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012

偶因転生成魔女 災神相仍不可逃 今日変態誰敢敵 当事性欲共相高

我為魔女神代下 我乗調子気勢豪 此夕対乳山佳月 不成長嘯但揉胸




やっはろー、ギリシア世界のシンデレラガール、メディアちゃんだよー。今日はアカデミックに漢詩なんて読んでみたよー♪ ドヤァ?



「さすが私。東方世界の詩作に通じるなんて教養高いですね」


「ぴ~ぎゃぁ~~」


『そろそろ現実を直視したらどうですかメディア』


「あー、あー、聞こえなーい」



見ざる聞かざる言わざる。


目の前で行われている、岩を彫って作られた台座上の祭壇の上で行われている、いささか陰惨な儀式なんて知らない。


ジャガーの毛皮とか人間から剥いだ皮を身に纏った神官たちの、直視したらSAN値が下がる猟奇的な作業と意味不明で奇怪な歌とかも知らない。


なので、私の頭の上でケチャップをラッパ飲みしている翼の生えた黒くてでっかい蜥蜴(鳴き声は黄色い電気ネズミ風)とかも知らないのだ。


あー、プルケ旨ぇ。つーか、飲まずにやってられるか。でも、トウガラシ入りのホットチョコレートは勘弁な。



「メディア、変な生き物がいたぞ」


「アタランテちゃん、さっそく狩りですか」


「こいつは脅かすと丸まって可愛らしい。あと、こいつはやる気がないな。まあ、お前の頭の上のヤツに比べるまでもない雑魚だがな」



アタランテちゃんがジャガーやらアルマジロやらナマケモノを捕まえてはドヤ顔で見せに来る。猫がネズミを捕った後に見せに来るのと同じ論理だろうか。


でも、アルマジロは可愛い。苛めると丸まったりして可愛い。私の頭の上の、声がどこかの黄色い電気ネズミに似ている蜥蜴とは大違いだ。



「の、のう、メディア。そやつ、ワシのこと噛まないんじゃよな?」


「今はお腹一杯だから大丈夫ですよ」


「は、腹がすいたら噛むのか!?」


「腕一本ぐらいで済むように躾けるつもりですよ」


「そうかそうか、それなら安し…、ぜんぜん安心できないじゃろうが!!」



相変わらずは煩い幼女だなあぺリアスは。ちょっと神経質じゃないだろうか。私の頭の上を占拠している時点で、どう考えても最初のゴハンは私なのに。


なお制御が相当甘いので、この蜥蜴、私の完全な支配下にはない。



「そうですね…、ケチャップを捧げれば、命だけは助かるかもしれえませんね」


「作り方を早く教えるのじゃっ!」



必死だな。


しかし、どうしてこの蜥蜴、ケチャップ好きになったのか。中の人繋がりなのだろうか。おかしいな、声とか特に設定してないのに。


とりあえず、捧げられた鹿肉の焼いたの(もも肉)にケチャップをたっぷりかけて蜥蜴に差し出すと、



「ばぐっ」


「ひっ!?」



ペロリと一口した。まだ食うのかコイツ…。骨ごとボリボリ咀嚼するので、傍にいたぺリアスたんが恐怖に顔を引きつらせる。


そういえば、今のもも肉(骨付き)、この幼女の腕と同じぐらいの大きさでしたね。ちょっとデリカシーがなかったでしょうか。テヘッ。


とはいえ、姿かたちは紛れもない幼女。顔を真っ青にしてガタガタ震える姿は同情を誘う。


まあ、目の前で心臓抉り出しカーニバルしてるから、こんな風に怯えても仕方ないよね。あ、また心臓抉り出した。



「の、のう、メディア。ワシ、ちょっと気分が悪いんで、船に戻ってて良いかの?」


「おや、もう食事はいらないんですか?」


「お主、良くこんな場所で呑気に肉が食えるのぉ…」



心臓抉り出しカーニバルを眺めながら、七面鳥の肉とインゲン豆を煮こんで作った真っ赤なチリソースでトルティーヤを食べる行為の事だろうか。


トウガラシはなかなか刺激的で美味しいですよ?



