77話「一件落着……? 事件の黒幕」
私が人間に戻った二日後。
私はまだ王宮にいます。
ゼアンさんに、王弟殿下が訪ねて来るまで城に残るように言われたのです。
イリナ王女が捕まり、私を狙う人はいなくなったと思うのですが、殿下にはまだ懸念があるのでしょうか?
午前十時過ぎに、王弟殿下が訪ねてきました。
「一昨日は済まなかった。
ゼアンから聞いたんだが、君を押し倒してしまったみたいで……」
彼は少し頬を染め、そう言いました。
殿下がそんな顔をなさるので、彼に押し倒された時のことを思い出してしまいました。
彼の体温、息遣い、厚い胸板……。
私もつられて顔が赤くなってきました。
「ラファエル様は、お疲れだったのですから仕方ありません。
それに、あなたが睡眠不足だったのは、睡眠をほぼ取らずに解毒剤を作っていたからです。
殿下を責めることはできません」
私のために頑張ってくれた人を、責めるなんてできません。
「本当は、昨日君に謝罪に行きたかったんだけど、
色々とやることがあって、
謝罪するのが遅くなってしまった」
殿下は申し訳なさそうに言いました。
「どうかお気になさらないでください。
ラファエル様は、たくさんの仕事を抱えているのですから」
王弟であるラファエル様は、たくさんの公務を抱えておられます。
全ての公務を遅らせ、三日間も解毒剤を作ることにあててくださったのです。
殿下には感謝の気持ちしかありません。
「今日ここに来たのは、謝罪の他にも伝えたいことがあったからだ」
殿下は真面目な顔でそうおっしゃいました。
「イリナ王女とその侍女の処分については、以前説明した通りだ。
イリナ王女はグレイシア王国の公爵令嬢に対する殺人未遂と、誘拐未遂と、監禁未遂の罪で、貴族牢に幽閉されている。
イリナ王女付きの二人の侍女は牢屋に入れた」
殿下は厳しい表情でそうおっしゃいました。
「はい、覚えております」
殿下から説明を受けましたし、殿下が解毒剤を開発している間に、ゼアンさんからも説明を受けました。
侍女の一人がサルガル魔道士団のいとこで、研究室から、猫になる薬を持ち出したと聞きました。
「出来心でした」では済まされない大罪です。
「三人を捕まえて事件は幕を閉じた……と言いたいところだが。
そうはいかないようだ……」
殿下は眉根を寄せ、口角を下げ、深刻な表情をされていました。
「ラファエル様、それは一体どういうことなのでしょうか?」
事件はまだ解決していないということでしょうか?
「アリーゼ嬢は卒業パーティでのことを覚えているよね?」
「はい、もちろんです」
あれだけインパクトがあったイベント、忘れたくても忘れられません。
「ベナットがレニ・ミュルベ男爵令嬢と浮気したこと。
彼女と共謀して卒業パーティーで君に婚約破棄を突きつけたこと。
その後べナットが幽閉されたこと、レニ・ミュルベ男爵令嬢の屋敷が全焼し、ミュルベ男爵家に深く関わる人間が全て亡くなったこと。
……それらは全て、今回の事件に繋がっている」
殿下が神妙な顔つきで話しました。
卒業パーティーでのことが、今回の事件と繋がっているとは思いませんでした。
「王宮に、べナットとミュルベ男爵令嬢を影で操っていた人物がいる。
その人物はイリナ王女のことも、陰で操っていた」
彼は厳しい目つきでそう話しました。
「その人物には見当がついている」
そうおっしゃった殿下の表情は、心なしか暗く沈んで見えました。
黒幕がわかったのは良いことなはずなのに……。
殿下はなぜ沈うつな表情をしているのでしょうか?
「僕は今から、その人物に会いに行く。君はどうする?」
彼はまだ悲しさが残る表情をしていましたが、殿下の瞳には黒幕を捕らえようという強い意思が宿っていました。
「私も一緒に参ります。真実を知りたいのです」
私には、黒幕が誰かは見当もつきません。
その人が、大勢の人間を操り、彼らの人生をめちゃくちゃにしたことだけはわかっています。
黒幕が誰なのか、なんの為にこんなことをしたのか、私も知りたいのです。
それに、この事件には私も無関係ではありません。
危うく猫の姿のまま、地下に幽閉されているところだったんです。
黒幕に一言、文句を言ってやりたいです。
「そうか、では一緒に行こう」
殿下は、強い意思を宿した瞳でそうおっしゃいました。
彼は、私に右手を差し出しました。私はその手をそっと握りました。
黒幕が誰か分かりません。ですが殿下と一緒なら怖くありません。
読んで下さりありがとうございます。
少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。




