本当の結婚式
先日行われた、王都での結婚式。
襲撃されたことも、そうそうたる参加者たちの顔ぶれも、王族をしのぐほど豪華だった式典も、すべて王都での話題を総ざらいするには十分だった。
それに比べて、魔塔で行われる結婚式は、ごく一部の人間だけが招かれて、質素に行われた。
(…………でも、参加者の豪華さがおかしいのですが)
主賓席に座るのは、国王陛下。
ルナシェの隣で、ともに歩むのは、魔塔の主、兄アベル。
ルナシェを待つように、赤い絨毯の先に待っているのは、王国の英雄、騎士団長ベリアス・シェンディア。
招かれているのは、最近王都のすべての最高級品と生活必需品は、必ずこの商会を経由するとまで噂される、黒鷹商会の商会長ガスト、副団長ジアス・ラジアルだ。
(王国の中枢、あるいは裏を担う人材ばかりなのでは……)
けれど、ルナシェを見つめる瞳は、誰も彼も優しいから、緊張することはなくルナシェは、ベールの中で密かに微笑んだ。
この時間を、どれだけ待っていたかわからない。
まるで、千年の時、この瞬間だけを待ち望んでいたようにすら思えて……。
「ルナシェ」
穏やかなベリアスの声が聞こえる。
すでに、二人にとっては三回目の結婚式に違いない。
けれど、ようやく手にした、本当の夫婦になるための結婚式だ。
「ようやく、この瞬間を迎えた」
「ベリアス様……」
アベルの手を離れ、ベリアスの元に歩む。
そっと握られた手は、もう離さないと言外に伝えているかのように力強かった。
ルナシェを何度も貶めた王族は、すでにベリアスの手により力を失い、隣国とミンティア辺境伯家は、再度交流が開始している。
ルナシェを追い詰めた出来事の中心は、前魔塔の主だったことが、取り調べにより明らかになった。
取り調べは、副団長ジアスが執り行ったらしい。
魔塔を手に入れ、王国全土をその支配下に置こうとしていた前魔塔の主、尋問の詳細な内容については、国王陛下とアベル、ベリアスの三人だけに知らされ秘匿された。
(これで、すべて本当に終わるのですよね)
「…………ルナシェ、これは始まりだ」
「ベリアス様?」
「――――アベル殿が言うには、俺が強いのは、無意識に魔力を使っていたかららしい。だが、俺は今夜君にすべての魔力を譲渡するつもりだ」
「……ベリアス様」
「ああ、断るなよ? アベル殿が、方法は教えてくれたし、今夜のそれは決定事項だ」
ベリアスを巻き込みたくない気持ちは、今もルナシェの心にある。
それでも、きっとベリアスは、何度繰り返しても諦めることなどないのだろう。
それはきっと、事実であり、すでに証明された出来事に違いない。
「――――私にも、魔力はあるのですよね?」
「え? それは、もちろん膨大な魔力が秘められているらしいが」
「では、私の魔力をベリアス様にあげますね?」
「……方法を聞いてもいないのにか?」
「できますよ!」
「…………そうか、今夜が楽しみだな」
誓いの口づけの時間だというのに、花嫁が抱き上げられたのを参加者は微笑ましく見つめた。
たぶん、ルナシェの瞳は今夜、紫に色を変えるのだろう。
それは、幸せな二人がようやく手に入れた物語の始まりなのだから。
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