次の予定
くっそー、いくら魔力を込めてめぐみを呼んでも来やがらん。俺が怒ってるの察知しやがったのか?
ムカムカしながら眠ったから目覚めは最悪だった。
「おはよう。」
めちゃくちゃ機嫌の悪い俺に皆は近寄って来ない。
「おー、ゲイル。ここのベッドは寝心地が良いのぅ。」
そんな中、能天気にニコニコしながら近付いてきたミグルにイラッとしてデコピンをかます。
昨日アーノルド達がやって来た記憶はないらしい。
「あ痛っ!な、何をするのじゃっ」
「お前のスキルが発動したんだよっ」
嘘だ。完全な八つ当たりでしかない。身体強化はしていないのでこちらの指も痛い。
痛い・・・
シルフィードを見ると赤くなって目線を逸らすが、つかつかと近寄って手をギュッと握ってみる。
「ゲ、ゲイル様・・・?」
温かい。握ったシルフィードの手は柔らかく温かだった。
そうだな。例えここがゲームみたいな世界であったとしても、痛みも感じるし、こうやって温かさも感じる。感情もあるから生きているのとなんら違いはない。もうゲームだとか現実だとか深く考えるのはやめよう。元の世界も同じだったしな。
「ミーシャ、俺の事は好きか?」
「はい、大好きですよ」
「そうか、俺もだ。」
「はいっ」
そう答えてにっこり微笑むミーシャ。やっぱりほっとする。
もう結婚がどうとか、名前がどうとかどうでもいいか。そのうちなんとかなる。これからも嫌でもイベントが発生していくのだろう。それをクリアしていくだけだ。考えても仕方が無い。
「あのゲイル様・・・」
「あぁ、ごめん。シルフィードの手は温かいな」
「ゲイルっ!ワシに対する態度と二人に対する態度がずいぶんと違うではないかっ!」
「当たり前だ。試しにミーシャから順番に母さんにお義母さんと言ってみろ。」
「えっ?」
「いいから、ミーシャ、シルフィード、ミグルの番だ」
「あの、お義母さん!?」
「あら、ミーシャにお義母さんと言われても違和感無いわね。まぁ元々娘みたいなものだしね」
「じゃあ、シルフィード」
「はい・・・、あの、お義母様」
「うん、こんな可愛い娘が出来ると嬉しいわね」
「最後にミグル」
「お義母さん」
ニチャア
「いっ、嫌よっ!なんであんたなんかにお義母さんと呼ばれなきゃなんないのよっ!いやぁぁぁぁっ」
「な、なぜじゃっ!同じように言っただけではないかっ!」
「うるさいわねっ!あんたみたいなババアに呼ばれたくないのよっ」
「なんじゃとーっ?アイナこそババアになったではないかっ」
「誰がババアになったのよっ」
「お前じゃ、垂乳女っ!」
「きいぃぃぃぃっ!ミグルっ、外に出なさいっ」
「おぅ、望む所じゃっ」
女同士のバトルが始まった所で皆が退散していく。
「ダン、父さん後宜しく。」
「なっ、お前が焚き付けておいて・・・」
「ぼっちゃん、なんで俺が・・・」
「いつも俺を見捨てるだろ?罰だよ。早くいかないと大変な事になるよ。俺はグリムナさんとおやっさんに話があるから。」
「ちょっ待てっ」
「父さん、ダンを捕まえないと一人で対応するはめになるよ」
コソッと逃げようとしたダンを慌てて捕まえるアーノルド。そのままチッと舌打ちしてアイナ達を追いかけた。
「坊主、なんであんな事をしたんじゃ?」
「ん?嫌がらせだよ。俺だけ大変な目に合ってるのに腹が立ったから。親にも大変な目に遭ってもらった。」
「ダンは?」
「いつも肝心な時に俺を見捨てるから罰だよ」
「で、ワシらを残したのはなぜじゃ?」
「報告とお願いがあるんだ。」
俺は鑑定で名前が変わったこと、シルフィードとミグルにディノスレイヤが付いたことを報告する。
