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「……私のために集まってくださって、ありがとうございます」


  本日の主役であるルチアは不機嫌な声で挨拶をすると、頬を膨らませた。


  言葉と態度が合っていない。明らかに先程まで不貞腐れていましたという聖女を煽てたり、おべっかを使ったりする取り巻きたちが青い顔をしながら手をパタパタと振っている。


「どうして? こんなに人がいないの?」

  ルチアは傍に控えるユリウスに不満を零すが、それが周りに聞こえていることはお構い無しだった。

  頬をあざとく膨らませ、上目遣いをしてユリウスを見つめ、会場の男たちを見渡し、彼らにも同じような視線を送っている。

  目を潤ませ今にも泣きそうな庇護欲を刺激されるような吐きそうな程甘ったるい、彼女の甘え顔。

  本人はそれが効果てきめんだと思っているのか、唇を僅かに窄めて、可愛らしく我儘を言っている感を演出している。

  それがあざとくて若干イラッとするのだが、ルチアは自分が周囲を苛立たせると思っていない。

 ──まあ、今ここに居る者たちは、ルチア様の信望者が多いからそんなことはないと思うけれども。


「私寂しいわ。男の人たちばかりで女の子がアリス様しかいないの」


  アリスは訳知り顔で沈黙する。怪しまれないように顔は逸らす。遠くからなので問題はないとは思うが念の為。


  ふと昨日のことが蘇ってくる。

  これは昨日のことだ。王宮にいるアリスに大勢の令嬢たち──ジュリアやマーガレットを含んだ──が突然押しかけてきて言い放ったのだ。

「人海戦術ですわ!」

「はい?」

  きょとんとするアリスに、したり顔でジュリアは説明する。

「明日のルチア様のパーティ、女性は皆出席しないということになりましたの! 根回し済みですわ」

  大方最近作られてきた、アリスを代表とした淑女の横の繋がりを使ったのだろう。

「是非、アリス様もご協力を!と言いたいところですが、立場上厳しいかとお察ししますわ。嫌なパーティに参加が義務付けられているなんて……きっとご気分も良くないでしょう?」

「何しろ似非聖女のお守りですものね」

「だから、せめて私たちがアリス様の分まで、ルチア様へ反逆行動を取ろうと思いまして。彼女の思う通りに行かなければアリス様も少しはご気分が良くなるはずですわ」

「あの生ゴミ女の悔しそうな顔を見られるのはさぞかし溜飲が下がると思いますの!」

  彼女たちにはエリオットでも乗り移ったのだろうか。日頃の鬱憤をぶつける勢いで彼女たちは、ルチアのパーティに参加しないことで反抗しているのだ。

 ──確かにそれはルチア様への明確な反抗になるけれど。

「貴女たちはそれでよろしいのですか?」

  ルチアに目を付けられてしまったら、とアリスは懸念している。

「大丈夫ですよー! 1人じゃないですから! 私たちの方が数で勝っておりますのよ?」

  成程……となんとなく理由が把握出来たので頷いてみたものの。

「ルチア様が貴女たちに手を出したら、私が全力で守ります」

「アリス様、そこまで私たちのことは気にしないでください。アリス様が1番危ないお立場なのだから……」

「……」

  集団で欠席という今回の彼女たちの計画に、アリスが呼ばれなかったのは、どうやらアリスの身を心配してのことらしい。

  彼女らを先導していると思われる上に、アーネストの婚約者であるアリスが明確に敵意を向けるのは危険だった。


  少し前の出来事を回想していれば、ルチアはアリスに向かって指をビッと突き付けた。

 ──マナーがなってないわね……。

「アリス様が何かしたんですか? いくら私のことが羨ましいからって……あんまりですぅ!」

  前後の脈絡がないまま犯人にされかかっている。

 ──彼女たちが思っていた以上に、ルチア様は頭の出来が……その……ふんわりとされているわ。

  ざわざわとアリスを中心にこの場が混乱していく。

  アリス様は忠誠を誓ったのでは? ……いやいや、それは実は嘘なのでは? いえいえ、アリス様がそんな嘘をつく必要はないのでは? 以前からの知り合いだったって噂もありますよ。

  たくさんの声がアリスを苛む。

  まさかここでこんな目に遭うと思ってなかった。

  大きな溜息をつきそうになる瞬間、隣からすぐにアリスを助ける真っ直ぐな声。

「まさか! そんなことはない。この数日間、アリスは僕と行動していたからね。侍女たちに聞けば証拠はあると思うよ」

  アーネストが咄嗟に反論してくれて、その場のざわつく雰囲気は一旦治まった。

  アリスを人目から隠すようにアーネストは前に立ってくれていて。

  それでもルチアはそれすらも面白くなかったのか、人目を気にすることなく喚き始める。


「侍女たちに聞いたところで、何も変わらないわ! アリス様、自分だけ目立とうとして……私が主役なのに……」

  フリルとリボンでゴテゴテに飾り付けたピンク色のウェディング風ドレスを着用しているルチアには言われたくなかった。

 ──たぶん、彼女がつくらせたものだろうけれど、纏まりがないドレスね。

  可愛さとセクシーさと無垢さと派手さをごちゃ混ぜにして、それぞれの良さをお互いが殺し合っている残念なドレスだった。

  アリスのドレスといえば、薄いブルーの無地のドレスでレースが控えめに飾り付けられている上品なドレスだ。胸元は開いているが下品になりすぎず、形を意識して美しく見せるように工夫されている美のためのドレスだ。

  服に着られるのではなく、あくまでもアリス自身の美しさを強調するようなドレス。

  たった1人の淑女相手に、ルチアは見苦しくも詰り続ける。

「酷いわ……! 胸がおありだからって、そうやって見せつけるなんて! 私を虐めるのですか?」

  くすん……とわざとらしい涙を零し始めた彼女を見た途端、アリスの目は死んでいく。

 ──今すぐ帰りたいわ……。何なのかしら……この茶番は。

  周りのギャラリーたちは固唾を飲んで見守っているが、誰か仲裁してくれる人はいないだろうか?

 ──殿下以外で。

  今にも飛び出しそうな彼に、首を振ることによって押し留める。

「好き勝手言われてるのに!?」

「火に油を注ぐだけなので」

  小声でやり取りをしていれば、ルチアはまたもや叫ぶ。

「酷いわ! アリス様」


  もはや何が何だか分からなかったが、そんな時、周りの人々のうちの勇者すぎる誰かが、ぽつりと呟いた。


「ルチア様、胸がないからなあ……。アリス様と並んだら……そりゃあ……」


  それは本気でルチアを気の毒に思っている、心優しい──人はそれを余計な一言と言う──誰かの言葉だった。


  今回、ルチアのドレスが滑稽に見える理由として、己の身体に合わないドレスを着ているというのもある。


  ルチアのドレスは派手で胸元もガバッと開いていたのだが、ルチア自身膨らみが一切なく腰のくびれもない方だったので、圧倒的な違和感が来場者を襲っている。

  セクシー路線よりも聖女らしい清楚さを強調した方が良かったのではないだろうか?


  その余計な一言を耳にしたルチアは顔を真っ赤にしたかと思うと、アリスに向き直り、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


 ──え?


  それはドロリとして粘着質な気味の悪い笑み。およそ聖女らしくない笑みだった。

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