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異世界に転生した元暗殺者は、回復魔法使いになっても剣を振り回す。  作者: 御峰。


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第72話 暗殺者と仮面と両親と計画。

「お久しぶりですわ~ガブリエンデ子爵さま」


 アインス(イヴ)が少し拙い貴族風挨拶を行う。これも彼女の演技力の高さだからこそ、自然に見えるというものだ。


 向かいに立っている父と母の表情はあまり明るくはない。


「いらっしゃい。どうぞ座ってください」


「ありがとうございます~こちらはつまらないものですが、どうぞ」


 と言いながら小さな箱を母に、大きな箱を父に渡す。


 父は強張った表情のまま箱を受け取って、ソファの隣に置いた。


 中央に俺が座り、両脇にアインス(イヴ)フィーア(ルナ)が座る。正面には父、母が座る。


「先日は娘と息子に大きな力を貸していただきありがとうございます。ナンバーズ商会のおかげで私含め、娘、息子共に王国から大きな恩赦を受けました」


 父と母は深く頭を下げた。


「貴方達はガブリエンデ家のみならず、ガブリエンデ領に住まう者達にも手を差し伸べて仕事を与え富をもたらしてくれた。感謝してもしきれません。――――だからこそ、貴方達の狙いは一体なんですか? 我が家に何を求めてこんなことをしているのか、聞かせていただけますか?」


 前回俺が王都に向かった直後に会ったときは、まだ距離感があったが、これまでの件でずっと近付いたように感じる。


 だからこそ、真意を求めてくるのだろう。


 ナンバーズ商会がこれからやろうとすることも、二人には伝えるいい機会だと思う。


「我々ナンバーズ商会は――――王国を掌握したい」


「王国を…………」


 拳を握りしめる二人。民を大事にする二人だからこそ、きっと自分たちが協力してきたことを後悔しているのかもしれない。


「私は、王都の下層の生まれです」


「下層の!?」


「王国の腐敗を間近で見てきました。私も冒険者として名を上げつつ、気を待っていたところに、お二人の噂を聞いた。さらに、お二人のご子息たちは、最上級才能を覚醒させたという。中でもソフィア・ガブリエンデは、才能『剣神』を覚醒させた。これから王国を代表する貴族になるのは誰にでもわかること。だから私は考えました。まだ誰とも契約を結んでいないガブリエンデ家と独占契約を結びたいと。幸い――――私にはそれができる力があった」


「『アイテムボックス』……」


「ええ。それに私にも誰かに『アイテムボックス』を貸すことも可能です。我が商会が他の商会よりもずっと安価で物を提供できるのは、運送費がほぼかからないこと。さらに『アイテムボックス』のおかげで、物を腐らせずに保管することが可能なことでしょう」


「私に商売の心得はありませんが、その力がどれほど恐ろしいものかくらいわかります……王都で見たナンバーズ商会の活躍、ガブリエンデ領内から聞こえる民達の声からも、その力を肌で感じています」


「ですが、私の力でも限界はあります。何より――――私がいなければ、ナンバーズ商会は一瞬で滅びるでしょう。だからこそ、私は考えたのです。私がいなくても王国を掌握したいと。十日後、ナンバーズ商会はある計画を始めます。それによって、王国の市場は――――崩壊するでしょう」


「崩壊っ……そうする必要性があると?」


「ええ」


「ですが、それで犠牲になる人がいるのも事実」


「革命に犠牲は付き物。全ての民を救うなど、不可能です。ガブリエンデ子爵殿」


「これから生まれる多くの人が働く場所を失って明日の食事すらとれなくなったとしても、貴方はそれでいいというのか!?」


「ええ。それが彼らの運命ならば――――ですが、何も全ての者に敵対したいわけではない。我々はこれから、王国にある貴族の力を削ぎ落すつもりです」


「貴族の力を……?」


「今の王国の法では、土地は貴族でなければ持てない。私が所有することはできません。だから代わりに、ガブリエンデ家に持ってもらいます。増える土地を管理するには我々の支援なしではもうどうすることもできないでしょう。それに貴方のご子息たちもナンバーズ商会から多くの支援を受けている。お二人とも貴族になられたということで、これから多くの資金が必要になるはずです」


 父の顔から冷や汗が雫のように頬を伝って落ちる。


「ガブリエンデ殿――――もう我々と手を切ることは不可能。あの日、独占契約を交わしてしまった以上、これからも貴方たちは私の計画通りに進んでもらわなければならない。貴方も、貴方の奥様も、ご息女も、ご子息も」


 隣で聞いていたフィーア(ルナ)が小さく手を挙げる。


「ここからは私が代わります。現在、ナンバーズ商会の運営を任せれているフィーア(ルナ)でございます。これからの計画に伴い、子爵さまにはやっていただきたいことがございます」


「私に……?」


「今や王国内で子爵さまは英雄と称されております。多くの国民からそれだけ信頼されております。今なら貴方の言葉を信じて、移住したいと思う者も少なくないでしょう。これからやっていただきたいのは――――ガブリエンデ領内に移住した国民には、必ず仕事を与える上に生活保護や水準も約束すると、宣言していただきます」


「そんな宣言をしたら王国が大変なことになってしまう!!」


「はい。我々はそれが狙いです。ですが安心してください。私たちには移住者たちに仕事を与えられる手立てがございます。ここから東に広がる広大で豊かな穀倉地帯。そこで作物を育てる仕事はいくら手があってもいいはずです。彼らの生活の快適さはナンバーズ商会が王国内の全ての物流を掌握して快適な物にしてみせます」


「そ、そんなことが……できるはずが……」


「できます。ここにいらっしゃるダークさまが我らの中心におられます。ダークさまの力があれば、どんなことだって成し遂げられます。子爵さまの陞爵(しょうしゃく)やご子息さま達の叙爵のように」


「まさか……これも全て見越して?」


「子爵さまの陞爵だけでなく、ご子息さま達の叙爵が偶然だと……そう思われるのですか?」


 ふと、父の隣で気丈に座っていた母が、父の手の上に手を乗せて、笑顔を見せた。


「ナンバーズ商会は王国を掌握したいと仰いましたね?」


「その通りでございます。奥さま」


「では、せっかくナンバーズ商会の総帥さんがいるので、意志を確認させてください。貴方達がやろうとすることにガブリエンデ家が協力した先に――――領民達の平穏がございますか?」


 凛とした表情で曇り一つない目で俺の目を真っすぐ見つめる母。


 母も父同様に民たちの生活を向上させたいと常日頃言っていたし、絶対に領民たちのことを踏みにじってはいけないと言っていた。


 彼女が――――母で良かったと心からそう思える。


「約束しましょう。今まで王都の貴族たちに搾取されてきた富を、今度は領民、ひいては全ての民のために使うと」


「わかりました。どのみち、私達に選択権はないようですし、一度乗り掛かった舟ですから、貴方達を最後まで信頼します。何より――――私が育てた娘と息子が貴方達を認めたのです。ならば、最後まで私達も信じましょう。ねえ? 貴方」


「……わかった。君がそこまで言うなら、俺も信じてみよう」


 こうして合同試験が終わった後に始まる計画が全て揃った。


 あとは――――時が過ぎるのを待つのみだ。

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