やっと二日目が終わった
2日目の売上は初日の2倍近く叩き出した。
「凄まじいな・・・」
ジロンは俺1人で焼き鳥200本以上とエール2樽、ワイン1樽売った事に愕然としていた。
晩御飯は残った焼き鳥と簡単な物で済ます。もう凝った物を作る気力が無い。
「ジロンさんが手伝ってくれたお陰だよ。この食堂で今日の売上が限界だね。もっと売上をあげようと思うと外の人の比率を増やして単価上げていくしかないよ。」
「しかし、ぼっちゃん1人でこんなに売るとはなぁ」
「お客さん達が親切だからね。俺は実質焼き鳥焼いてるだけだから」
「ぼっちゃん、炭酸強化してくれ。樽の最後の方は元のエールみたいだ」
しょわしょわと強化してやる
「なぁ、さっきから何やってんだ?」
「シュワシュワを強くしてるんだよ。ジロンさんもする?」
訳がわからずうなずくのでしょわしょわしてやった。
「これって魔法か?」
「そうだよ。俺魔法使いなんだよ。内緒ね」
「セレナを治したのも魔法なのか?」
「俺の母さんが治癒魔法の使い手なんだ。」
習ったとは言ってない
「そいつはすげぇな。この焼き鳥の味といい、小熊亭を立て直そうって挑戦出来るわけだ」
「焼き鳥のタレはベントも一緒にやってるけどね。しかし疲れたよね。明日もう1日頑張って、明後日は休みにしよう。」
「食堂が休むのか?」
「週に1度は休みにするよ。宿屋を再開したらそういうわけにもいかないけどね。そうなったら人を増やして代わり交代で休みを取るようにしないと倒れちゃうよ。」
この世界には決まった休みを取る習慣がない、というか庶民は働き続けないと食べていけない人が多いのだ。
「そりゃそうだけどよ・・・」
「休めるように稼げばいいんだよ。食堂なら他に無い旨い飯とサービスで絶対に勝てるから」
「宿はどうやって稼ぐんだ?」
「そこなんだよね。建物勝負な所があるからこのままだと差別化が難しいんだよ。まぁ食堂の評判が広まれば宿泊も増えるとは思うから、お金貯めて投資するしか無いね」
「何を作るんだ?」
「風呂だよ。風呂付きの宿屋は庶民街にある?」
「いや聞いた事がねぇな」
「だろ?だから今の値段で風呂付きにしたらそれ目当てで客が取れるよ。宿ってね平均稼働率が最低50%、この部屋数だと80%くらいないと利益出ないんだよ。」
「なんだその平均なんたらってのは?」
「どれだけ毎日部屋が埋まってるかだよ。80%ってのは毎日8部屋数埋まってるってこと。感謝祭みたいな時は常に満室になってないとだめだね。」
「そんな事が出来るのか?」
「実際に反対側はどこも満室だったし、お客さんはいるんだよ。だから後は評判になるだけ。感謝祭とかの時の満室は当たり前。年明けの冬場の間の閑散期にどれだけ人を呼び込めるかの勝負だね。この期間は連泊サービスとか割引も必要かもしれないね。」
「連泊サービス?」
「5泊したら割引くとかだよ。1泊は銀貨2枚、5泊なら銀貨10枚だけど8枚にしますよとか、1ヶ月なら半額とかね。常に宿屋に誰かいたら食堂の売上も上がるから。朝飯も食うだろ?」
「なるほどなぁ。ぼっちゃんって何者なんだ?宿屋やってるのか?」
「いいとこのボンボンだよ。護衛付きの焼き鳥職人。」
「あーはっはっはっ!客ともそんなやり取りしてたな。外の奴ら楽しそうに笑ってやがったぜ」
「ぼっちゃん、チッチャがそろそろお眠だぜ。」
疲れてるんだろう。セレナにもたれてうとうとし出していた。
「よし、風呂に入ろう。ジロンさんも入っていく?」
「風呂は儲かってからなんじゃ・・・?」
「簡易で作ってあるんだよ。」
「ゲイル、俺はダンと入るから、先にジロンと入ってこい」
「じゃあ先に入るよ。チッチャ、風呂に行くぞ。がまんして起きろ」
むにゃむにゃと目をこするチッチャをセレナが手を引いて連れていった。
男湯と女湯にお湯を貯めていく