「は、吐きそうじゃ…」


「はは、私のSAN値はとっくにマイナスですから。貴女も慣れないとこの先辛いですよ」



コイツ、罰でこういう姿にされているの忘れてないだろうか? 幼女という肉体にあることで受ける不利益こそがこの罰の本質なのに。



「それ、予言なのか!?」


「さぁ?」



さて、一部の人はもう気づいているだろう。今、私がいるのはアメリカ大陸である。具体的にはメキシコの東海岸あたり。


高台の祭壇で歓待?されているのには、ちょっとした経緯があるのだけれど、それはまあいい。


見下ろせば巨石文明。でっかい顔だけのオルメカな石像が並び、神官たちはジャガーのコスプレ。まだ生きている生け贄の心臓くり貫く作業。


やだ、なにこれ野蛮。とりあえず、心臓にはモザイクをかけておきましょうか。あ、あと注意ですよ。このお話には残酷な描写が含まれています。


そしてそれを眺めながら謎の白い液体を飲む私。ヘラクレスさん? ああ、あの人なら気に入った美少年がいたらしくて、林の中に連れ込んでるそうですよ。



『そういえば、貴方がこんな世界の果てで異文化交流してる間に、コルキス王国が侵略を受けてましたよ』


「は?」


「ぴぎゃ?」



一瞬理解が及ばなかったので気の抜けた返事をしてしまう。え、何それ聞いてない。つーか、貴女コルキス王国の守護女神ですよね。何のんきに話してるんですかね。


というか、国は大丈夫なのだろうか。家無し子とか困るんですけど。つか、お姉さまとかお母様とか愚弟は無事なのだろうか。


やだ、そわそわしちゃう。



『まあ、撃退したみたいですけど』


「あ、そ、そうですか。驚かさないで下さいよ。で、どこです? ウチの国に侵略してきた不届き者は?」



まあ、ドラゴンに襲われて国力低下しただろうから、その隙を狙われて侵攻されたのだろう。


つか、災害で弱った国に侵略とかいろんな意味でアウトだろう。国際社会から非難ごーごーである。米帝がブチ切れて、おそロシアが庇いだてしないぐらいのレベル。


まあ、この世界はまだ弱肉強食だし、侵略が悪だなんていう概念は育っていないのだけれど。《勝てばよかろうなのだ》な世界なのである。


あと、言い訳として被災した現地住民を無能な現地政府に代わって保護するために軍を進駐させましたなんていう言い訳もあるらしい。クズっぽい言い訳である。



『侵略者はアルメニア人とアルバニア人ですね』


「ああ、またあの人たちですか」



コーカサス地方には古来よりいくつもの部族が争ってきた。まあ、メソポタミア文明圏に近く、耕作もできる土地なのでそれは仕方がない。


位置が位置なので、ペルシャやロシアに征服されたり独立したり征服されたりの歴史であり、21世紀あたりではグルジア、アルメニア、アゼルバイジャンといった国々に分かれることになる。


これら3つの国のルーツ的なものは、すでにこの紀元前1,000年以前から始まっており、例えばグルジアにあたる地域には2つの部族が主に存在していた。


まあ、つまりはその一つがコルキスである。もう一つがタオ族という連中で、もちろんタオっていっても中国とは何のかかわりもない。


次に、アゼルバイジャンにあたる地域。ここにはアルバニア人と呼ばれる部族の勢力があり、もう少ししたら国が出来る勢いがある。


アルバニア人と言ってもバルカン半島のアルバニアとは全くもって関係はない。ペルシャ側からはアラン人とも呼ばれている。


まあ、良くも悪くもメソポタミア文明圏の部族といったところ。つまりは農民である。なお、バクー油田とかは特に利用していない。


次に、アルメニアにあたる地域。ここにはアルメニア族が勢力を誇っていて、国家を樹立していたりする。


ちなみに彼ら自身は自分たちの事をハイと呼称しており、これの語源は彼らの始祖たる伝説上の人物ハイク・ナハペト(※イケメン)なんだそうな。


彼は旧約聖書に登場するノアの玄孫とされ、ギリシア神話のオリオンと同一視される巨人殺しの英雄だ。ヘラクレスの神話からも流れをくむとされている。


まあ、ヘラクレスさんほどメジャーじゃないから、ヘラクレスさんとは比べようもないほどに田舎の英雄で芋臭いイケメンなのだろうけど。


ちなみに、アルメニアの語源はこのハイクのひ孫のひ孫、族長アルメナケが興した部族アルメニア族が基になっている。


文化的にはコルキスに似て、メソポタミアとギリシャからの影響を受けている感じだ。神話系にもそれは顕れている。


まあ、この時代では毛むくじゃら蛮族のジャパニーズよりかは文明的である。




「しかし、東と南から同時に侵略されて良く大丈夫でしたね」



二正面作戦なんて戦略的に最悪の部類だ。


しかも、文明レベル的にはそこまで離れてはおらず、お互いに実に原始的な戦術で戦っていたはず。


歩兵をメインとして、チャリオットによる機動戦を基本戦術とするのがこの時代の文明的な戦い方だ。


歩兵は戦車の速度には追いつけないので、戦車に乗った射手によるヒットアンドアウェイで相手の士気や指揮統制を削り、最終的には戦車からのポールウェポンによる突進により撃破する。


