離れがたい絆
「ああ、宝石も喜んでいるようだ。ずっと探していたのに、見つけることができなかったが、ベリアス殿が手に入れてくるとは……。運命というものは、たしかにあるのだな」
「お兄様……。私」
ルナシェは、静かにアベルを見つめた。
覚悟を決めてしまったような兄の様子に、さざ波のような不安が広がっていく。
けれど、こうなることを、どこかで知っていたような、不思議な感覚すら感じる。
「――――案ずるな。ルナシェ、たとえ俺がこの場所からどこかに行くことができないのだとしても、すでにギアードはベリアス殿のものだ。つまりそれは、ミンティア辺境伯領と魔塔にすでに垣根はなくなったと言うことでもある」
「でも、お兄様は」
ルナシェのせいで、間違いなく犠牲になった……。
そう思わずにはいられない。
「俺は、妹とミンティア辺境伯領以外は、魔道具以外しか興味がない人間だ。この場所は、夢を叶えるのにちょうどいい」
アベルの言葉は、嘘ではない。それは、ルナシェにも分かる。
でも、すべてが本当でもない。
アベルには、ルナシェと違って友が多い。
そして、馬に乗って遠くまで行くことも、誰かと訓練のために剣を交えることも、そして辺境伯領の嫡男として誰よりも努力してきたことも、アベルが大事にしていることをルナシェは見てきた。
「嘘つきです……」
「泣くな、ルナシェ」
「泣いていません!」
ボロボロと瞳からこぼれてしまう雫を乱暴に拭ってルナシェは、泣いていることを否定する。
「そうか、強がりだな。俺のかわいい妹は、あいかわらず」
もう一度抱きしめられた後、黒いローブのようなコートがフワリとルナシェの肩に掛けられる。
「この場所は冷える。まあ、そう待つこともなく迎えが来るだろう」
「……私、お兄様が帰るまで、帰りません!」
「はは。兄冥利に尽きるが、そろそろ兄離れしろ? ……結婚式に参加できないのは残念だが、式の前に花嫁姿を見せに来てくれ」
その言葉で、ルナシェは絶対にアベルが、この場所を離れる気がないのだと思い知らされる。
「ミンティア辺境伯家は、どうするのですか」
「しばらくは、ベリアス殿に代行を務めていただこう。ルナシェが継いでもいい。……俺はここから離れることはできないが、力になることはできるから」
「――――いつでも、会えるのですか?」
「……いつでも、ルナシェが会いたいときに」
ゆっくり離れていく体。
兄の真意は理解できないまでも、決意が揺るがないのだと、すでにルナシェは気がついてしまった。
その時、赤い光で室内の瑠璃色の光がかき消されていく。
「――――ほう、早いな。前回もこれくらいの行動力を持っていてくれれば、いらぬ苦労をしなくてすんだのだが」
「え、ベリアス様?」
ルナシェの目の前には、疲労感をあらわにしたグレインと、いつも穏やかな緑の瞳を鋭くしたベリアスの姿があった。




