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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
4巻発売1周年記念SS カイ、王都へいく

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3.バーナード・スミスの店

【バーナード・スミスの店】

最初から設定にはあった五番街の紳士服店。ジョシュという名の助手もいます。

 バーナード・スミスの店で服を用意してもらい、それに着替えたカイは驚くことにわりとさまになっていた。


 褐色の肌に澄んだエメラルドグリーンの瞳、同じ明るい色彩の髪をワイルドに束ね、海で鍛えた筋肉は柔らかくていびつに服を盛りあげることもない。


 むしろ胸板の厚さは海の男らしく堂々としていて、耳に下げた黒真珠のピアスや黒真珠と珊瑚をあしらった腕輪は、王都の盛り場で遊んだら話題になりそうだ。


 カイは鏡に映った自分の姿をみて、満足そうにヒュウと口笛を吹く。


「このまま海に飛びこめないのはなんだが、王都の服も悪くねぇな。もっと重たいかと思ったのに肌ざわりもいいし、動きも邪魔しねぇ」


「当店で最初からあつらえていただければ、もっと動きやすくお作りすることもできますよ」


 ササッと裾あわせをしながら、店主のバーナードが顔をあげた。カイはそれに生返事をしながら、自分も着替えてあらわれたレオポルドに視線を走らせた。


「あーうん、またこんどな。お前も辛気くせぇローブは脱いだんだな」


 魔術師団長の黒いローブは正装にもなるが、街の盛り場にあらわれるには重々しく、カイのいうような「王都でパーッと」に向くものではない。


「あれは仕事着だ」


 辛気くせぇといわれたレオポルドの眉間にまたぐっと深くシワが寄り、せっかくのキラキラ衣装をだいなしにした。


 彼もまた見惚れるようなスタイルで、光沢のある生地は色味をおさえた灰色だが、光があたればシルバーに輝く。


 術式がほどこしてあるローブを脱いだぶん、身につける護符が多くなってつまり……レオポルドもいつにも増してキラキラとしている。


 カイはレオポルドのしかめっつらに首をかしげた。


「なんだぁ?王都ってのはそんなおもしろくないところか。だったらお前もマウナカイアにきて波に洗われるんだな。怒ってたことなんてどうでもよくなるぜ?」


「店主、いくらだ」


 ちゃめっけたっぷり話しかけられたことを完璧に無視して、レオポルドがふたり分支払いを済ませると、カイはニコニコして礼をいう。


「やー悪いな、昔グレンにメシを食わせたことがこんな形で返ってくるなんてよぉ」


「……メシ?」


 どうやらカイの中ではレオポルドが、彼に恩返しをしたことになっているらしい。


「心配すんな、足りねぇぶんは俺の体で払うし。お前のメシも作ってやるよ」


 マウナカイアでは助け合いは当たり前だ。何かしてもらったら海に潜って魚を獲り、パウアの実やサラーグを採って持っていけばそれでチャラだ。


「断る」


「そう言うなって。こう見えても俺は料理うまいんだぜ、ネリアも喜んで食ってたし、しばらくお前の家でメシ当番してやるよ」


 どうやらそれが宿代になるらしく、滞在先はレオポルドの家……つまり居住区になるようだ。


 銀髪の男は衝撃を受けたように絶句して固まったが、もともと無表情だからその変化はわかりにくく、初対面のカイはまったく気づかない。


 ネリアが喜んで食べていたというのも気になるが、カイを家に泊めるなど絶対にイヤだ、何がなんでも満足して帰らせる……レオポルドがひそかに決意を固めたところで、五番街の店には今回招集されたメンバーが集まりはじめた。





 まずやってきたのはオーランド・ゴールディホーン、第二王子筆頭補佐官だ。


 いつも何かしらの用意はしてあるのだろう、王城勤めのときとたいして変わりない黒っぽいスーツ姿だが、生地は夜の街にふさわしい光沢があり、白いシャツにエレガントなタイを合わせ、真っ白なマフラーを首にかけている。


 カイはオーランドをみてパッと顔を輝かせ、次の瞬間には動いていた。


「オーランドじゃねぇか!」


 ガキイッ!バシッ!ドカッ!


