ジョン達のエイプ修行 その3
俺がゲラゲラ笑ってるとボソッとミグルが呟いた。
「やっぱり貴様はアイナの子供じゃ。あやつもそうやってアーノルドやエイブリックがやられてる時に笑っておったわ。」
「父上から聞いた話と同じだ。」
「あぁ、間違いなくゲイルは母上の血を引いている・・・」
そういやアイナと俺の笑いのツボは同じだったな。
「さ、次はどうやって笑かしてくれるんだ。」
「貴様を笑わせる為にやっておるんじゃないわっ!」
「じゃあ、なんか他の手を考えろよ。」
「言われんでも分かっておるわっ!」
またなんか打ち合わせてる3人。
「ゲイル、俺が合図したら柵を開けてくれ。」
出るまでにミグルが詠唱しておくのか。赤く光ってるからファイアボールで前面の猿をやっつけながら進むんだな。
「今だっ!」
ジョンの合図と共に飛び出す3人。
ミグルはファイアボールを連射しながら走っていく。
ふむ、出てすぐにやられる事はなくなったな。後はジョンとアルがエイプのスピードに慣れることだな。
しかし、高速で動くエイプにファイアボールを当て続けるのは難しい。シルフィードもコボルト相手に苦戦してたからな。その点はミグルの方が上だ。ヒット率がかなり高い。
ジョンとアルは段々と剣の振り方が荒くなってきている。エイプに主導権を取られ始めた。疲れて来るからそれを補おうと身体強化を強めてしまうから魔力消費も激しくなる。どちらかが、一瞬でも二人分の働きをして魔法水を飲むタイミングを作らないと持たないだろう。
そろそろヤバそうだな。
「ダン、戻って来るから追撃してくる猿を頼むね。」
「ミグル、撤退だ。もうヤバい」
アルが合図をして戻って来た。ミグルがファイアボールで追撃を阻止しながら戻ればいいけど、一緒に走ってくるから猿がついて来た。
「んぎゃぁぁぁぁぁっ」
ほら、猿に集られた。
慌ててジョンとアルが猿を追い払いミグルを引っ張って戻る。ダンは柵の中に入ろうとする猿をスパスパ倒した。
「さっきより長く戦えたね。」
ゼーハーゼーハー
「これ、終わりがあるのか?」
「無いよ。延々と沸いて来るから。」
ミグルに治癒魔法を掛けながらジョンの質問に答える。
「何が出来たら合格だ?」
「倒すのに余裕が出来たらかな。」
「お主らは余裕があるのか?」
復活したミグルが聞いてくる。
「こっちはシルフィードもファイアボール撃てるし、俺も遠距離攻撃の手段が色々とあるからね。接近戦でダンが討ちもらす事もないから余裕だよ。キリが無くて嫌気が差すだけ。」
「ゲイルが魔法を使わず、シルフィードだけが使ったらどうやる?」
「まぁ、今のと同じような感じかな。フォーメーションは違うけど。」
「どう違うんだ?」
んー、ヒントをあげるか。
「じゃあ、やってみるから休憩がてら見てて。」
ダンとシルフィードに戦法を説明する。
「じゃ、やって見せるけど、同じ事が出来るとは思わないでね。」
柵を開けて外に出る。シルフィードがファイアボールを撃ちながら先頭を進むのは同じ。俺はシルフィードの側に付いて接近戦。ダンは俺達の後方で少し離れて猿と対峙する。
シルフィードのファイアボールは弾幕だ。当たらなくてもいいから猿を近付けないようにするのが目的。それを掻い潜って来た猿を俺が斬る。
シルフィードの前面まで猿が来てしまったら撃つ方面を変えて俺が斬る。ダンは素早く移動してシルフィードの後方へ。
これの繰り返しだ。シルフィード軸にして俺達がそれに合わせて動く。シルフィードは自分の前に45度の範囲で連射する事に集中させるだけでいい。
ある程度やったのでシルフィードは後方にファイアボールを撃ちながら撤退する。
「はい、こんな感じ。」
「なぜそんなに余裕があるのじゃ?」
