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異世界に転生した元暗殺者は、回復魔法使いになっても剣を振り回す。  作者: 御峰。


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第69話 暗殺者、エルフに懐かれる?

「…………」


「…………」


 さっきまでは敵対心丸出しだったシーナは、今度はじっと俺を見つめるようになった。


「何か……?」


「えっ!? な、何でもないわよ?」


「?」


「…………」


「…………」


「貴方……本当に一言くらいしか喋らないわね。必要最低限というか」


「ああ」


 そういえば、母からも言われたことがあったな。「アダムちゃんは口数が少なすぎるから、レディーにしっかり思いを伝えられるか心配ね……」と。


 そのとき、間一髪入れずに答えた姉は「アダムの口数は少ないけど、心の中でいろんなことを考えているから、顔を見ればわかるんです!」と言って、すぐに俺が何を思っているのか言ったけど、見事に――――外していたな。


「もしかして……エルフ? 混血のハーフエルフだったりするの?」


「いや。両親とも人族だ」


「ご、ごめんなさい……」


 すぐにリゼさんとエリナは面白そうに笑い声をあげた。


「エルフは口数が少ない者が多いからつい……」


 それにしてもこの王国にエルフがいるのも珍しい。現在大陸の東西南北にそれぞれ一つずつ国があって、それぞれが統治している。うちの王国は南で田舎扱いだ。


 交通の便が非常に悪く、攻められるルートも一か所しかなく、そこも山脈の間となっている。幸いなことに近くに森はないので、魔物の被害もなく、他国軍が隠れて攻めることも難しい。


 大陸の中央には広い範囲で山脈が広がっており、その中心部に森があるとされて、エルフ族はそこに住まうという。魔物が出現する森の中で住む彼らは、人族よりも遥かに強いとされ、人族よりも才能がある者が多いとされる。


 いろいろ聞いてみたいことはあるが、エルフ族は一族の絆を非常に大切にしていて、それらを誰かに話したりはしたいという。


「かまわない。それより、リゼさん。僕が来る前に何か話し合っていたのではありませんか?」


「はい。実は次の遠征をどうしようかなと思ってまして」


 冒険者は近場の依頼をこなしながら拠点となる町を決めて生活する。この王都はまさにもっとも依頼に困らない場所である。


 ただ、上位冒険者ともなれば、難しい依頼も多い。しばらく拠点を離れなければならない依頼を受けることを【遠征】と呼んでいる。姉がしばらく学園にいなかったのも、その理由だ。


「なるほど……リゼさんが遠征ですか……」


「どうかしましたか?」


「いえ。寂しいと思いまして」


 彼女がいないと姉がまた寂しがると思う。


「へ? え、え、えっと……あ、あの……」


「あはは~リゼちゃん。顔真っ赤!」


「?」


「あ、あう……」


 姉が寂しがるのがそんなに恥ずかしいことなのか、リゼさんは顔を赤める。


「ねえねえ、貴方」


「シーナちゃん。貴方って言い方はダメだよ? それは旦那さんにだけしておきなさい」


 するとシーナも顔を赤める。


 なるほど……エルフは耳まで赤くなるのか。


「忘れてたわ……エルフ族はみんなそう呼ぶから……え、えっと、アダムくん?」


「ああ。呼び方はどちらでも問題ない」


「わかったわ。アダムくんは冒険者には登録しているのかしら?」


「冒険者か。登録はしていないな」


 俺が登録しているのはアダムではなく、あくまでダークとしてだからな。しかも、依頼はほぼこなしてなくて換金しかしてないし、ランク試験も受けていないのでEランクのままだ。


 一番低いEランクとはいえ、Dランク冒険者でも一般的な冒険者と言われている。Cランクともなれば、実力ある冒険者として名前が通り、Bランクになれば町では代表的な冒険者となる。


 その上のAランクは国を代表する冒険者であり、さらに上、Sランク冒険者は世界を代表する最強戦力の冒険者だ。この国であれば、レメとリゼさん、あと一人くらいなものだ。


「じゃあ、冒険者に登録したら? そうすれば、私たちと一緒に冒険に出られるわよ?」


「ふむ。だが僕は学業がある」


「王都学園でしょう? 試験にさえ間に合えばいいんだろうし、いいんじゃないかしら?」


 心を許してからのシーナは、ここまでよく喋るものだな。


「シーナちゃん! ダ、ダメよ……アダムさまは忙しいんだもの……」


「……面白そうですね。ただ、あと十日もしないうちに試験が始まるので、試験が終わってからお供しても?」


「えっ!? ア、アダムさま? 本当に……ですか?」


「ええ。冒険者もこれから登録しましょう」


「……わかりました。冒険者登録は私がご案内いたします」


「ありがとうございます。リゼさん」


 シーナとエリナは何が面白いのか、ニヤニヤしながら俺たちを見つめていた。


「それでどこに向かわれるんですか? リゼさん」


「えっと、Aランク依頼を受けようと考えていまして……」


 さすがは冒険者。あくまで詳細は伏せていて、なんとなくでしか言わないんだな。


「じゃあ、例の依頼はアダムさまが試験が終わったら向かうってことでいいね?」


 全員が手を挙げる。どうやら肯定の意味らしい。こういう細かいところでメンバーたちの統率が見れた。


 それからはリゼさんとシーナの二人に連れられ、冒険者ギルド一階に向かい、アダム・ガブリエンデとして冒険者に登録する。


 周りの冒険者からは好奇心の視線や羨望の眼差しが複雑に伝わってくる。


 少なくとも王国を代表する冒険者であるリゼさんと一緒にいるだけでこういう視線を向けられるのは当たり前か。


 シーナも、エルフ族ということもあり、非常に美しい姿を持つ。ストレートロングの金髪に艶があり、歩く度にひらひらと波を打つ姿は、遠目から見ているだけで幸せそうにする男性も多い。


 どうしてか移動する際に俺の左右にリゼさんとシーナが並んで歩く。ときおり俺を間において会話を交わす姿は、姉とイヴのようにも見える。


 その足でリゼさんが好きだというレストランで三人で食事をして、彼女たちを冒険者ギルドまで送ってから、屋敷に戻った。

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