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繰り返される運命



 領主の館は、古い造りだったが、掃除が行き届き、思った以上に整えられていた。

 事前に手が加えられていたようだ。

 ギアードは、王家の直轄地でありながら、独自の立ち位置だ。

 ミンティア辺境伯領のように広大ではないが、宝石など貴重な鉱物が算出され、何より……。


「ふむ、魔塔を甘く見ていたか」


 苦々しげにベリアスがつぶやく。

 それもそのはず、領主の館の執務机には、すでに金の封蝋が押された黒い手紙が出迎えるように置かれていたのだ。


「……事前に人をやって、周囲への警戒を怠らないようにしていたのだが」

「無駄ですよ。魔法を使えば、この場に手紙を置くなど造作もないことです」

「……魔術師とは、人知を超えた力を持つのか?」

「それなりに代償はありますが」


 そう言って、ルナシェとベリアスの後ろに控えていたグレインは、黒い封筒を手に取った。

 そして、どこから取り出したのか、ペーパーナイフを使い、慣れた手つきで封を開ける。


 黒い封筒から出てきたのは、瑠璃色のラインが引かれた白い便せんだった。


「お兄様……」


 黒い封筒の威圧感と対比するように爽やかな印象の便せんに濃いブルーのインクで書かれた文字は、たしかにルナシェの兄、アベルの筆跡だ。


「なぜ、アベル殿が魔塔の封筒で手紙をよこす」

「それは、わかりません。けれど、瑠璃色の瞳の人間であれば、おそらく魔塔の魔術師は、歓迎するでしょう」

「魔塔の初代の主が、瑠璃色の瞳だからか?」


 ミンティア家の初代当主は、魔術師であり、魔塔の当主でもあったという。

 伝わる文献、絵画、全てに特徴的なのは、瑠璃色の瞳だ。


「そうですね。特にアベル殿は、当てはまっていますから」

「何が当てはまっていると」

「同じ瞳の色をした妹」


 漆黒のグレインの瞳が、ルナシェの瑠璃色の瞳をまっすぐに見つめた。

 知らず、乾きを潤すように、ルナシェの喉がコクンと上下する。


「瑠璃色の瞳は、いつだってたった一組しかない」

「え?」

「その力が、強すぎるから、もう一つは運命に排除されてしまう」

「それは」


 それは、まるで、やり直し前の、ルナシェの運命のようだった。


「……瑠璃色の瞳を研究対象にしている、ある魔術師の一考察に過ぎませんが」

「……グレインさんの個人的見解ということですか?」

「あくまで、ある魔術師の、です」


 瑠璃色と瞳を研究対象にしているというグレインの言葉。

 おそらくこれが、ルナシェとベリアスに伝えられるギリギリの情報ということなのだろう。


「ルナシェ……」


 気づかわしげな、ベリアスの表情に気がつき、ルナシェは微笑む。

 まだ、ルナシェとベリアスは、二人とも無事で、一緒にいる。


 たとえ、この運命が繰り返されているのだとしても。

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