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ぶちょー、今度の人事異動は異世界ですって  作者: しゅーまつ


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ゲイル達がいないところのそれぞれ

俺たちは元グズタフ領の柵とか作り終えてボロン村に出発していた。どうせジョン達が来るまで待たねばならないのでのんびり旅だ。


「ぼっちゃん、あのシーラって気が狂いかけたやつに何の魔法を掛けて治したんだ?」


「身体の傷しか治ってないよ。」


「は?正気に戻ったじゃねーか」


「正気に戻ったんじゃない。忌まわしい記憶が飛んだだけだ。だから記憶をすり替えた。」


「ゲイル、意味がわからんぞ。」


「あまりのショックに記憶が無くなる事がある。シルフィもそうだったろ?」


「はい・・・」


「だから何も無かったということにした。本人も周りもそう思い込めばその記憶が事実になる。飛んだ記憶にそれを当てはめたんだよ。」


「そんな事が可能なのか?」


「人ってね、強く思い込めば段々とその記憶が本物になることがあるんだよ。それを悪用したらダメだけど、今回はその方がシーラも家族も幸せになれると思ったからそうした。ただ、何かがきっかけで思い出してしまうことがあるかもしれないのが心配なんだけどね」


「記憶って不思議なもんなんだな。」


「そうだね、精神がすでに崩壊してしまった4人は心が耐えきれずに自らの精神を閉じたんだ。それをしないと恐怖や痛みで死んでしまうからね。そのまま戻れない人もいるけど、もしかしたらあの人達も何かがきっかけで戻ってこれるかもしれない」


「どうしてそう思うんだ?」


「ミグルのスキルに反応してたんだよ。ミグルに鑑定された時も嫌そうな感じを出してたからね。どこかに意識があって、それを表現出来ないだけなんじゃないかなと思う。スキルにもろに影響を受けるミケでも寝てるときは何ともなかっただろ?」


「そうだな。」


「だから、意識はあるんじゃないかなって。全部想像だけど。」


「治療ってなにやるんだろな?」


「どうだろうね。エイブリックさんは母さんに診てもらうつもりなんじゃないかな?」


「治癒魔法でも治らないんだろ?」


「母さんのはやっぱりちょっと違う気がするんだよね。あの見せしめにした盗賊を治した時も母さんの魔法で改心出来たんじゃないのかなとか思うし。」


「なんせ聖女様だからなぁ。ぼっちゃんの言うことは当たってるかもしんねぇな。」


「うん、これ以上は俺達にはどうすることも出来ないから任せるしかないしね。」



≡アル達に過去の事を話した翌日のエイブリック邸≡



「ミグル、ゲイルにこの手紙を渡してくれ。あとお前には伝えておく。」


「なんじゃ?」


「アルに付けてる護衛の事だが・・・」


「やはり、ワシらを助けてくれたのはそやつなんじゃな?」


「そうだ。今回の冒険からはその護衛を外す。」


「なぜじゃ?」


「あいつの人生の分かれ道だからだ。自分の力で生き残れない様ではこの先も無理だ。」


「もしアルに何かあればゲイルを王にするつもりか?」


「俺が止めてもそうなるだろうな。まぁ、その前に俺が王になるのが前提だが。」


「ワシでは守りきれんかも知れんぞ。」


「ずいぶんと弱気だな。」


「当たりまえじゃっ。ワシは最上位種のオークの返り血を全身に浴びて尚闘気を放っているゲイルを見て悟った。やはりアーノルドの子供じゃと。それに加えてワシよりもはるかに魔法の力量も上じゃ。あんなもんと比べられても困る。」


