赤い花、白銀の世界
ここに来るまで、ベリアスとともに日々訓練をして、ルナシェは努力してきた。
毎日一緒に歩いたし、騎士の訓練の50分の一くらいは頑張ったように思う。
それでも、冬の山は過酷だ。けれど、どうしてもその場所にだけは行かなければいけない。
そうでなければ、終わらないし、始まらないから。
「赤い花って、こんなに雪山を登らないと見ることができないのですね」
「……うーん。一輪であれば、探せば見つかるだろうが、群生地を見つけるのは、難しいだろうな」
「そうですか……」
なにか不思議な力が、関係しているのではないかと思わなくもない。
「ベリアス様?」
「ほら、この坂を登り切れば、すぐだ」
ルナシェの魔力を受け継いでから、ベリアスは以前よりさらに強くなったという。
けれど、頑ななほど、ルナシェに戦う姿を見せたがらないから、ベリアスが強いということが、ほんの少しだけ信じ切れない。
いつだって、帰る日を待つのは、不安でいっぱいなのだから……。
その瞬間、視界が開けて、一面の銀世界が赤一色に染まった。
まるで、白銀の中で、その空間だけが燃え上がるようだ。
「っ、わぁ! ……この花を見るたびに、私のことを思い出すとおっしゃいましたが、どちらかと言えば、ベリアス様そのものですね?」
「…………そうなのかもしれない。つまりは、俺の願望ということだ」
「願望……?」
「そう、白銀の世界で見るこの花は、まるで、俺と君が一緒にいられる世界そのものだから」
その瞬間、一陣強い風が吹いて、白銀のパウダースノーが舞い上がり、それと同時に赤い花弁が空高く舞い上がった。
それを見上げるのは、今は瑠璃色の光を失って紫に染まった瞳。
そして、穏やかな緑色の瞳だ。
「ようやく、願いが叶ったな……」
「…………ベリアス様」
「――――君を守り、いつかこの花を、白銀の中でルナシェ、君と一緒に見るという願いが……」
顔を上げたベリアスは、ルナシェに微笑みかけた。
まるで、すべてを知っているかのように。
「長い年月、何度も君を置いていった、薄情な俺のことを許してくれるだろうか?」
「…………全部、思い出したのですか」
「遅いと、君は言うだろうか」
「いいえ? それに、待つのはもう、やめたので。これからは、あなたを追いかけます」
「そうか……」
冷えてしまった唇。だが、柔らかく合わされば、それでも温もりを感じる。
「では、もう一度誓いを立ててくださいませんか?」
「ああ、誓おう」
「…………っ、待ってください。……今度は私が誓います。もし、生まれ変わっても、何度でもベリアス様とこの花を見に来るって」
抱き合った二人を祝福するように舞い散る、白銀の光と赤い花びら。
幻想的な光景は、ようやく手にした二人で過ごしていく、これからの時間を祝福していた。
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