エジプトやヒッタイト、メソポタミアなどの数多くの軍がこれを運用し、その威力を高らかに壁画などで記録している。


とはいえ、車輪は独立懸架式じゃないので小回りきかないし、サスペンションがないので振動で乗り心地最悪。あと、平野でしか使えないし、わりと簡単に横転する。


というわけで、遊牧民系の軽騎兵を相手にすると一方的に殲滅されるのが玉に瑕(致命的)。



「あっ」


『そういうことです。だいたい、貴女のせいですね』


「い、いや、その…」


『まあ、彼らの侵略が相互に連携したものではなかったのも大きいですが』



さて、私がコルキス王国から旅立つ前、いったい何をしでかしたでしょうか。


① コークスと高炉と転炉を利用した鉄鋼の量産体制の構築。

② あぶみと鞍の開発。

③ キンメリア人からの良馬の入手ルート確立。



『最初の①とか2000年ほど時代を先取りしてますね』


「わわ、私は悪くない」


『チート乙。タイムパトロールさんこいつです』


「い、いや、製鉄はヒッタイトでもやってるし、あぶみは中国でもうすぐ発明されるからっ」


『もうすぐって言っても千年後ですけどね。これで、火薬が実戦投入されていたら歴史崩壊でしたね』


「訴訟されちゃうでしょうか…」


『誰に?』


「……ベッセマーさんとかですかね?」



基本的に、鉄器はその性質上、特に青銅器に対して優位というわけではない。


優越しているのはその量産性のみであり、優れた青銅はむしろ鉄器よりも優れた性質を多く有している。


例えば、青銅は20世紀の初めまで大砲の主の材料であったし、古代中国では鉄よりも青銅が重んじられた時代があった。


炭素量の多い鋳鉄は、脆くて割れやすく、強靭な青銅には敵わなかったのだ。


ただし、その天下は鋼の登場をもって終了する。より強靭で、しかも鍛造を可能とした鋼によって青銅はベースメタルとしての地位から転落するのである。


で、だ。コルキス王国にはちょっとばかり(2,000年ほど)時代を先取りした転炉と呼ばれるシステムが『どこぞのバカ』による歴史犯罪によって導入されてしまっていた。


あと、火薬も(ボソッ)。



『歴史修正主義者(物理)がここにいます』


「わざとじゃないんです。この右手がエロかったのがすべての原因なんです!」



そう、山にピクニックに行ったら、マブい感じのドライアドさんがいてですね。このままじゃ私伐採されちゃうなんて泣くから…。


石炭利用からコークス作りに発展して、ふいごに高炉、最後にドロマイト使った耐熱煉瓦の転炉に発破用の火薬まで、行くところまで行ってしまったのだけど。


いや、やり過ぎだとは思ったけど。なんであそこまで頑張ったのか私自身も理解しがたいけれど。さすがにマンガンとかはどうかと思ったけれど。


魔法的なチートがなければ3年なんて短時間で実現はしなかったけど。


でも、転生者および歴史犯罪者(ギガゾ○ビ)による技術チートダメ絶対なんて誰も言ってくれなかったし。



『見ていて楽しかったですよ』


「あれ、そういえば、あの時、私を煽ったのって…」


『ドライアド相手に欲情する貴女を見ていると腹が立ったので』


「それって、もしかしてヘカテー様ったら私の事…」



実は私にラブだったの? 言ってくれれば良かったのに。そうすればヘカテー様のベッドにルパンダイブ敢行するのもやぶさかじゃないのに。



『いえ、嫌がるドライアドへの過剰なセクハラで鼻を伸ばす貴女の顔がキモかったので』


「ですよねー」


『しかし、最初の森を守ろうとする貴女の志は素晴らしいものでした』


「デレた! ヘカテー様がデレた!」



いや、まあ、青銅作りのためにハゲていく山と森を見るのが忍びなかったので。


21世紀の現代日本人的な感性だと、樹木が切り倒されてハゲ山になったのを見ると心が痛むんですよ。分かるよね?