「ふははははっ。ずいぶんとしおらしくなったもんだ。」


「ワシではゲイルのパーティーにはなれん。力不足じゃ。あやつがパーティーと認めているのはダンだけじゃろ。シルフィードを守り、ワシまで守るには無理があるからの。」


「そうかも知れんな。ま、取りあえず2年間はアル達と一緒に行動してくれ。その後はうちに来い。」


「えっ?それはプロポーズかえ?」


ゴツンッ


「魔物の研究者としてだっ!」


「殴る事は無かろうがっ!」


「お前のそういうところがイラつくんだよっ」


「お前が紛らわしい言い方をするからじゃろうがっ!」



コンコンッ カチャ


「ち、父上、そろそろ出発したいのですが・・・」


「ミグル、さっさと行けっ!」


「言われんでも行くわっ!エイブリックのバーカ バーカ、怒りんぼっ」


「てっめぇぇぇぇ」


「ほれ、馬鹿が怒っておる。さっさと行くぞ。」


「お、おぅ・・・」




≡ディノスレイヤの屋敷≡



「アーノルド、エイブリックから手紙よ。」


「ん、何が書いてあるんだ?」


「オークに捕らわれていた女性を診て欲しいだって。王都の治療師では何も変わらないらしいわ。」


「オークに捕らわれてた女の治療? 身体じゃ無くて心が壊れてんだろ?アイナでも無理じゃないか?それに何でエイブリックがそんなことやってんだ?」


「そんなのゲイルが絡んでるからに決まってるでしょ。取りあえず行くから一緒に来てよね。」


「あ、あぁ分かったよ。」



≡王都ギルド本部≡


「何っ?殿下が騎士団を引き連れて魔物討伐をしてきただと?」


ギルド内にギルマスのドルーキンの声が響き渡る。


「なぜ、ギルドを飛ばして殿下が討伐に向かわねばならんのだ?」


「旧グズタフ領から討伐依頼が出てましたが、誰も受ける者がおらず危険な状態にあった為だとか・・・」


「依頼が出てたのか・・・、それでもなぜ殿下が騎士団を連れて行ったのだ?」


「あの・・・ゲイル・ディノスレイヤ様のパーティーがたまたまその町で状況を知り、住民を避難させ応援要請を出したようです」


「なぜ殿下に応援を・・・?」


「そこまでは解りません。」


「おいっ、ジラーン、詳しい状況を調べろ。俺は旧グズタフ領を見に行ってくる。誰か付いてこい」


ギルマスのドルーキンは調査を副ギルマスのジラーンに任せ、自分で現地の調査に向かった。



「なんだこりゃぁ・・・?」


町の周囲に張り巡らされた魔物避けの柵。前からこんな物があったのだろうか?


「おい、この町に何か用か?」


柵の向こう側から住民が声を掛けてくる。


「俺は王都の冒険者ギルドのマスターをしているドルーキンと言う者だ。中で話を聞かせてくれんか?」


そうドルーキンが名乗ると厳しい目付きをして中へ案内する。



「ここの領主代理を任されているスンドウだ。今さら王都ギルドが何をしに来た?」


「話を聞きに来た。何があったか教えてくれんか?」


スンドウは今回の経緯を説明した。



「そうだったのか・・・」


「ゲイル様達が居なければこの町は無くなっていたかもしれない。状況を知ったゲイル様は即座に調査を行い住民を避難させ、すぐに応援を呼んでくれた。本当にあっという間に解決をしてくれたんだ。それにまさか殿下が騎士団を引き連れて応援にきて下さるとは・・・」


「魔物の殲滅は騎士団が?」


「ゴブリンの巣は騎士団が、オークの集落はゲイル様達が殲滅してくれた。生存者の救出も」


スンドウの話によると町の近くにゴブリンの巣とオークの集落があったとのこと。非常に不味い状況だ。町が無くなっていたというのは大げさではない。しかもオークとゴブリンが共闘していただと?下手すればここは魔物の領になってた恐れがある。そんな事になれば前代未聞だ。


「ここはゲイル様が統治して下さる事になった。それと殿下より、ディノスレイヤ領と連携せよとのご指示を頂いた。」


「ディノスレイヤ領・・・と?」


「冒険者ギルドの義務を果たしてない所は必要無いと。」


ドルーキンは現実を知らされて愕然とし、スンドウに詫びを言って帰って行った。


ギルドに戻るとさらに衝撃の報告を受ける。


「オークの集落を率いてたのが最上位種でしかも変異種?」


「人間の言葉を話し、魔法まで使えたと・・・」


そんな話は初めて聞いた。オークがそこまで進化してしまうほどうちのギルドは放置していたのか・・・


「討伐依頼はなぜ誰も受けなかったのだ?」


「依頼料が高い方に人が流れ・・・」


元々あった依頼を見ると殲滅ではなく討伐だ。ここから距離があるが安すぎる金額ではない。討伐に誰かが行って巣や集落を発見したならギルマス権限で冒険者を動員することが出来た。


他にも放置された討伐依頼を見ていくと、距離が離れているところ、金額が相場より安い所ばかりだ。


<義務を果たさないギルドは不要>


冒険者ギルドは国に属さない独立した組織ではあるが、魔物から人を守る義務がある。だからこそほとんどの所に自由に出入り出来るのだ。


難易度が高くて放置されていたのならともかく・・・・


ギルマスはどうやってこの状況を改善していくべきか頭を悩ませた。





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