変わる未来
副団長ジアスを前に、ルナシェは思わず満面の笑顔になった。
今回の人生でも、やり直し前も、会話らしい会話をしたことがないルナシェとジアス。
けれど、ベリアスから聞いていたジアスは、ルナシェにとって、尊敬できる人だった。
「――――ほとんど、初めましてですよね。ベリアス様の婚約者、ルナシェ・ミンティアと申します」
あえて、ルナシェは辺境伯家令嬢であるとは名乗らなかった。
ベリアスの部下であるジアスに対しては、あくまでベリアスの婚約者という立場でいたかったからだ。
「第一騎士団副団長ジアス・ラジアルと申します」
柔らかく優美な騎士の礼。
ベリアスの礼も、優雅だがジアスのそれは、見るものを惹きつける。
「……お会いできてうれしいです」
「……俺もです。命を助けていただいたこの恩は、騎士としてのすべてを掛けてお返しします」
「……え?」
ルナシェは、白銀のまつげに縁取られた瑠璃色の瞳を見開いた。
命の恩人だなんて、まるでルナシェがやり直していることを知っているような言葉だ。
慌てて見上げたベリアスは、にこりと笑い頷いた。
「あの……。恩人だなんて。ベリアス様が恩人というのなら分かりますが」
「もちろん、団長は恩人ですが、俺も何度も命をお救いしていますのでお相子です」
「え、あの……。どうして私のことを、命の恩人などと」
「だって、本当は俺は今ここにいないのでしょう? 先の奇襲で命を落とすはずだったと、団長が言っていましたから」
信じるのだろうか……。
むしろ、そんなジアスが信じられずに、ルナシェの方が戸惑ってしまう。
記憶を取り戻す前のベリアスにしても、ジアスにしても、あり得ないことを素直に信じすぎではないだろうか。
「あ、ご心配なく。何でも信じるような人間ではないので、俺は。ただ……奇襲が事実だったこと、置かれた状況、信頼している団長の言葉だから、今回は真実だろうと判断しただけです」
まっすぐにルナシェを見つめて、ジアスも微笑み返す。
「そう、ですか」
誰も信じてくれなかったやり直す前。
頼りになるはずの兄とも引き離され、たった一人で迎えた最後。
「……それなら、ジアス様は幸せになれますか?」
「え?」
「これから先、前回の分まで、幸せになってくれますか?」
ジアスの笑顔が固まる。
戦場に身を置いて、未来が見えなかったジアスには、ある意味重すぎる言葉だった。
そして……。
「今みたいな言葉、簡単に口にしてはいけません」
「え?」
つないでいた手を引かれ、ベリアスに背中から抱きしめられたルナシェは、パチパチと瞬きをした。
「深窓の令嬢として過ごさせたかった、ルナシェ様のご家族の気持ちが分かります。これは……」
「そうだな。夜会にももう一人で参加させるのはよそう」
「それが良いでしょうね。こんな言葉を掛けられたら、誰でもグラリときます」
そのあと、ルナシェは、部屋の端のソファーで、二人の働きをただ見ていた。
ベリアスとジアスが有能であることは、誰が見ても明らかだ。
そして、二人そろえば、誰にも負けないであろうことも。




