表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/69

義兄と義弟



 険しい表情を緩めることもなく、それなのにベリアスは膝を床についてアベルに敬意を示した。

 ルナシェは、変わってしまった二人の関係を目の当たりにして、息をするのも忘れ、見守るしかできない。


「偉大なる魔塔の主、アベル殿」

「……ああ。思ったよりも早かったな」

「……ルナシェが魔塔に攫われたという報告を受けたなら、どんな手を使っても駆けつけるに決まっています。さて、挨拶も終えたことですから」


 ルナシェの目の前で、アベルが壁際まで吹き飛んだ。しかし、ベリアスは、何もしていない。


「さすが、一流の武人の覇気は違う。しかし、なぜここまでの力を持っていて、前回はルナシェを救うこともできずに先立った?」

「……前回よりも強くなったのは、間違いないです。もう、俺は誰にも手加減などしませんので」


 それでも、未だにベリアスは甘いと思いながら、アベルはよろよろと立ち上がる。


「それならば、息の根を止めるべきだった」

「……アベル殿がルナシェを攫うように連れてきたから、こんなことをしたわけではありません」

「そうか。それならば、なぜ」


 赤い光は完全に消えて、再び室内は、瑠璃色の光に満たされる。

 その光に溶け込んでしまうようなアベルの瞳が瞬いた。


「ルナシェが泣くようなことをしたからでしょう?」


 ここにルナシェとベリアスが来てから、無表情だったアベルが破顔する。


「そうか。しかし、本当にこの場所は、ルナシェの次に大事な場所で、俺の夢が詰まっている場所でもある。まあ、妹もとうとう嫁に行くことになってしまったからなぁ」

「そうですか。……まあ、構いません」

「……ん?」

「ミンティア辺境伯家の始祖は、魔塔の主です。そして、ギアードは、俺たちのものになった。つまり」


 ベリアスの笑顔が、いたずらを思いついたようだと、ルナシェは思った。


「この場所に屋敷を建ててしまえば、ミンティア辺境伯家の本邸がこの場所で構わないということです」

「ん、んん?」

「申し訳ないのですが、俺はシェンディア侯爵家を継いだばかりで手一杯ですし、ルナシェにいらぬ苦労をさせたくはありません。それに、ルナシェと俺の子どもは、何人生まれようとも、ミンティア辺境伯家に譲るつもりはないです。ミンティア辺境伯家の今後については、義兄上がご自分でどうぞ?」

「……どこから聞いていた?」

「ルナシェが消えたときに、すぐにグレインに連れてきてもらったので、おそらく最初の方からです。アベル殿の行動はわかりやすい。騎士団長を欺くのであれば、もっと巧妙にならなくては。……すでに、準備を進めていますし、結婚式も本番はこちらでする予定です」


 室内に沈黙が流れ、そしてそれは、アベルの笑い声で消えた。続いてベリアスも豪快に笑う。


 ベリアスから熱っぽい視線を向けられて、赤面したまま話すことすら、できなくなったルナシェと、退室の機会を失ったらしいグレインの二人だけが、沈黙を守っていた。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ベリアスさま素晴らしい!そうですよね、本邸をここにしてしまえばいいんですね^_−☆ アベルお兄さまにも良いことありますように*\(^o^)/*
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