黒い封筒、金の封蝋
光り輝くシャンデリアと、白を基調とした室内に輝く黄金の装飾。
赤い絨毯はつややかで、どこまでも続いているようだ。
その中を、白銀の髪をきらめかせ、瑠璃色の瞳を瞬かせた、月の化身のような令嬢が静かに歩いて行く。
その横にいるのは、背が高く騎士の盛装を着こなした、くすんだ赤い髪の美貌の騎士だ。
「遅かったではないか。待っていたぞ」
「は、王立第一騎士団長、ベリアス・シェンディア。御前にはせ参じました」
ベリアスの三歩ほど後方で、ルナシェは洗練された礼を披露した。
それだけで周囲から感嘆のため息が漏れる。
美しき月の化身のような令嬢と、燃えさかる太陽のような騎士団長。
二人が並ぶと、そこだけ空気が変わったようになると、誰もが感じた。
「ベリアス……。いや、シェンディア侯爵になったのだったな?」
「ええ……。一族の不祥事、いかような処罰も」
「いや。すでに、フィアット元侯爵夫人は、貴族籍を剥奪された上に、流刑となった。シェンディア侯爵の活躍がなければ、王国はここまで有利な条約を結ぶことは出来なかっただろう。罪は問わない。むしろ褒美を取らせよう」
「は……。ありがたき幸せ」
ルナシェは、国王陛下の視線がこちらに向いたのを感じた。
「面を上げよ」
ゆっくりとルナシェは、国王陛下に顔を向ける。
伏せたままの瞳は、白銀のまつげに彩られ、粉雪の降る瑠璃色の夜を連想させる。
「ベリアス・シェンディアと婚礼をあげると聞いた。ルナシェと言ったか」
「はい、ベリアス・シェンディアの婚約者。ルナシェ・ミンティアでございます」
「――――その瑠璃色の瞳、アベル・ミンティアによく似ているな」
ルナシェが、あまり公に姿を現さなかったせいで知られていないが、ミンティア辺境伯兄妹は本当によく似ている。
ルナシェは社交界での影響力を、アベルは王国での発言力を日々強めている。
そして、王国騎士団で揺るぎない立場となったベリアス。
王国の力関係は、すでに変わりつつあり、水面下でどの貴族も、立ち位置を探している。
「祖先の瑠璃色の瞳を継いだ兄妹か」
しかし、国王陛下の視線は、ルナシェではなくルナシェの下げたネックレスに向いている。
「――――シェンディア侯爵。これからも、王国の力になるがよい」
「は、この剣にかけて」
「うむ」
そのまま、国王陛下はベリアスとルナシェに背を向け、壇上にある椅子に座った。
「さて、褒美を取らせよう。望みのままに」
「――――ミンティア辺境伯領の東方。ギアードを望みます」
ベリアスが告げたのは、ルナシェが断頭台にいた時、アベルが向かった場所だ。
ギアードは、ミンティア辺境伯領に接していながら、王国の直轄地だった。
その先に、東方の魔塔があると言われている。
「ギアードか」
「…………陛下、こちらを」
瑠璃色の宝石、一対のイヤリング。
それは、見る人間が見れば、明らかに魔力が込められた品であることが分かるだろう。
ルナシェのやり直しとともに、封じ込められていた魔力が空になったはずの品だ。
「魔塔と接触する手段があると申すか」
「――――ええ、その通りです」
ルナシェが触れてはいけないとグレインに止められた金の封蝋が施された黒い封筒。
ベリアスの手の中には、なぜがその封筒があった。
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