……アミュレットも……作る」


「えっ、あ……わたし、髪飾りとブレスレットのデザインしかもらってないや」


「だいじょうぶ。僕と……おそろいで作るから」


「カッコいいのじゃないとやだよ」


 アレクの注文にわたしとヴェリガンは笑った。元はアトリウムだった研究室には穏やかな午後の日が注ぎ、樹々が金色に色づく。夏にはあれだけ飛んでいた月光蝶も姿を見せない。


 秋の終わりと同時に冬がやってくる。冷たい風が吹きすさぶデーダス荒野とはあまりに違う光景に、わたしはちょっとだけグレンとの暮らしを思いだした。

ネリアの考えがどうであれ、このときにピアスのデザインは決まり、塔のふたりにはレオポルドが本気だということが伝わりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴェリガンとアレクの関係が素敵ですね。 子どもでしかないアレクの「お世話」を拒絶することもできたのに、それを受け入れることで居場所を作ったり、ヌーメリアに関する助言に耳を傾けたりできるヴ…
感想一覧
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