ベントの為に
さっきはパネルの強度が低くてひしゃげてしまったから、もう少し厚目にしないとな。
ひしゃげたパネルを元の塊に戻して、また風船のように膨らませて・・・
さっきは厚さ1cmくらいのだったからな、今度は2cmくらいにして厚くする
長方形のパネルに・・・
ふう2回目だと早めに作れたな。
うにょんと穴を空けて指入れて中が空洞になってるのを確認したら、中の空気を吸い出す、吸い出す、もっと吸い出す
もっともっと・・・
今だ!
穴をうにょんと閉じる
出来た!今度はひしゃげ無かったけど、本当に真空になったのかな?
確認のしようが無いな。真空になってると信じるしかない。
【魔力】60/85
やっぱりさっき作ったより魔力の消費が少ない。残りの魔力で5面パネル作れるだろうか?
念の為にポーションを横に置いておこう
5面パネルは蓋のない箱形だ。
大きい方の固まりを大きく膨らませていく。
これを箱形に押し潰していく。大きさがさっき作った蓋用のパネルと合っているか合わせてみる。
少し大きいからもう少し小型に・・・
お、ぴったり出来た。
うにょんと穴を空けて中を確認してから空気を吸いだす 吸い出す
・・・・
まだまだ吸えそうだな。そりゃさっきの5倍くらい大きいからな。
吸って 吸って 吸って
もう無理そうだな。穴を閉じる
5面パネルも出来た
【魔力】5/85
ぎりぎりポーション飲まなくて済んだようだ
やりきった達成感と集中し切ったせいでくたくただ。ちょっと草むらで寝転がろ・・・
「おい、ゲイルちょっとこっちへ来い」
アーノルドが呼びつける
聞こえ無かったふりして寝転が・・・
むんずと掴まれて連行された
「ゲイル、お前はベントが剣折ってるところ見てたよな?」
いいえ見てませんでしたとは言いにくい雰囲気だな。しかし、見ていないものは見ていない
「見てなかったけど、想像はつくよ」
「何?」
「ベントには剣の振り方に癖があるんだよ」
自分が稽古を始めてから気付いたのだ
「どんな癖だ?」
「他に気を取られて剣がブレる。意外に振り終わりにね」
「振り終わりに?」
「こう、まっすぐ振り下ろすまではいいんだけど、最後に左側にこねるようになるんだ」
「お前、そんなとこまで分かったのか?」
「素振りは毎日見てたからね」
「旦那様、ベント様は左手の使い方が上手くないんじゃないでやすかね?利き手の右だけで剣を振るとそうなりやすいっス」
おい、ダン。っスてなんだよ
「な、なるほどな」
「利き手じゃ無い方は慣れるまで意識して使わないと利き手だけで剣振りやすから」
「そ、そうだな」
無意識に両手を上手く使っているアーノルドにはピンと来ていないようだ
「意識的に左手を使えるようになるまで、軽い剣を左手だけで素振りさせてみるか」
「ジョンぼっちゃんの試験が終わるまで左手で素振りさせて、試験が終わったら両手の素振りを旦那様が見て矯正していけばなんとかなるんじゃないかと思いやす。後は自主稽古をさせないことっス」
「ダン、ゲイルありがとう。ベントをなんとかしてやれそうだ。ジョンの試験が終わったら、ベントを集中的に見てやろう」
良かったなベント。もう少しでかまって病が満たされるぞ
「じゃ、父さんがここに来た理由は解決したから仕事に戻った方がいいんじゃない?」
とたんにアーノルドは捨てられた犬みたいな顔をした。
宿題が終わってない友達に帰った方がいいよと言った時みたいだな
「いや、せっかく来たんだから魔法の練習してから帰る事にする」
あ、帰ったら死ぬほど怒られる道を選んだな。
ファイヤボール無しの火魔法をだぁーっ!だぁーっ!と言いながら練習するアーノルド。ここから見ているとおっさんがただ、ただ、森で叫んでいるだけに見える
知らない人が見たら近寄らないだろう
「おい坊主、例の物は出来たのか?」
ミゲルがいぶかしそうな顔で聞いてきた
「多分だけどね」
「多分?どういうこった?」
完成した真空?パネルを見せる
「ただの金属の箱じゃねーか?それに蓋は乗せるだけか?」
「後は親方に木の箱を作ってもらってこの金属の箱を中にはめるんだよ」
「それを早く言えっ!」
あ、真空?パネル持ってった
しばらくしたら戻ってきた
「ほれ、出来たぞ!」
仕事早ぇなオイ
おぉ、蓋もきちんとパネルが埋め込められてるな。
「これで一応完成だね。後はどれくらい保温出来るか検証しないと」
「どうやるんだ?」
「木だけの箱とこのクーラーに同じ大きさの氷入れて、明日、中身確認したらどれくらいの差があるかハッキリするよ」
「ちゃんと分かるのは明日か?」
「そうだよ」
ちっ
舌打ちしたミゲルは同じ大きさの木箱を早速作った。
「じゃ、氷いれるね」
水をどんどん冷やして氷の塊にして中に入れる。0度以下で水が凍ることを理解していると氷魔法は意外と簡単だ。使える人少ないみたいだけど。
「明日が楽しみだね」
「上手く出来てなかったらブン殴るからなっ!」
な、なんでやねんっ!
おっといかん、いかん
「一発で成功するとは限らないから殴るのは無しだよ」
「冗談じゃ」
ミゲルが言うと冗談には聞こえない
ダンがベントの左手用の軽くて長めの剣を作り終えてこっちに来た
「ずいぶん長い剣だね」
「剣が長いとこねた時にわかりやすいんだよ。まっすぐ振り下ろす癖を付けるにはちょうどいいんだ」
よく考えてるな。というかこういう稽古をさせられてたのかもしれないな。
「そ、そろそろ帰らねば・・・」
悔しそうな顔でアーノルドがやって来た。どうやらファイヤボール無しの魔法は出来なかったようだ。
染み付いた魔法のイメージを取る方法があるといいんだけどね。
帰り道に商会へ寄って試作品が出来て、今検証していることだけを伝える。クーラーであることはまだ内緒だ。酒冷やして持ち歩けると言ったら今持って来いとか言い出し兼ねないからな。
じゃ、また明日といって屋敷の前でミゲルと別れた
振り向くと
「アナタ、お帰りなさい」
ニッコリ微笑むアイナが出迎えてくれた




