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異世界に転生した元暗殺者は、回復魔法使いになっても剣を振り回す。  作者: 御峰。


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第87話 暗殺者、久しぶりに出発の地を訪れる。

 元々賑やかだったビラシオ街は、災害を受けて酷い有様だったが、復興支援のおかげですっかり元通りに近付いていた。


 ミュレシア街程ではないが街も賑やかになりつついる。


「あ~! ダーク様だ~!」


 一人の住民が声を上げると俺の周りにすぐに人集りができた。


「ダーク様! いつものありがとうございます!」


 そう言いながら多くの人が自身の店の商品を持ってくる。


「商売は順調なのか?」


「もちろんです! 全てダーク様のおかげです!」


「うむ。なら貰っておこう」


 以前は断っていたが、ナンバーズ商会から見限られたと誤解されてしまったことがあり、無理をしていないなら貰うことにしている。


 全て『影収納』に入れれば、いつでも美味しく食べられるし、貰っておいても困ることはない。


 多くの人から商品やら食べ物やら貰いながら、ビラシオ街の大通りを歩き、ある場所にやってきた。


 建物の中に入ると、賑やかだったのが一斉に静まる。


「「「「ダーク様!」」」」


 みんなが一斉に声を上げて近付いてきては、各々の近況を報告し始めた。


「ダーク様! 俺……リザードマンを倒せるようになりました! 鱗ならいつでも調達します!」


「俺達も手伝うぞ! 臨時パーティーを組むか!」


「いいじゃねぇか! ダーク様のためなら何だってやってやるぜ!」


「……元気なのはいいが、冒険者は命が一番大事だ。危険な地には入らないように」


「もちろんです! ダーク様の教えをいつも胸にしまいこんでいますから!」


「うむ」


 それぞれの報告を聞きつつ、いくつかのアドバイスをして、ようやく集まりから解放された。


 建物の奥にあるカウンターの前に立つ。


「久しぶりだな。ダーク様(・・・・)


「よしてくれ。いつものように呼んでくれ」


「かかかっ! あんさんを唯一困らせる方法だからな!」


 豪快に笑う男は、ビラシオ街の冒険者ギルドの買取センター担当のおっさんだ。


 粉砕された冒険者ギルド。何人もの職員もなくなり悲惨な状況だったが、それでもこれだけ大きな街に冒険者ギルドは必要だ。


 街の権利を手に入れて最も先に取り組んだのが冒険者ギルドの復活だ。


 その際に実力ある冒険者が多く亡くなったことから、新人教育を施した。


 俺が前世で培ったもので今世でも利用できそうな情報をまとめた指南書を作り、ビラシオ街で専属冒険者になってくれる人には無料で配っている。


 俺を囲った連中は全員が指南書で強くなった者達で、ナンバーズ商会からレンタルという名目で武器や防具も貸している。期限はビラシオ街の専属冒険者を引退するまで。折れたり劣化しても弁償はなし。メンテナンス料金も全てナンバーズ商会支払いにしている。


