表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/69

瑠璃色の宝石と魔力


 黒い生地を取り囲むような、金色の蔦の意匠と揺れるチェーン。

 黒いローブ風のコートを肩からかけて、瑠璃色の瞳をこちらに向けた男性がルナシェに微笑みかける。

 目の前にいるのは、服装こそ違うが、間違いなくルナシェの兄、アベルだ。


「お兄様……」

「急に呼び出してすまない」

「……っ、ご無事でよかったです!!」


 ルナシェは、思わずアベルに抱きついた。

 ふんわりと、ルナシェを抱き留めたアベルは、そのまま強く抱きしめ返してくる。


「攫われるように連れてこられたんだ。……少しは、疑いなさい」

「私が、お兄様を疑うことなどありません」


 断頭台に消えたルナシェは、本当はもっと人を疑うべきなのかもしれない。


(でも、大切な人たちを疑わなくては生きられないというのなら、私はもう一度同じ未来を迎えても構わない)


 やり直した世界で、ルナシェの世界は広がった。

 家族以外では、ベリアスくらいしかいなかったルナシェには、今、信じるべき大切な人たちがいる。


「……変わらないな。俺の妹は」

「お兄様こそ、これはどういうことなのですか?」

「見ての通り、魔塔の主になった」


 ルナシェは、アベルを見上げる。

 ルナシェにまっすぐ向けられた瑠璃色の瞳は、真実を告げている。


「……ミンティア辺境伯領に、帰りましょう?」

「それは、できない」

「お兄様は、ミンティア辺境伯家の当主ではないですか!」


 ルナシェを抱きしめていた力が、不意に緩む。


「初めてなんだ、妹が無事なのは」

「何を言っているのですか」

「ルナシェ、あの時も思い出して、助けようとしたのに、間に合わなかった。俺が魔塔にたどり着いたとき、すでにルナシェの瞳は」


 あの時というのは、やり直す前のことだろうか。

 やはり、ルナシェがやり直しているのは、アベルの魔法だったというのだろうか。


「……お兄様」


 握りしめた瑠璃色の宝石。

 ベリアスの手を経て、ルナシェの元に届いた宝石には、魔法が込められていた。


「この宝石に込められていた魔力は、お兄様のものだったのですか?」

「……いや、魔法が使えるのは、この場所に立ったときだけだ。それが、大きな魔法を使うための、俺にとっての制約だ。その宝石、グレインの魔法が込められているな……。だが、今ならもう一度」


 ルナシェは、とっさにネックレスを握りしめて、アベルから遠ざける。


「では、この宝石に込められていたのは、誰の」

「……魔塔の初代主が、妹を救うために込めたものだ」


 キーンッと、どこか硬質な音が、瑠璃色の宝石から響く。

 その音は、まるで、このときを待ちわびていたようだった。



最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