「ぼっちゃん、こんなことまで出来るのか?ならこの釜とか水の出る奴とかいらねぇじゃねぇか?」
「ずっと俺が居ればね。」
「あ、・・・」
「そう言うこと。俺が居なくなっても困らないようにしてあるけど、女将さんとチッチャだけだと風呂は無理だろうね。」
ジロンと湯に浸かりながら話の続きをする
「いつまでここに居るんだ?」
「あと7日くらいかなぁ。もう少し伸ばせるけど・・・」
帰ってから急いでやることはないけど、シルフィードの訓練をしないとダメなんだよなぁ。
「なぁ、俺に料理を教えてくんねぇか?」
「屋台どうすんの?」
「屋台は畳む。俺もこの宿を立て直したいんだ」
「屋台は借り物?それとも自分の?」
「自分のだぞ。場所の権利も持ってるからすぐに売れると思う」
「いくらで売るの?」
「じっくり春まで待てば銀貨50枚くらいで売れると思うが、今から客が減るから30枚ってところだろうな」
「じゃあ、女将さんに正式に雇ってくれるか聞いてみて。俺は雇用主じゃないから」
「そうだな。セレナに聞いてみるわ」
「チッチャ、お風呂で寝ちゃダメよ」
こんな声が聞こえて来たので俺達も風呂から出る。
二人の服にクリーン魔法をかけて温風で乾かす。
「ぼっちゃんって便利だなぁ」
便利とかいうな
セレナ達も出て来たので同じようにする。
女湯を捨て、男湯は湯を入れ替えておいた。
ダンとベントにお風呂お先って言ってからチッチャを部屋に連れて行った。ジロンとセレナでこれからどうするか話合ってくれ。
「ダン、ゲイルは1人であれだけ売ったんだな」
「ぼっちゃんは客のあしらい上手ぇからな。口の悪い連中にも引かねぇし、1人でもやれる状況を作り出しやがった。普通全部客にやらそうとか思うか?」
「あんな店他にあるのか?」
「ねぇよっ!酒も金も客任せなんてありえねぇ。絶対誤魔化されるからな」
「でも売上におかしな所なかったんだろ?」
「多少酒の減りは早えみたいだが、自分で入れさせるとジョッキにギリギリまで入れたりこぼしたりするからな。まぁその分くらいか」
「ゲイルは何をやったんだ?」
「ずっと客と喋りながらやってたぞ。客も気に入った奴には誤魔化そうとかしないからな。それでも誤魔化そうとするやつは他の客が注意してやがった。ぼっちゃんならではのやり方だな。あんなやり方出来るのは他にはいねぇだろ。」
「そうか、ゲイルはやっぱり凄いな。」
「ベントもぼっちゃんの凄さが分かるようになったということは成長したってことだ。」
ダンはそう言ってベントの頭をクシャクシャッとやった。
「さて、出るか。明日も忙しいだろうからな。」
「セレナ、俺をここで雇ってくれないか?」
「え?自分の屋台があるでしょ?あそこ手に入れるのに苦労したじゃない」
「それはそうだが、今日1日手伝ってみてわかった。俺には工夫と努力が足りねぇ。ぼっちゃんとベントを見てて自分が情けなくなったんだ。様々な知識で宿の立て直しをしてくれるぼっちゃん、ベントの集中力と焼き物の腕。焼き鳥を焼き出したのも最近だと聞いて驚いたよ。」
「ベントさんはチッチャと同じ歳なのよ。チッチャもよく働いてくれているわ。私よりもね・・・」
「なぁセレナ。俺にもこの宿の立て直しを手伝わせてくれ。ぼっちゃんが居なくなってしまう前に絶対料理を覚えるから。今度こそ役に立ってみせる」
「役に立つだなんてそんな・・・」
「あいつの残した宿を俺も無くしたくないんだ。頼むっ」
「ジロン、本当にお願いしていいの?」
「お願いするのはこっちだ。」
「宜しくねジロン」
「任せてくれっ!」
えーっと、ラー油のレシピ、焼き鳥のタレのレシピ、餃子のレシピ、今回はこれだけだな。
焼き鳥のタレはベントの物にしておこう。ジョンのパンのレシピよりは売れないかもしれないけどね。
明日は朝イチから仕入れにいかないとな・・・・
ダンとベントを乾かさないまま寝落ちして行った