 店主のバーナードがビクッとしたが、そのぐらいでほころびるような生地ではない。あいさつ代わりの拳もみごとに受けとめながら、オーランドは銀縁眼鏡をキラリと光らせて冷静に告げた。


「カイ……手合わせなら望むところだが、くるなら事前に連絡をよこせ」


「悪ぃ、悪ぃ。ふらりと来ちまった。いいな、楽しくなってきたぞ!」


 そして竜騎士団長のライアスはひとりではなく、ベテラン竜騎士のレインを連れてあらわれた。


 ふたりともミスリル甲冑でもなく騎士服でもなく、夜の街で浮かない格好をしているが、鍛えた筋肉は服の上からでもはっきりとわかり、逆に存在感そのものが目立つ。


 袖口からのぞく白い袖には、ドラゴンをあしらったカブスボタンがキラリと光っている。


「海王子を知っている者がいるほうがよかろう。マウナカイアで面識のあるレインにも声をかけた」


「すまない」


 ライアスの気遣いにレオポルドが素直に感謝すると、紺色の髪をしたレインはやはり ガキイッ!バシッ!ドカッ!……と、あいさつ代わりの拳をカイと交わす。


「や、なんで俺……と思ったが、カイがきてたのか。ひっさしぶりだなぁ」


「よぉ、竜騎士のおっさん!」


「俺とは初対面だな。ライアス・ゴールディホーン、竜騎士団長をしている」


「ってことは、レインにとってのポーリンみたいなもんか。俺はカイ・ストローム・カナイニラウ。カイでかまわねぇ」


 ガキイッ!バシッ!ドカッ!


 あいさつ代わりの拳も、ライアスはさわやかな笑顔とともに受け止めた。


 アマリリスを騎竜に持つレインと、第二王子筆頭補佐官をつとめるオーランドはマウナカイアでカイと会っている。


 レインはベテラン竜騎士だし、不測の事態にも冷静に対処するだろう。


 オーランドは王城勤めの文官から第二王子筆頭補佐官にも選ばれるぐらいだ、不測の事態にも……以下略。


 そしてカイとレオポルドのどちらが何かやらかしてもそれを抑えられる男、竜騎士団長のライアス・ゴールディホーンもいる。


 この場合はレオポルドも、何をやらかすかわからないとみなされていた。


 実際に彼は同級生ともめて教室を半壊させたり、氷漬けにしたりした過去があるためしかたない。


 炎の魔術師が精霊のような静かなたたずまいとは裏腹に、ケンカっ早い血気盛んな男であることは、この場にいるだれもが知っていた。


 なぜかこの男は内面に炎が燃えあがるときは、バランスをとるためか周囲に冷気が満ちる。


 だから無表情なわりにわかりやすいけれど、初対面のカイはそれに気づかなそうだ。


 できたら飲み会は修復の魔法陣や各種防壁がしっかりしている、魔術学園でやりたいぐらいだ。


「で、どこにいく」


 エクグラシアを守護する双璧、竜騎士団と魔術師団双方の師団長、ベテラン竜騎士、オフとはいえ第二王子筆頭補佐官も交えて、遮音障壁の向こうで緊急会議だ。


 レオポルドは眉間にぐっとシワを寄せたまま、今回の方針をみなに伝える。


「あいつが満足するまで本気でもてなす」


 それをする目的はただひとつ。


「だから、さっさと帰ってもらいたい」


 竜騎士団長、ベテラン竜騎士、武闘派系のガチムチな文官……三人の屈強な男たちがそれぞれに、それを聞いて「うーん」とうなった。

「で、どこにいく?」アンケート結果。

1.ガード下の居酒屋っぽい店でワイルドオヤジ風に。……5票

2.やっぱ踊ってパーリィナイトやろ。……1票

3.カジノとか会員制のヤバめな場所。……2票

4.こんだけ筋肉がいるなら闘技場に決まってる!……4票

5.竜騎士団でタコパしようぜ。……1票

1位居酒屋となりました。2位闘技場……惜しい!

ご協力ありがとうございました!

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