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異世界に転生した元暗殺者は、回復魔法使いになっても剣を振り回す。  作者: 御峰。


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第91話 暗殺者、二度目の合同試験で怪しい小瓶を割られる。

 聖天極の称号をもらってから一切の苦情の手紙は届かなくなった。


 もし貴族が今までの権力があるなら、国民の声など聞かなかっただろうけど、今はナンバーズ商会がある。貴族が運営する商会はほとんどの国民が利用しなくなり、弱体化を余儀なくされた。


 さらにガブリエンデ子爵家に富が集中したのにも関わらず、ガブリエンデ領の免税のおかげで王国の税収は激減することになり、王家の力もみるみるうちに弱体化していくのがわかる。


 新しく部下になったノインは、ずいぶんとイヴに気に入られて、何かあるたびに駆り出されていた。


 それからはときどきリゼや姉と街を歩き回ったり、第三王子や第六王女と食事をしたり、授業を受けたりと何気ない日々を過ごした。




 日々が過ぎ、王都の東側に作られていたナンバーズ商会主体のガブリエンデ地区と呼ばれる下層の建物がだいぶ完成していた。


 まだ下層は本格的に動いてはいないが、いずれナンバーズ商会の商業施設が利用できるところになっている。


 前世でいえば、いわゆるアミューズメント施設……アミューズメント地区と言っても過言ではない作りになっている。


 食事から買い物、イベント会場などがたくさんあり、明るい時間と暗い時間で二部に分かれて開かれることになる。


 オープンは学園の二度目の合同試験が終わった直後を予定している。


 そして、本日、二度目の合同試験の日を迎えた。




「アダムさまぁ~今日はとても楽しみですね!」


「ええ」


「ほら、皆さんもやる気満々のようですわよ~?」


 イヴが指差したところでは、クラスメイト全員が目から炎を燃やしている。


「ア、アダムくん! また勝てたら……新しいイベントを開いてくれるって本当なんだよな!?」


 新しいイベントというのは、以前俺からフィーア(ルナ)に伝えた新しいパーティのことだ。


「ああ。明日にでも開催できるように進めている」


「「「「やった~!」」」」


 みんながガッツポーズをする。


 最近学業を優先することでパーティは封印していた。とびっきりのパーティを合同試験の後日に開けるようにしてみんなを奮い立たせていたのは正解のようだ。


 会場は、またもやDクラスが全員合格するのかを見届けるためか、関係者しか入れないはずなのに大勢の人で溢れていた。


「これから合同試験を始めます! 内容は前回と同じなので説明は省きます! ではさっそく呼ばれた者はステージに上がってください!」


 司会の号令で試験が始まった。


 BクラスとCクラスの試験は前回よりも激しいものになった。


 戦いを見ていると聖女が隣で声を掛けてきた。


「皆さん、すごくやる気ですよね」


「確かに……前回と比べるとずいぶんと真剣のように見えます」


「ふふっ。これも全てアダムさまのおかげですよ?」


「僕ですか?」


「ふふっ。本来なら全員が落ちるはずのDクラスが全員合格した……これは王都学園史上初の快挙ですから、皆さんとしては負けられないと頑張っておられるようですよ」


「なるほど……」


 このままDクラスが強くなれば、Cクラスの生徒もBクラスの生徒も立ち位置が危ないからな。


 強さで昇格が存在する学園だからこそ危険視しているのだろう。


 だが、Dクラスの生徒達は全員が口を揃えてDクラスのままで昇格に応じるつもりはないと言うが、それを彼らが知るはずもない。


 試験はさらに進み、BクラスCクラスの試験が終わった。


 次は恒例のAクラスとDクラスの試験が始まった。


 呼ばれたメンバーは全員が前回と同じ組み合わせだ。


「組み合わせ、変わりませんね」


「そうですね。誰かの意図が……?」


「そうかも知れませんね。となると私のお相手は前回と同じ方ですかね……」


「代わりましょうか?」


「い、いえ! やっぱり皆さんとしても最後はアダムさまの対戦を見たいと思いますから」


 少し離れた観客席から目を輝かせて俺を見ている姉の視線を感じ取った。


 それを期待するのは姉だけでは……?


「あ、私の番みたいです!」


「アリサさん。無理はなさらず、危ないときはすぐに降りてください」


「はいっ! でも――――」


「?」


「私だってアダムさまにいいところを見せたいですから、頑張ります!」


 ニコッと笑った聖女はステージに上がっていった。


 もちろん試合は――――一瞬で片付いた。


 帰ってきた聖女は褒めてくださいみたいな表情をしていたので「かっこよかったです」と答えると、嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。


 それからイヴも無事終わり、ロスティアも相変わらず勝つことはできなかったが強烈な一撃を見せて多くの人を驚かせた。


 そして、最後の出番は俺と伯爵令息となった。




「きひひひ……久しぶりだな……アダム……」


 ずいぶんと姿が変わっている。


 以前のような自信にあふれた表情はなく、どこか感情が壊れたようなものだ。


 前世ではこういう人を多く見てきた。自分の家族を殺され復讐のために生きる者や、全てを失くして生きる糧もなく人生を諦めた者、親交ある者に裏切られ多額の借金を背負わされた者など……どれも自分を見失った者の表情だ。


「ずいぶんと雰囲気が変わったな」


「……当たり前だ……全ては今日のため……貴様を倒して……ソフィア様を……僕のモノにするため……僕は待ち続けていたんだ!」


「……姉上を誰かのモノとして渡すつもりはない」


「黙れ! 卑怯者が!」


「卑怯者……?」


「今回はそうはいかないぞ! 貴様がズルをしていたのは知っている! でなければ僕が負けるはずはないっ! 今日ここで貴様がズルをしていたと証明してやる!」


 ズル……とは一体何のことだ?


 次の瞬間、伯爵令息はポケットから小瓶を取り出し、地面に叩きつけた。


 割られた瓶の中から見たこともない液体が周囲に散っていく。


 無色透明の液体は瞬く間に煙となり蒸発した。


「きひひひ! これで貴様が使う幻想薬は無効化した! もう効かないぞ!」


 幻想薬……? 一体何を言っているんだ?






 ――――そのとき。






 晴れたはずの空から轟音と共に、王都全土を覆う程の黒い雲が広がった。

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