そもそも青銅器の生産というのは大量の燃料を必要とする。まあ、産業というものには燃料は必須なのだ。


鉄、青銅、ガラス、漆喰、煉瓦。これらの生産で消滅した森林は数知れず。つーか、今の中東とか見ればその惨状はだいたい想像してもらえると思う。


浪費と汚染こそが人類文明の本質であり、そういうのを見ると神様が洪水でキレイキレイしたくなるのも分からないでもない。


それはそうとして、鋼鉄量産技術を確立させ、さらに《あぶみ》により騎兵の能力を飛躍的に高めたコルキス王国軍は、その技術格差を背景に戦争を終始優位に進めたのだそうだ。



『というわけで、敵野戦戦力の撃滅のついでに、貴女の父親、南コーカサス地方の統一を成し遂げちゃいましたよ』


「親父ェ。災害復興に集中してくださいよ。神話じゃなくて歴史まで変わっちゃってるじゃないですかっ」


『復興資金(あるいは戦争奴隷)が手に入ってアイエテスもウハウハ、私は信仰される地域が増えてウハウハですけどね』


「ヘカテー様、もしかしてお父様を煽ったりしてません?」


『♪~~♪~~』



口笛を吹いて有耶無耶にしようとする駄女神。


でも、どうするんだよこれ。このままじゃ、カフカス・イベリア王国もカフカス・アルバニア王国も歴史の闇に消えかねない。


…まあ、いいか。


兎も角、現時点で一日当たり最大数トン単位での鋼の製造が可能となっていた時点で、分かる人にはそのヤバさが分かるだろう。

(ちなみに明治13年の日本の年間生産量が約2千トン。)


