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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
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製本師ダイン

長くなるので書籍では割愛したシーン。

『魔術師の杖』7巻に登場する書籍オリジナルキャラの製本師ダイン。二番街にあるミネルバ書店で働いています。

書籍にしか登場しないため、なろうではなくX(旧Twitter)に載せましたが、文章が読めなくなったら困るのでこちらにも投稿しておきます。

 ミネルバ書店の三階で、レオポルドはかけていた速読眼鏡を外すとひと息ついた。速読眼鏡は信じられない速さでスイスイと本が読める魔道具だ。


 あっちの世界で通販したら絶対バカ売れしそう。受験生だって、大量の積ん読本を抱えているラノベマニアだって、大喜びだろう。


 スゴい機能だと思うけど、オドゥの眼鏡よりは単純な機構らしい。いやいやいや、速読という時点で視神経や脳への信号伝達を司る、謎のピピピ電波が発せられているよね⁉️


 レオポルドが外した眼鏡をにらむように観察していたら、彼は長い脚を優雅に組んで首をかしげた。さらりと肩に流れる銀髪のきらめきに目を奪われそうになる。


「ほしいのか?」


「あ、いやそんなことは……」


 眼鏡をかけるレオポルドを多少カッコいいと思ったのは事実だけど、それがほしいわけじゃない。わたしには似合わないし!


 本を読み疲れたのか、レオポルドは物憂げに指摘した。


「お前には眼鏡は必要なかろう。スゴい勢いでページをめくっていた」


「へ?そう?」


「さっきからスタッフが三人がかりで対応してますよ」


 積みあげられた本を片づける製本師のダインも苦笑している。なんと彼の他に、本を探すのと片づけるのと、それぞれ別のスタッフが動いているらしい。本に夢中になり過ぎた自分を反省する。


「ごめんなさい……」


「お気になさらず。納得のいく本を選ぶための試し読みですから」


 試し読みが豪華すぎるよ!


 製本師ダインはミネルバ書店にある本だけでなく、世界中の本に詳しいため、レオポルドがここに来る時は、いつも指名しているスタッフだという。


 あくまで製本師であって、接客担当じゃないそうだけど。レオポルドなら質問攻めにするだろうから、きっと引っ張りだされたんだろうなぁ。


 そしてダインにもちゃんと野望があった。スタッフに指示をだしながら、彼はレオポルドに話を持ちかける。


「ぜひレオポルド様には本を書いていただきたいですね。ベストセラー間違いなしです」


「断る」


 レオポルドの返事はにべもないが、彼は諦めない。


「そうおっしゃらず。『魔術師団長の一日』とかフォトブックはどうです?記者が一日張りついて時々ポーズをとるだけです。原稿を用意する手間もありません」


 うわ、ぜったい嫌がりそう。思った通りレオポルドは渋い顔でため息をつき、わたしにささやいた。


「そういう浮ついた所がなければ……いい職人なのだが」


 製本師のダインはそれに抗議する。


「大事なことでございますよ。『伝えたい』という情熱がなければ本は作れません。何しろ手間のかかる作業ですから」


 迷惑そうなレオポルドにはおかまいなしに彼は続ける。


「レオポルド様のフォトブックならスタッフも張り切ります。術式のミスが許されない魔術書より気楽に作れますし」


「や、わたしもちょっと見たいかも」


「ですよね!」


 意気投合したわたしたちを、レオポルドはものすごくイヤそうな顔で交互に見た。


「私のフォトなど王都新聞にもよく載っているだろう」


「そういうんじゃなくて、日常のひとコマとか使っている小物とか、そんなのが見たいんだよ。人柄がうかがい知れるじゃん」


「さすがネリィ様、よく分かってらっしゃる!」


 ダインは調子よくあいづちを打つ。


「……お前も見たいのか?」


「へ?」


 レオポルドがずいっと身を乗りだして、真顔で迫ってきた。


「私の日常のひとコマとやらを、お前も見たいのかと聞いている」


「えと……」


 わたしが助けを求めるつもりでダインを見ると、彼はさっと背中を向けて気配を消し、本を片づけに行ってしまった。


 待って!立ち去りかたもプロすぎでしょうよ!


「どうなんだ?」


 ダインを見送るわたしの後ろから、低い声が響いてくる。不機嫌大魔王とわたしを二人きりにしないでください!


 ダラダラと汗をかくのは空調の魔法陣が効きすぎているのかもしれない。わたしは必死にこの場をどう切り抜けるか考えた。


「ええと、まずは自分たちで撮ってみたらどうかな、日常のひとコマ」


「自分たちで?」


「そう!デーダスにフォトを持っていくから、あちこちで撮ってみない?思い出になるし!」


「思い出……」


 ふっと遠い目になった彼に、わたしは一生懸命説明した。


「記者の人に張りつかれても、きれいに撮ってもらえたらうれしいなって思うし。わずらわしかったら自分たちだけで撮ればいいんだよ。そうしたらフォトブックがどうして人気なのか、レオポルドも理解できるんじゃない?」


「…………」


 どうだろう。無言になったレオポルドをドキドキしながら見守っていると、彼はふいに黄昏色の瞳でわたしをまっすぐに見た。


「そうか……私が知る姿とフォトがとらえる姿はまた違うかもしれん。それを見るのもまた一興というわけか。よかろう」


「へ?」


 レオポルドはなぜかひとりで納得すると、本を調べるために再びダインを呼んだ。


 何だかよく分からないけれど、フォトブックをいくつか持ってこさせていたから、彼もたぶん興味を持った……のかな?

ネリアがメレッタに使い方を教わったフォトは、7巻では小道具として活躍します。

製本師ダインの登場シーンは公式サイトの7巻試し読みでバッチリお読みいただけます。試し読み部分はほぼ書き下ろしです。

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