アルの盗賊討伐
翌日からも夜営する度に盗賊らしき者が近寄って来てはミグルに追い払われるのが続く。
「なぜこんなに盗賊が多いのだ?」
「悪質な奴等は討伐したんだけどね、そうでもない奴等は追い払っただけだから復活してるのか、新しく盗賊になったのかどちらかだろうね。次の町を越えたら小さな村が点在してるから、廃村があったらそこの元住民かもしれないね。」
「なぜ村を捨てる?」
「東の辺境伯領とそれに近しい貴族領って古くからあるでしょ?農作物が育ちにくくなってるんだよ。それで税を払えずに村を捨てたりとかだね。マリさんはそれを救うのに農業指導を俺に申し込んで来たんだよ。でも農業はすぐになんとかなるものじゃないから数年掛けて収穫を増やして行くしか手が無いのが現状なんだ。」
「なぜ村を捨てねばならん程厳しく税の取り立てをするのだ?」
「それはそこの領主の判断でしょ。前に村を捨てた人達と話したことあるけど、税を取るだけで何もしてもらえないのが普通みたいだよ。ディノスレイヤ領みたいな所の方が少ないんじゃない?父さん達は贅沢しないし、見栄を張ることにお金を使わないから。」
「貴族はみなそうだと言いたいのか?」
「他の貴族がどんな仕事をしてるかよく知らないけど、あれだけお金を貰える仕事してるかどうかだろうね。貴族街って建物にも物凄くお金掛かってるだろうし、装飾品とかも凄そうだよね。ああやってお金を使って庶民まで流れてるならいいかもしれないけど、一部の商人とかでお金回ってるんじゃない?西の街の収穫物をロドリゲス商会に全部卸すように指示したのはそれもあるんだよ。安値で買われて貴族に高くで売られてるみたいだからね。」
「例えば何がある?」
「紅茶とかその典型。作ってる人はすごく安くで買われてた。でも紅茶買うと高いでしょ?だから買い取り価格を上げて街で消費する事にした。肉とかもいいやつは全部そう。生産者には利益が落ちない仕組みになってるからね。西の街の生産物は基本的に街で消費する。貴族達には元の販売価格でロドリゲス商会が売って、住民に安価で販売する穴埋めにしてもらうんだ。」
「他の領ではそういうことが出来んのか?」
「やらないからこうなってるんじゃない?」
アルはまた考えこんでしまった。
町には用が無いので立ち寄らない。トラブルメーカーの称号を持つ俺がよその町にいくとろくなことにならないのだ。
前と違ってずっと街道を進んでいるので魔物は出ない。楽っちゃあ楽だ。ただずっと馬車なので身体がなまってくる。
「ジョン、退屈だろ?今日はここで夜営しながら夜の魔物狩りでもしようか?」
「お、やろう。せっかくダンとやった特訓が生かせなくてウズウズしてたんだ。」
「俺も行くぞ。」
アル参戦。
「ミグルはどうする?」
「この辺りじゃと珍しい魔物もおらんじゃろ。ワシは留守番でいい。」
「おやっさんは?」
「ワシもここにおる。ミグル一人じゃと馬が心配じゃ」
「ワシ一人でも大丈夫じゃ!」
「嘘つけ、寂しゅうて泣いてしまうじゃろが」
「う、うるさいっ!」
まぁ、仲良く喧嘩しててくれ。
「ダン、行くぞ」
「俺には聞かずにそれか?」
「当たり前だろ。俺の護衛なんだから。」
ヘイヘイと返事をしたダン。シルフィードも付いてくるみたいだ。
俺達3人は気配を消す。夜に森に入ると何も見えなくなるからジョン達はすぐに俺達を見失う。
「どこにいるんだ?」
「そばにいるよ。」
「わっ!そんな近くにいたのか」
「二人も気配を探る訓練した方がいいよ。今度俺がやらされた訓練してもらうように父さんに言っておくよ。」
うん、それがいい。この旅から帰ったらアーノルドに二人を託してみよう。
ずーっと暗闇にいると目も慣れてくるが魔物の方が夜目が利くので油断大敵だ。森神みたいに気配がほとんど無い魔物だと気付かないかもしれないからな。
気配察知がほとんど出来ないジョンとアルの緊張が伝わって来る。エイプみたいにずっと襲って来るのもしんどいが、来るか来ないかわからないのもしんどいのだ。
気配を探っても魔物はいない。この辺は魔物が少ないのだろうか?