国民的RPGを参考に想定するなら、全身鋼装備の戦士と銅の剣以外は基本皮装備の戦士の戦いと言える。


もちろん、戦いは数である。バルバロッサ作戦の最初の頃は倍の赤軍を相手に突破できたナチスドイツも、人的資源の不足という最大の敵には勝てないものなのだ。


しかしながら、隔絶する技術差をひっくり返すには、わりと無茶な物量が必要になるというのもまた真理である。



『ええ、貴女の父上であるアイエテスは良くやってくれました。騎兵突撃は燃えましたね』


「歳を考えろです親父」



有名な武将とかが雑兵をボーリングのピンみたいに薙ぎ倒す某ゲームの如く親父殿は無双したらしい。


まあ、ヘラクレスさんとかリアルに再現してくれますけどね。知ってるか、ヘラクレスさんのパンチの威力は戦術核に匹敵する。


いやー、本当にヘラクレスさんは仕方ないなぁ。



『で、いつ現実を直視するんです?』


「プルケ超旨ぇ」


「ぴぎゃぴ」



ヘカテー様の声なんて聞こえない。あーあー聞こえなーい。


私は半ばヤケになりながら謎の白い液体を飲み干していく。いやあ、謎の白い液体、一度は飲んでみたかったんですよね。


すると、赤黒く染まった石の祭壇の上に一人の色黒幼女が横たえられるのを見た。おや、なかなか可愛らしい幼女ですね。


そして、神官の男がちょっとハイになりながら黒曜石のナイフを天にかかげる。え、ここで幼女殺すの? いや、さすがにそれはどうかと思うの。


野郎はまあ好きに殺せばいいと思うけどさ。年増のおばさんも、まあ、好きにすればいいんじゃねとは思う。


ほら、生け贄もそれを含めて文化やしね。どこぞのコルテスとかと違って、そういうのに過剰な干渉はいかんと思うのよ。


ギリシアでも生け贄はあるしね。しょうがないね。でも、幼女はダメだ。イエスロリータ、ノータッチ。イリーガルユースオブハンド。


というわけで、



「あうふっ!?」


「あ…」



思わずビーム出して幼女を救ってっしまった私は悪くない。


調子に乗って私の目の前で生け贄カーニバルしていた現地住民がその瞬間、凍りついたように固まり、私に注目した。


やべぇ。



『さて、そろそろ現実に目を向ける用意は出来ましたか?』


「知っていますかヘカテー様。現実というのは自ら目を向けるものではなく、不意に直面するものなんですよ」



例えば災害とか病気とか30歳童貞とかな。直面した時にはだいたいにおいて手遅れという意地の悪さがチャームポイント。


あまり文明レベルが高くなさそうな現地住民の視線が私に集まる。いや、まあ、同時代の日本の原住民の方が多分低レベルでしょうけどね。


彼らの瞳に映るのは明らかに不安だ。生殺与奪権を持つ相手を目の前にしているかのような、そんな逃げ出したくても逃げられない感じの。


具体的にはライオンの檻の中で正座させられている感じ。たまにライオンさんがぽんぽんと頭の上に前足を置いてくるようなヒリヒリ状態。


その時、おもむろに私の頭の上に乗っている羽根つき蜥蜴が身じろぎして、私がビームで脅かした神官の男を睨みつて、一声鳴いた。



「ぴ~ぎゃ~{<意訳>なんや文句あんのか? あるんなら表出ろや(怪獣王なみの威圧)}」


「アイェェェェ!?」



神官は盛大にお漏らしをした。


うん、なんというか、そうなんだ。私たち、敬われ奉られているというよりもむしろ、めっちゃ邪神的な何かとして畏れられている。



『そりゃあ、主神として崇めていた2柱をペロリと食べられたら、どこの人間だってこうなりますよ』


「私は絶対に悪くない」



私は再度罪状を否認した。





さて、事の起こりは1週間ほど前まで遡る。


飛空艇を手に入れた私たちは、とりあえずヘスペリデスの園とかイベリア半島南西に浮かぶエリュテイア島などを巡り、来るべき戦いに備え、必要な素材を手っ取り早く集めて回っていた。


