飢饉と後悔
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「最近、食事を節約させているようだが、何があった?」
「じ、実はこの大寒波で雪が積もりまして、他の町や村などとの交易路が塞がれておりまして」
ここ最近の苦労で、すっかりやせ細ったロックウェルが弁解する。
「ぐぬぬ……確かにそうじゃ」
窓の外に降り積もる雪を見て、王も納得する。今年の冬はかつてないくらい寒く、また降る雪の量もけた違いに多かった。
「しかし、なぜじゃ?王国の歴史上、こんなに雪が降った年はなかったはずじゃ」
「現在、資料室にて調査中でございます」
「そうか。じゃが交易が滞ると王都が飢える。早くなんとかするのじゃ」
そういって国王は退出する。宰相はため息をつくと、資料室に向かった。
「どうじゃ?何かわかったか?」
「はっ。50年前にも同じように大雪の年があったと記録に残っています」
記録官はほこりだらけの日記帳を差し出してくる。
「何?シャイン伯爵家の先代が病気療養のため、光のオーブの管理ができなかった年があり、その年は王都が雪に覆われて、大勢の餓死者が出たじゃと……?」
それを読んで、宰相は真っ青になる。シャイン家が光のオーブを制御して雪を溶かしていたおかげで、冬でも王都への交易路が閉ざされることがなかったのだ。
「シャイン家はどこにいった?すぐに連れ戻せ!」
宰相は泡を食らって騎士団に命令するが、団長は渋い顔で拒否する。
「この雪では捜索どころか、王都から出ることすらできません」
それを聞いて、宰相はシャイン家を追放したことを心の底から後悔した。
(このままでは、この国を支配するどころか、我々ごと滅んでしまう)
そう思っても、もはや逃げることすらできない。
宰相はただ黙って、のしかかる不安に耐えていた。
「麦を売ってくれ!」
「なんでもいいから、食べるものを頂戴!」
そのころ、グローリー王国の王都の商店には、殺気立った人々が押し寄せていた。
「何度も言わせるな。もうないんだ!」
商店主は必死に説得するが、飢えた民には届かない。
「うるせえ!隠しているんだろう」
ついに暴徒は店に押し寄せて、略奪を開始した。
「ほら、あるじゃねえか!」
裏の倉庫に隠されていた小麦袋を見て、暴徒たちは激高する。
「そ、それは家族が食べるためのもので……」
「うるせえ!死ね!」
不幸な商店主は、棍棒で殴られて昏倒する。暴徒は何もかも略奪し終えた後、商店に火を放った。
「あっはっは。あったけー、何もかも燃えてしまえ!」
毎日のようにこのような暴動が起こり、あちこちで火が放たれる。
飢えた暴徒は富裕な商人や貴族屋敷にも襲い掛かり、王都の治安は最悪となった。
「ほら。小麦粉を持ってきたぞ」
ある父親は、やっとの思いで手に入れた一袋の小麦袋を家族に渡す。
「お父ちゃん。パンを食べたい」
ガリガリにやせた子供はそういうが、父親はその願いにこたえられなかった。
「ごめんな。薪がないので、パンを焼けないんだよ」
そういって、小麦を水に溶かして練った団子を作る。家族は何の味もしないすいとんを食べて、飢えをしのぐのだった。
「なんでこんなことになったのかな。お腹すいたよう」
子供たちが泣きじゃくる。飢えに苦しんでいるのは彼らだけではない。もともと人口が多い消費地であった王都は食糧を他の都市からの輸入に頼っており、交易ができなくなったことで食べ物が入らなくなった。
こんな状況では金にもまったく価値がなく、人々はひたすら食糧をもとめてさまよっていた。
「このままだと、王都は雪に覆われてしまうぞ!逃げないと」
瞬く間にそんな声が上がり、一部の民は王都を出ようとする。しかし、もはや王都を脱出する術は失われていた。
今まで雪を軽視していた王国は何の対策もとっておらず、すでに他の都市に通じる街道は雪で埋もれており、流通は完全に破壊されていた。
寒さと食糧不足で、王都民は次第においつめられていく。絶望しきった彼らの目に、弱々しく輝く光のオーブが目に入った。
その時、彼らは自分たちの不幸の原因を悟る。
「なぜ光のオーブは雪を溶かしてくれないんだ!」
人々はその理由を必死に考え、ついにある結論にたどりついた。
「シャイン家を追い出したから、こんなことになったんだ」
「彼らがいたころは、たとえどんなに雪が降ったとしても、すぐに溶けていたのに」
「こうなったのも、追い出した王と宰相のせいだ!」
その声は瞬く間に広がり、城の前には王都民が殺到する。
「シャイン家を呼び戻せ!」
「宰相は責任を取れ!」
シャイン家を追い出したのは彼らも同罪だったが、今は責任を擦り付けることで頭がいっぱいだった。
「貴様ら!散れ!」
パーシバルが指揮する騎士たちが市民を容赦なく追い散らし、あちこちで騎士と市民たちの争いが起こる。王城前の雪は民が流した血で染まった。
逮捕された民は、薄暗い地下牢でひたすらシャイン家に祈りをささげていた。
「俺たちが愚かだった……戻ってきてください」
しかし、その祈りに応えるものは誰もおらず、グローリー王国は静かに滅亡の淵へと転がりおちていった。
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