「シルフィのファイアボールはミグルより正確性が劣るからね、狙って連射速度が落ちるより、狙いを付けずに威力を落として数を撃つ。猿を一気に近付けないのが目的。近くに来た奴は俺がシルフィを守りつつ迎撃。ダンはシルフィの反対側の奴を倒す。こんな作戦だよ。さっき同じ事は出来ないよっていったのはダンの役ね。猿の動きを読んで確実に倒してくれないと、ファイアボールを掻い潜った奴と同時に来られたら攻撃を食らう可能性があるから。」
「そうか、俺かジョンがダンと同じ事が出来ればいいのだな?」
「いきなりそこを目指すより、身体強化の最適化、つまり使い慣れて長時間身体強化したまま動けるようになる方が先決だよ。魔力はいきなり増えないから使用量を減らす努力をした方がいい。」
「わかった。なら試しに一人だけでやってみる。この近くでやるからヤバそうになったら柵を開けてくれ。」
アルは魔法水を飲んで一人で出て行った。
なるほど、まず連携とかを抜きにして個人戦か。そうだな、身体強化の最適化が進んでからの方がいいかもしれん。
個人戦のアルは強かった。パーティーでやるより長い間戦えている。しかし、そろそろ魔力切れだなと思ってると、ダッとこっちへ撤退してきた。
「次にジョンが一人で行ってみて」
ジョンも同じだ。個人戦の方が動きやすいみたいだ。アルは手数で猿を蹴散らし、ジョンは確実に仕留めるような剣だが数とスピードの速い猿にはちと不利だな。
徐々に猿に圧倒され始め、ジョン撤退。アルより早くに戻って来た。
「ふはははっ。俺の勝ちのようだなジョン。」
「クソっ」
勝ち誇るアルと悔しがるジョン。
勝った負けたというより、対戦相手との相性の問題だ。コング戦では立場が逆転するだろう。
「ミグルも一人で出るか?」
「やらんわっ。今さら何の個人修行をやれと言うんじゃっ」
「ふーん、別にいいけどね」
「な、何か言いたい事があるならはっきり言わんかっ」
「いや、ミグルが現状で満足してるなら問題ないよ。」
「なんちゅう含みのある言い方をするのじゃっ」
「今回はジョンとアルの修行がメインだからな、ミグルは二人との連携能力を上げられればいい。」
「それはわかっておる。それ以外に何か言いたい事があるのじゃろうがっ」
「別に。」
「ぐぬぬぬぬぬっ」
「ぼっちゃん、腹減ったぞ。」
「もうそんな時間か。なに食べたい?」
「カツ丼かなんか出来ねぇか?」
「じゃあそれにしよう。」
猿肉で作るカツはいびつな形だが十分だ。和風出汁のカツ丼は旨かった。
「ダン、猿の死体ってどうなってるか見てた?」
「あぁ、猿どもが持っていってるぞ。」
「共食いするのかな?」
「そうかもしれんな。冬場は餌が少ねぇから何でも食うんだろ。」
「共食いしたら魔石ってどうなるのかな?」
「そんなもん知るかよ。クソに混じってんじゃねえか。」
猿1匹当たりそこそこの魔力量がある魔石が取れる。あれだけ大量にやっつけてたら魔石がその辺に落ちててもおかしくないんだけどな。自然に分解されてしまうのだろうか?不思議だ。
「あっちは肉や卵があっていいな。そろそろ野菜だけの食事が嫌になってきた。」
「なら、猿を食えばいいじゃろ。」
「猿なんて食えるかっ。」
「なら黙って食え。獲物を狩りにいける実力が付くまでの辛抱じゃ。野菜だけの飯でも死なん。今狩りに行っても獲物を猿に奪われるのがオチじゃからな。」
飯を食ったあと、柵を開けたり閉めたりするのが面倒なので土の重たい扉を付けた。
「自分達で開け閉めしてね。最後は閂しといて。」
魔法水もあるから自由に修行してもらうことに。
「あっちが自分達の修行している間にこっちも猿肉を仕入れにいこうか。」
「そうだな。簡単に倒せるってのはどうやるんだ?」
それはね・・・・
俺はダン達に新しい作戦を伝えていった。