そうして、およそ必要と思われる素材は全て集め終わり、あのバカ主神をヘコませるための切り札作りのために一旦、オケアノスおじい様の御屋敷に戻り、


魔女の釜をかき混ぜる作業により、予定の《切り札》の作成に成功したわけである。


テーブルの上に毛布を台座におかれた、1mほどの高さの大きな白い卵。これこそが私が生み出したモノだった。



『しかし、コレ、制御できるんですか?』


「ヘカテー様がガイア様の協力を取り付けてくれたおかげで、多分、おそらく」


『暴走しても私、知りませんよ』


「まあ、ぶっつけ本番は嫌ですから、どこかギリシア神話圏の外で運用試験しようかとは思ってます。暴走したら逃げます」



何しろ主神を打倒するための切り札だ。生半可なシロモノではない。そして、制御も難しい。刷り込みはする予定だが、どこまで効果があるのか。


とりあえず、地母神ガイア様の加護を得ることは出来たが、暴走したら割とヤバいレベルで災害が起こる。


なので、地中海世界じゃなくて未開な土地で実験したい。というわけで、私はルーレットで試験場所を決定し、新大陸での運用試験を決定したわけである。


ルーレットに載ってた候補の土地ってどこかって? フフーフ。知らぬがブッダですよ。私、もう仏教徒じゃねぇですけどね。


さて、そういうわけで私たちは飛空艇で大西洋を横断。私とヘカテー様以外は海の向こう側に新大陸が在るとも知らず、結構驚いてくれていた。


特に学者肌のダイダロス・イカロス親子とかは興味津々だった。アトランティスじゃないかと考えたらしいけど、アメリカ大陸は沈んでいませんので。


そうして、新大陸の中米あたりの上空を航行していたところ、眼下にて強大な力を持った二つの存在が激しく争っていたのを見つけたのである。


その争いは非常に激しく、嵐や雷を起こし大気を撹拌するほどだった。


あー、このままでは飛空艇が壊れてしまうー。何とかしなくてわー。ということで、私はその場を総合火力演習の現場に選んだわけなのだ。


だから私は悪くないのだ。


そんな所で周りの迷惑も考えず争っていた《翼の生えた蛇》と《ジャガーに変身していた黒曜石のように黒い神格》が悪いのだ。


そして、生まれたばかりのこの某黄色い電気ネズミに良く似た鳴き声の蜥蜴に倒されて、捕食されてしまった不甲斐ない2柱の神こそが悪いのである。


農耕神と戦神を一挙に失い、太陽神の最有力候補が脱落したことで、気温とか農業生産に深刻な影響がこの地方に降りかかったとしても、私は全くをもって悪くはないのである。





『この地方では、有力な神が相争って太陽神の座を奪い合う神話体系だったようですね』


「マヤ・アステカ系列の神話ですね。太陽は不滅ではなく、更新され続けなければならないという」



この時代はオルメカ文明であるが、基本的な神話の構成は変わらない。周期的な世界滅亡と太陽の復活は中米における神話の根幹だ。


そしてこの神話体系には3柱の重要な神が存在する。


その一柱は農耕神としての翼ある蛇。これはククルカン、クグマッツ、ケツァルコアトルとも呼ばれ、秩序や風を司り文化英雄的な側面を持つ。


平和の神という側面が象徴されたりもするが、神話ポポル・ブフにおいては生け贄を求める神トヒールとしての逸話も存在する。


もっとも、このトヒールという名の神が彼であるとは必ずしも断定できない。


トヒールは黒曜石を意味する単語であり、その意味では次のテスカトリポカの起源とも捉えることができる。


二柱目にジャガーと黒曜石の神。ジャガーは中米においてはごく初期から信仰された力と争いの象徴であり、黒曜石は金属を持たなかった新大陸人の主要な武器となった鉱物だ。


これら二つの暴力の象徴が神格化され崇められたのは不自然ではなく、この流れは最終的にアステカのテスカトリポカへと繋がっている。


彼の象徴である黒曜石の黒色は夜の闇へと通じており、また血なまぐさい儀式に用いられるナイフは黒曜石製であった。


この事も彼の争いの神としての性質に大きく影響しているだろう。


三柱目に雨と稲妻を司る天空神。トラロックと呼ばれる彼の信仰は古く広域にわたり、主神として君臨することも珍しくはなく、テオティワカンでは特に厚く信仰されている。


マヤではチャックと呼ばれるなど、中央アメリカにおける広大な地域で信仰を集めており、人々は干ばつを恐れるが故に彼に生け贄を捧げるという。


なお、アステカ神話では不遇。



『どうするんですか? このままだと、メソアメリカの文明、花開く前に滅亡しますよ?』


「ト…トラロック神は残っていたはずです。他にもチャルチウィトリクエ女神もいますよねっ?」


『ああ、あの方たちは先のその仔がやらかしたショッキング映像にドン引きして引きこもったみたいですよ』


「ぴぎゃ?」


「神ともあろうものが情けない」


『いやー、流石に自分たちと同格か格上の2神を生きたまま臓物引き裂いて捕食するなんていうグロ画像見せられたら、私も逃げ帰る自信ありますから』


「いや、でも、こいつらグロへの耐性あるはずでしょ?」



中米、メソアメリカ宗教体系はその始まりからして生け贄をコンスタントに求める系統だ。


神話では長く厳しい夜の中で太陽を求める人々に対し、神が自らへの糧と忠誠を求めて生け贄を要求する描写がある。


曰く「お前たちの耳から血を出し、そして肘を刺し貫いて供犠を行え。それが神々への感謝の印である。」


つか、生きたまま心臓くり貫いてとか、現代人的な感覚では正気を疑うレベルである。


まあ、私はいろんな意味でSANチェックには『慣れて』いるので、それを眺めながらゴハン食べたりできますが。



