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暗殺者キリヤのパンツ集め  作者: まさかミケ猫
三章 暗殺者の帰還
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魔術師とタイツ

 床に描かれた魔術陣は青白く光っている。

 その上に寝転がっている魔術師アズサは、半球状の結界網に覆われていた。結界の網目はせいぜい10センチほどで、人が侵入することはできないだろう。


 現在の時刻はまだ昼過ぎである。

 この頃の彼女は昼夜逆転の生活をしており、怪盗パンコレが襲ってくるだろう深夜には必ず起きているようにしていた。


 バチッ。

 紫電が走る。


 不運にも結界網に引っかかってしまったネズミは、迎撃用の魔術によって消し炭のようになる。周辺には、虫や小動物の焦げた死骸がそこかしこに転がっていた。


「むにゃ……ねみゅい……」


 アズサは焦げたネズミをチラリと見ると、置いてあったヘッドホンを手に取る。これは防音用の魔道具であり、本格的に寝に入る際に着用しているものであった。


 彼女がヘッドホンを着用しようとしているところへ、突然ドタドタと慌ただしい足音が部屋の中に入ってきた。


「アズサ殿、起きてくれ、アズサ殿!」


 そう叫んでいるのは、ユニコーン騎士団の団長をしている女騎士ウォルターであった。


 彼女はアズサの結界に躊躇なく踏み込む。

 当然のごとく紫電が走り、彼女のことを焦がそうと襲いかかる。


「ふぉおおおおおおおおおおお、痛気持ちいい」

「……私の結界で性癖を満たすのはやめて」

「――ふぁ? なんだ、もうお終いか」


 紫電が消えると、ウォルターはつまらなそうに呟く。

 そもそも一般人では痛気持ちいいと感じる前に天に召される威力なのだが、彼女にそんな常識は通用しないらしい。


 二人はそれなりに気心の知れた関係である。

 というのも、ウォルターが嫁にいったのはアズサの従兄なので、二人は親類関係になるのだ。職場でも親族の会合でも、なにかと顔を合わせる機会が多い。


「で、ウォル姉。どうしたのさ? 寝ている私を起こすほどなのだから、よっぽどの大ニュースなんだろうねぇ」

「そうなんだ、聞いてくれ!」


 ウォルターは鼻息荒く胸を張る。


「オッカー商会の開発していた就寝用タイツが、ついに完成したのだ! たった今、ソルティ嬢が大興奮で駆け込んできてな」

「へぇ……クヒヒヒヒヒ、出来たんだアレ」

「あぁ、さっそく現物を持ってきた。アズサ殿はまだパンツを盗まれていないからな。これを着用して寝るのがいいだろうと思って」


 そう言うと、ウォルターは持っていた包みを開けて一枚の布を取り出す。それは、極薄の布地で作られたタイツであった。手触りもよく、確かにこれなら熱が篭もることもないように思われる。


 その素材や工法が気になるアズサは、事件が一段落着いたらコレを切り裂いて研究してみようと密かに心に決めながら、ニヤニヤとそれを受け取った。


「クヒヒヒヒ。感謝するよ、ウォル姉」

「気にするな。アズサ殿と私の仲だろう?」

「ん。じゃあ私は本格的に寝るから。また夜に」


 そう言って、アズサは着ていたローブなどを全て脱ぎ去り、パンツ一枚のみの状態からネグリジェとタイツを身に着けていく。枕を抱えると大きく欠伸をして、再び魔術陣の中央へと向かっていった。


 ウォルターはその様子を見守りながら、キラキラした目をアズサに向ける。


「アズサ殿。迎撃術式を起動するのか?」

「……ダメだよ」

「ダメか……残念だ」

「そういうのは家で旦那とやりなよ」


 そう言ってウォルターを部屋から追い出すと、アズサは魔術陣の各所に順番にマナを込め、結界網を完成させる。再び大きな欠伸をして、枕を置いて寝転がった。




 キリヤがその部屋に侵入したのは、窓から差し込む日も少し陰ってきた頃だった。薄暗い部屋の中にアズサの規則正しい寝息が響く。


(……あれが噂になっていたタイツか)


 見れば、アズサはしっかりとタイツを着用している。快眠している様子を見ても、確かにこの状態でパンツを盗むのは難しそうである。


 キリヤはふぅと息を吐く。

 この件については以前から対応策を考えてはいたが、実際に試すのは初めてだ。上手くいくのか、正直に言えば自信はなかった。


(やってみるしかないな……)


 首に巻いた黒布にマナを込めて薄く伸ばしていくと、結界網の隙間に差し込んでいく。そして、その黒腕でもって、タイツにピッタリと沿うように彼女の下半身全体を包んだ。


 ここから強引にタイツごとパンツを脱がせようとしても、どうしても気付かれてしまうだろう。もちろん今後研鑽を積んでいけば、絶対に不可能だとは言わない。ただ、今のキリヤには難しいと言わざるをえない。


(だから、これが最適な手段……)


 そう考えながら、ひたすらその時を待った。



 どれだけの時間が経っただろう。

 黒腕で包んだ彼女の下半身から、蒸れた熱気のようなものを感じる。そして、彼女は小さく身じろぎすると薄目を開けた。


「……ダメだね……これは欠陥……品……」


 下半身が蒸れて気持ち悪いのだろう。

 アズサは不快そうに呻きながら、寝ぼけ眼のまま下方に手を伸ばす。そして、彼女がタイツに手をかけた瞬間――


(キリヤ流・奪パン術。拾壱ノ型(じゅういちのかた)――〈忠犬(ちゅうけん)〉ッ!)


 キリヤは彼女がタイツを脱ぐ動きに合わせ、黒腕でパンツを抜き去った。


 この「忠犬」の型は、ターゲットの動きをキリヤに都合の良いように誘導し、それに合わせてパンツを抜く技である。今回のようにタイツを着用している者など対し、自らそれを脱ぐよう仕向ける目的の型であった。


 結界網の隙間からパンツを回収する。


(……奪取完了。次のターゲットに移る)


 真空パックを背中に仕舞うと、キリヤは音も立てずにその部屋を後にした。残るターゲットはただ一人、歌姫シローネである。


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