瑠璃色と赤色の宝石
今朝から2話更新していますので、まだ見ていない方は前の話からご覧下さい。
それから一ヶ月が過ぎた。赤い花のポプリと、刺繍されたマントを贈ったあと、しばらくの間ベリアスからの手紙は届かなかった。
けれど、王都にはベリアスの活躍の情報が届き、それはルナシェの耳にも入る。
ルナシェは、手紙も書けないほどの状態の中に、ベリアスが過ごしていることに胸を痛めていた。
そんなある日、唐突に届いた手紙。
そこには、ベリアスが帰還する、と書かれていた。
(どうして! どうしてなの?!)
ルナシェは、手の震えを押さえることも出来ないまま、その手紙を抱きしめた。
ルナシェの言葉を信じると言ってくれたベリアスは、おそらく身を潜め、隣国の奇襲を防ぐつもりだ。
だから、この手紙の通りにルナシェのもとに帰っては来ない。そのことをルナシェは、理解している。
『ルナシェ、ようやく君の元に帰れそうだ。待っていてほしい』
けれど、手紙に書かれていた文面は、あのときとまるで同じ内容だった。
あの日、ルナシェは素直に喜んだのだ。
初恋の人、ベリアスにようやく会えることに。
政略的な婚約で、ルナシェが思うような気持ちをベリアスが抱いていないとわかっていても、会えるのがうれしくて。
ぐらぐらする視界と、胸に湧き上がる不安。
過去と同じ文面で綴られた手紙は、未来を変えることなんてできないとルナシェに告げているようだった。
その時、封筒が斜めになってシャラリと床に何かが落ちた。
「えっ……?」
床にしゃがみ込んで拾い上げたそれは、華奢なチェーンに、ごく小さなくすんだ赤色の宝石がはめられたブレスレットだった。
「ベリアス様の髪と同じ色……」
同じ文面の手紙に同封されていたのは、初めて見るかわいらしい贈り物だ。
以前の人生でベリアスは、たくさん贈り物をくれた。けれど、ベリアスの色をした贈り物は、あの日の赤い花だけだった。
あの時のベリアスは、自分を待つ運命を知っていて、ルナシェに自分を思い出すようなものは、何も残すまいとでもいうようだった。
「……うれしい」
今すぐ会って、見つめ合って、どれだけ嬉しいかを伝えたい、とルナシェは思う。
指先が震えすぎて、なかなか、ブレスレットの金具がはめられない。
そばにいてくれたなら、きっと手ずから身につけてくれたのだろう。
「待つしか出来ないけれど……」
ようやく身につけた宝石が、キラキラと輝く。
それは、ルナシェを前にした穏やかなベリアスの笑顔みたいだった。
ルナシェは、そっと赤い宝石に口づけを落とした。今度こそ、二人で幸せになりたいという願いを込めて。
胸元の瑠璃色の宝石が、静かに瞬く。
それはまるで、愛しい色との再会を喜んでいるかのようだった。
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