鹿とかいるんだけどね。
・・・・ん?
「ダン、人の気配があるね。」
「そうだな、20人くらいいるな。小さな集落があるんじゃねーか?」
魔物を探してそこそこ深くまで進んで来たけどこんな森の中に集落?木こりかなんかしてるのだろうか?
「ジョン、アル。この先に20人くらい人がいる。引き返そう。」
「こんな所に人が?盗賊の拠点じゃ無いのか?」
「そこまで嫌な感じはしないから普通の人だと思う。木こりかなんかの小屋かもしれない。俺達が行ったらびっくりするかも知れないから引き返そう。」
「そうかそれなら仕方がないな。」
今日の魔物狩りは諦めて帰ることにした。
馬車のある方に向かって歩き方出すとボッとファイアボールらしき物を撃ったのが分かった。
「ありゃミグルだな。また盗賊をおっぱらったのか。」
「しかし、魔物はいないのに盗賊は多いね。」
「どうせ魔物がいないなら盗賊でも狩れば良かったな。」
「やめとけめんどくせぇ」
もう狩りはやらずに帰るので普通に喋りながら戻ると追い払われた盗賊らしきやつらがこちらに逃げてきている。
「どうするダン?このままだと鉢合うよ。」
「ファイアボールで逃げ出すくらいだから大したやつらじゃねーだろ。ほっとけよ。こうやってしゃべってたら向こうが避けるだろ」
「盗賊がこっちに来てるのか?ようし・・・」
「アル、やめとけ。めんどくせぇだけだ。このままやり過ごすぞ。」
「くっ、なら盗賊とやらがどんなやつらか見ておくだけにする。」
嫌な予感するんだよね。集落らしき方面を目指してるからちょうど俺達と鉢合う。ということはあそこは盗賊の集落ということだ。嫌な感じがするやつらなら討伐してもいいんだけど、そうじゃないから訳あり盗賊だ。子供とか居たらどうすんだよ。見捨てられなくなるぞ。
と思ってる間も無く追い払われた盗賊と遭遇。ほらまだ少年じゃないか
「うわっ!なんだお前らっ」
声を聞いて剣を抜くジョンとアル。
盗賊は6人。ジョン達と同じぐらいの年齢が2人、少し上が3人、少し下が一人か。
「お前らファイアボールで追い払われた盗賊だな?あの馬車は俺達のだ。観念しろっ。抵抗するなら斬る。」
アルがそう啖呵を切った。
一番年上であろう3人の手には鎌。残り3人は素手。盗賊というよりこそ泥だろうな。
「どうしてこんな所にいるんだ?」
「お前達の拠点を見つけたからだ。抵抗するなら全員叩き斬るっ」
「に、にいちゃん・・・」
一番年下の少年がそう呟く。
「お前はみんなに知らせて逃げろ。森の中に散り散りになれば追って来れない。俺はこいつらを食い止めるから早く行けっ!」
「やめとけ。逃げたら斬らなきゃならねぇ。ジョンもアルも剣を降ろせ。」
「しかし・・・」
「だからやり過ごせって言っただろが。めんどくせぇ。見てみろこいつら痩せてガリガリだろうが。」
ダンにそう言われてハッとするアルとジョン。
「お前ら、あそこにもっと小さい子供はいるのか?」
「・・・・・」
「そこに案内しろ。悪いようにはせん」
ダンにそう言われた盗賊もどき達は抵抗しても無駄と理解したのか黙って歩きだした。
今回は俺何もしてないからね。