「ふむ、名前の変更条件か。」
「うん、名前が変わっただけで何か変わることも無いと思うんだけどね。」
「ミーシャ、ちょっと鑑定するぞ。いいか?」
「はいっ」
ミーシャは俺が鑑定してもエヘヘくすぐったいですと言うだけだ。言っておくけど触って無いからな。
【名前】ミーシャ・ディノスレイヤ
やっぱり
「ミーシャにもディノスレイヤがついてるぞ」
「えっ?本当ですか?ぼっちゃまと私が結婚したんですか?」
「いや、多分父さんと母さんがミーシャを自分の娘として認めたんだと思う。」
「それでミーシャにもアイナをお義母さんと呼ばせたのか」
「もしかしたら前から付いてたかもしれないけどね。昔からメイドというより娘みたいな感じだったから。」
「そうじゃの。血のつながりより実際の関係の方が重要じゃしな」
「おやっさんにはお願いがあってね、バンデスさんに家名を作ってもらいたいんだよ。」
「親父に家名?ドワーフに家名なんてないぞ」
「王様になったから付けてもいいんじゃない?それで俺にもその家名が付いたらハッキリするし」
「うむ、それはワシが勝手に決める訳にはいかんの。今回の同盟の事もあるし、楽器とやらを作れる奴のことも話さにゃならんからまた行くか?」
「ジョン達の冒険にもちょうどいいかもね。春の農業指導が終わったら一緒に連れて行こうか。」
「うむ、そうしよう。新しい酒も持ってかにゃならんからの。」
「魔道バッグがあるからたくさん持っていけるよ。」
「おお、そうじゃったの。」
「お前達はドワーフの国に行くのか?」
「うん。」
「では、先にもう一度こっちにも来い。」
グリムナが先にエルフの里に来いと言う。
「ジョンとアルは冬の間特訓するって言ってたよ。」
「あのエイプやコングの森でやればいい。」
なるほどね。あそこなら魔物を探さなくても勝手にバンバンくるからな。
「ミグルをあの二人のパーティーに入れろ。お前達は万が一のサポートに徹するだけでいい。」
「なんで?」
「これから冒険に出るならあの二人に連携というものを教えた方がいい。お前達がパーティーに入るとあの二人の戦力は必要ないだろ。ミグルは敵を弱める魔法もあるから二人が慣れるまでちょうどいい。おそらく雪も積もってるから火魔法も心置きなく撃てる。」
うん、理に適ってるな。
「ミグルも誰かから感謝されたら喜ぶだろうしな」
あー、グリムナもちょっとミグルに対して冷たかった事を反省してるのか、シルフィードと同じハーフエルフだということで気になるのかもしれん。みんなミグルに対して冷たかったみたいだけど、嫌いでは無かったようだな。
ミーシャは王都に置いていくが、その後はアーノルド達にちょくちょく様子を見に来てもらって任せよう。ミケの事も頼まないとな。
そうなると、今回アーノルド達が戻る時に一緒にディノスレイヤ領に戻って、ミケを連れて王都に戻る方がいいか。
大体の予定が決まった所で4人が戻って来た。
全員ぐったりだが、ミグルだけ頭にデカいタンコブを作っている。
アイナのトンファーを食らったのだろう。
「ゲイル、アイナが酷いのじゃ」
「お陰で背が伸びたんじゃないか?」
タンコブの分だけな
「酷いのはどっちよっ。あんな身体が重くなる魔法をかけといてっ」
まぁ、デバフを掛けられても動いて殴れるんだからさすがだ。
俺に向かってぶつぶつ言うアーノルドとダンに明日からの行動を説明した。恨み節は無視だ。
「ミーシャにもディノスレイヤの家名が付いたから宜しくね」
「おいっ、それってまさか・・・」
アーノルドにはまだ勘違いさせておこう。俺は忙しいのだ。




