人生の転機
アーノルドとダンがベントの稽古方法に頭を悩ましているころ、ベントの部屋では・・・
「ベント様、どうかされましたか?そんな落ち込まれて」
学校から帰ってきたベントにサラが尋ねる
「別に」
ボソッと答えるベント
(ベント様が落ち込まれるのはよくあることですが、今日は一段と落ち込まれてますね)
「ベント様、学校で何かありましたか?」
「別になにも無いって言ってるじゃないかっ」
大声で言い返すベント
(こんなに声を荒げて言い返してくるベント様は初めてですね。これはきちんと聞いておかねばなりません)
「そういう訳には参りません。このような状態でお勉強しても身に付きません。私はいつでもベント様の味方でございますから、正直におっしゃって下さい」
「僕の・・味方・・・」
「そうです。私はいつでもベント様の味方でございます」
そう言われて今朝の稽古のことをポツリポツリと話し始めた
「そのような事があったのですね」
コクリと頷く
「わざと折れやすい剣を渡されたのですね?」
「剣が正しく振れていれば折れないからって」
「ベント様は騙されているのでは無いですか?」
「父さんが僕を騙す?」
「それに闘気というものをジョン様だけに教えられたわけですね?」
「まだ早いし、来年騎士学校を受けるなら教えると言われた」
「ベント様は騎士学校を受けると旦那様にお伝えしたのですか?」
「わからないと言った」
「ベント様は騎士になりたいのですか?」
横に首を振る
「では騎士学校を受けるわけではありませんね。ということは旦那様は闘気とやらを元々教えるつもりが無かったということになります」
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
「旦那様は元凄腕の冒険者なので、後継者を剣の腕で決めようと考えていてもおかしくありません。既にジョン様を後継として考え、ベント様に諦めさせようとしている可能性があります」
「それなら僕も騎士学校に・・・」
「ベント様は剣でジョン様に勝てると思っていますか?」
「それは・・・」
「相手が得意な事で勝負を挑むより、自分の得意な事で勝負を挑む方が勝利することが容易くなります」
「それにベント様が成人なさる頃には今みたいに剣の腕だけで領地を治めるのは無理があります」
「領主に必要な能力はいかに税を徴収するかです。こう言っては何ですが旦那様は領地経営に関して素人です。冒険者ギルドが依頼者と冒険者から取る取り分と同じ率になるように設定されていますから、領地の税率としては異常に安いのです。何も考えずに冒険者感覚で税率を決めたのではないでしょうか?それが証拠に税が足りない時はご自身のお金を出されてますから」
「父さんが素人・・・」
「はい、冒険者気質が抜けきらない旦那様と奥様は職人風情に子供を坊主呼ばわりされてもなんとも思っておられません。他の領地で平民がそのような口を領主一族にした場合、無礼打ちにされてもおかしくないのです」
「平民に舐められないこと、税をより多く徴収すること。これが次の領主に求められることなのです」
・・・・
「旦那様が剣の腕だけで後継を選ぶ前に領主にとって必要なことを身に付け、自ら領主の座を奪いとるのが領地の為に繋がります」
「ゲイルもいるけど・・・」
「少々早めに話せるようになっただけのゲイル様は問題ありません。孤児になりかけた娘と獣人みたいな下男を側付きにしたくらいですから、旦那様も冒険者にでもさせるおつもりなのでしょう。毎日森で遊んでいる猿とでも思っておけばよろしいかと」
「おわかりになられましたら、剣の事は忘れてお勉強に注力しましょう。これからの領主に求められるのは剣の腕ではありませんから」
「でも・・・」
「ベント様、信じて下さいませ。私はずっとベント様の味方ですよ」