『生け贄自体は珍しい信仰でもないんですがね』


「中国の殷なんかは生け贄を確保するために、他の部族に戦争吹っかけてましたしね。ギリシアでもやってますし」



古代ギリシアの生け贄儀式で有名なのはイーリアスでのアガメムノンが執り行った生け贄だろう。


トロイアへの出征に際して、船での出航を阻む荒れ狂った海を鎮めるべく、かの王は自分の娘をアルテミスに生け贄として捧げている。


エジプトでは王墓に生きた従者を一緒に放り込むブラック企業ぶりを見せてくれている。死んだ王様に仕えるために死ねとか、もう、ブラックぶりがやばい。


まあ、神権政治社会の王の墓に生きた人間が人身御供されるのは、そこの文化圏でも見られるありふれた光景ではある。


日本でも古墳時代の初期とかはやってたんじゃないだろうか。日本人はルーズでいい加減なので、途中でハニワに切り替えたようだけど。


洗練されたオサレ宗教であるキリスト教にもその痕跡は見て取れる。ミサで使う聖体のことだ。


キリストの肉と同列と定義されたものを食うのだから、その根本にあるセンスは生け贄のそれに近い部分があるように思える。



「くっ、しかしどうしましょう…。あの2神を蘇生するにしても、この神話体系のルール上どれだけ早くても676年かかる計算ですし……」


『最悪、5125年かかりますね』


「人類が宇宙進出果たしてるか、滅んでるかどっちかですよそれ…。でも、そうですね。別に深く悩まなくてもいいのではないのでしょうか」



ぶっちゃけ、メソアメリカの動向なんて世界史に大きく影響はしないだろうし、どうせコルテスあたりに滅ぼされたり天然痘で壊滅するのだから。


だから、今ここで滅亡しても誰も困らないはずだ(現地の人々以外)。


多少、メキシコの文化遺産が無くなったり、2012年関係のネタが無くなったりするぐらいだし。アメリカにはアンデス文明もあるし。


なんて思っていると、



「(じ~~)」



つい先ほど心臓抉られそうになっていた幼女が無垢な瞳で私を見つめているのに気が付いた。


やだ、何このものすごい罪悪感。



「よ、幼女の無垢な視線になんか絶対に負けないっ!」


「(じ~~)」



くっ、この胸をぐいっと抉る邪気のない瞳。これが幼女パワー。あ゛あ゛~、こころがぴょんぴょんするんじゃあ~~。


もうロリコンだった。



「幼女には勝てなかったよ」


「?」



思わず膝の上に乗せてしまった。やだ、この幼女まさに魔性。トルティーヤをリスか何かみたいに小さい口で一生懸命齧ってて萌え。萌え萌えキュン。


あ、トルティーヤからソースが垂れて頬に付いちゃってるよ。お姉さんが今拭き取ってあげるからねぇぇぇぇっ。


…。


し、しかし、なかなか落ち着いた幼女である。私はまだしも、私の頭の上に乗ってるこの蜥蜴を見て恐れるそぶりを見せないとは、ただの幼女とは思えない。



「幼女よ、貴女はいったい何者なのです?」


「イシュキック。シバルバーの王の娘。ねぇ、どうして私を食べないの?」


「いくつか衝撃的なセリフが混ざっていましたが、とりあえず、私は幼女を食べる趣味はないので」



YESロリータNOタッチ。児童ポルノ法的な意味で幼女に手を出すのはダメです。つーか、10歳にもなってない幼女に手を出したらいかんでしょ。



「私、美味しくなさそう? そこの男の人のほうがいいの? お肉、かたいよ」


「あ、この文化圏、人肉食肯定派ですか。コルテスはもしかしたら正しかったかもしれないですね」



人肉食はギリシア神話においても良く描かれるテーマであるが、基本的には禁忌に属するタイプの習慣と理解されている。


他、ヨーロッパ世界やアジアなど様々な地域で人肉食は記録されており、日本では第二代の天皇が人肉食をしたという感じの記録があるらしい。


で、中米でもやぱり人肉食の習慣はある。というか、普通に今目の前で語られている。なんでも、人肉を食べることが許されるのは、選ばれた上流階級のみなのだとか。



『良かったですねメディア。これで貴女もセレブですよ』


「私はギリシアで十分セレブなので、そういうの間に合ってます」



ただでさえ、メディアに転生して厄介ごとに巻き込まれているのだ。これ以上厄介ごとに巻き込まれる要素は勘弁願いたい。



『しかし、この仔を前にしてなかなか度胸のある娘ですね。血統も申し分ないようですし、私の巫女にしてしまいましょうか』


「え、ヘカテー様、この地方の守護神やるんですか?」


『この娘は良い拾い物でしたからね。それに、この新大陸の地で私の信仰を広めるのも悪くないでしょう』



実現したら文化人類学上の大問題に発展するんじゃないだろうかそれ。東地中海世界の女神が、遠く新大陸でも信仰されていたとかどうなのよ。


まあ、それはともかく、カリブ海総合火力演習も上手くいったので、準備は整ったと言って良いだろう。


これで準備は万端、あとは一気呵成に攻め込むだけである。


うん、それにしても、



「トマトとジャガイモ、トウガラシが手に入ったのは僥倖でしたね。あとは、ヒマワリにサツマイモ、カボチャとかも欲しいですね」



これで美味いピザとかパスタ作れる。やっぱり、地中海料理にはトマトと唐辛子がないと色合い的にもレパートリー的にも貧弱ですからねー。




こうしてこの世界における農学史上最大の謎、新大陸原産の作物が旧大陸に何の脈絡もなく伝播した原因が発生したわけである。


神代の歴史がまた1ページ



古代の旧大陸にジャガイモが入ったら、歴史が捻じ曲がるよね絶対。

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