「あんさんのおかげで街もすっかり元気になったな」


「俺は背中を押しただけだ。みんな自らの足で進んでいる」


「ふっ……あんさんらしい答えだ。今日はどんなものを売りに来たんだ?」


「久しぶりに大量の素材が手に入った。全部買い取ってくれ」


 『影収納』からオルレアン山脈の奥地から手に入れた蟹の素材を大量に卸す。


 これだけ頑丈ならいろいろ使い道があると思い、ナンバーズ商会ではなくビラシオ街冒険者ギルドに卸すことにしたのだ。


「これは! マッドキングクラブじゃねぇか!?」


「珍しいものか?」


「珍しいなんてもんじゃねぇ! 禁域に生息している噂は聞いた事があるが、本当かどうかもわからねぇ……まさか、あんさん。禁域に入ったのか?」


「禁域とやらは入って無事に帰って来れるところか?」


「……いや。今まで誰一人帰ってこなかったからな。まあ、あんさんのことだ。出所なんて気にしても仕方がない。それより……こんな高価なものを買い取るのは少し難しいな」


「仮で構わない。売れ残ったらナンバーズ商会に回してくれ」


「いいのか?」


「ああ。俺には必要のない素材だ。有効活用してくれた方が助かる」


「そうか。感謝する。これだけあれば、鍛冶師連中が喜ぶ。きっと良い防具を作ってくれるはずだ」


「そうなるのを楽しみにしている」


「おうよ」


「じゃあ、またな」


「あんさん!」


「ん?」


「その……ルナちゃんはどうしているのか聞いているか?」


「ああ。変わらず王都のガブリエンデ子爵家で働いている」


「そうか……アダム様だったか? 悪い噂は聞かないから大丈夫だとは思うが……どうかあの子が酷い目に遭わないように、たまにでいいから様子を見てくれ。あんさんならルナちゃんが酷い目に遭ったら一目でわかるはずだろうしよ」


「わかった」


「ありがとうよ!」


 あの日に残った受付嬢はルナのみ。ルナがそうだったように、全員があの災害で命を落とした。


 残った彼女を思う人は意外に多く、買取担当おっさんだけでなく、生き残った冒険者達の中でも何人かは気に掛けているし、近所に住んでいた者達も今でも気にしている。


 それだけルナが培った関係性というのは深いものということだな。


 冒険者ギルドを出て向かったのは、ナンバーズ商会ビラシオ支店だ。


「ダーク様!? いらっしゃいませ」


「ああ。何か困ったことはあるか?」


「それが……困ったほどではありませんが……」


「何かあったのか」


 緊急事態なら念話がくるはずだが、そこまでではないってことか。だが、非常に困ってそうな表情だ。


「実は住民の皆さんから苦情が入っておりまして……」


「苦情?」


「はい。商品の値段に少々納得いかないと多くの方から……申し訳ございません!」


「ふむ。どれくらいの額にして欲しいのか聞いているか?」


「それは……はい……それが……」


 困ったように中々話せない店員。


「よい。話して構わない」


「は、はい……それが……この度の大幅値下げによって多くの方が困っておりまして……何とか元の値段(・・・・)に上げてもらえないかって……安すぎて買えないと皆さんが困っているそうです」


「安すぎて買えない……?」


「はい……皆さんが言うには、ナンバーズ商会のおかげで仕事があるのに、商品を安く買うのは恩を仇で返すものだーっておっしゃってて……全てダーク様の意向だとは伝えたのですが、皆さん……あまり納得いかないみたいで、どうしても元の倍の値段で売ってくれと毎日嘆願しております……」


「それは困ったな……他の街との差は作りたくないな」


 仮にビラシオ街だけ売値を倍に戻すとなると、他の街との相場に差異が生まれてしまって、困ることになる。


 それはビラシオ街だけでなく王国全土に大きく響くことになる。


「値段を上げることはできない」


「は、はいっ! 全力で皆さんを説得頂います!」


「……ふむ。もしどうしても説得が難しいのであれば――――募金箱を設置せよ」


「募金箱……ですか?」


「ああ。お金を入れる箱を設置し、そちらに入れたお金は孤児院への支援や災害支援のための基金として運用するものにすれば、存在意義もあるだろう」


「それは素晴らしい案です! ぜひ設置させてください! 皆さんもそれで納得してくれると思います! ありがとうございます! ダーク様!」


「うむ」


 ずいぶんと困っていたようだな。周りの店員達も嬉しそうにする。


 店舗を見回り、上の階に向かうと、神風以外の護衛達がくつろいでいた。


「あ~! ダーク様~おかえりなさい! お茶淹れますね!」


「うむ。腹はまだ大丈夫なのか?」


「は~い。むしろある程度動かないと、体に負担がかかりますから」


 彼女もまたあの災害で生き残った一人で、元Bランク冒険者パーティーの唯一の生き残りだ。


 今は腹の中の子供が生まれるまで雑用をしているが、彼女が出産すれば、強力な護衛として、護衛部隊を率いることになる。彼女も自身の仕事にやる気を出していて楽しみにしているようだ。


 今はお腹の子供のために安静にしつつも雑用くらいで満足してもらっている。


 しばしの間、ゆったりとビラシオ支店で時間を過ごした。

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