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異世界に転生した元暗殺者は、回復魔法使いになっても剣を振り回す。  作者: 御峰。


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第67話 暗殺者、店の現状を目の当たりにする

 翌日。


 姉の頼みを優先するために、今日の学園の授業には参加せずに、ナンバーズ商会にきた。


 学園の授業は、出席チェックなどなく、全てが合同試験で決められる。逆に言えば、合同試験に間に合わないと、進学が難しくなる。実績によっては合同試験が免除される人もいるが、各学年でも数人くらいしかいない。


 そういう意味では、出席せず合同試験だけクリアしていけば卒業できるのは、かなりの利点ではある。


 ナンバーズ商会の前に着くと――――驚くほどの長蛇の列ができていた。


 並んでいる人々が紅茶クッキーが楽しみだという話をしている。


 なるほど……あの一件で王都民全員が紅茶クッキーを口にしている。さらにお菓子というのは貴族しか食べられないくらい高い。その原因となるのが砂糖にある。


 紅茶クッキーに砂糖は入ってなくて甘さがないが、紅茶のコクで砂糖を越えた旨さを感じさせる。値段も砂糖を使ったお菓子よりも遥かに安いから、ここまで人気になっても当然ということだな。


 列に並ぶべきか考えていると、まだ待ち時間だというのに、玄関が少し開いて一人の店員が足早に俺にやってきた。


「アダムさま。お久しぶりでございます」


 深々と頭を下げる女店員は、ナンバーズ商会で雇っている一般人だ。ちらっと中から店の護衛でもある神風の一人がひょっこりと顔を覗かせていた。


「お久しぶりです」


「本日はナンバーズ商会にご用でしょうか?」


「はい」


「ではこちらにどうぞ」


 神風の一人が扉を開けて会釈をしながら迎え入れてくれた。


 並んでいる人たちの顰蹙(ひんしゅく)を買うのではないか……?


 と思っていると、「あの方がアダム様よ!」「英雄の息子さんね!」などの声が聞こえてくる。


 あの日の栄光は全て父に肩代わりしてもらったから、いまや王国内でアレク・ガブリエンデ子爵は英雄として崇められている。


 中に入ると、すぐにみんなが挨拶をしてくれる。ここにいる従業員の中で、ダークがアダムであることを知っているのは神風のみ。店主を任せている従業員でも知らない。


「いらっしゃいませ。アダム様。オーナーのダーク様より、アダム様はいつでも歓迎するようにと言伝を頂いております。何なりとお申し付けください」


「ありがとう。知人がナンバーズ商会の紅茶クッキーを欲しがっていて、姉の恩人なのもあって、送りたい」


「かしこまりました。すぐに用意しますので、貴賓室でお待ちくださいませ」


「かまわない。ここで待たせてもらおう」


「かしこまりました。ではすぐに」


 店内にも待合椅子があり、そこに座って店内を眺める。


 店を開いてからまだ一か月(90日)は経っていないが、客の出入りはかなり多くなったはずなのに、店内は綺麗に保たれている。


 常日頃、従業員たちの清掃が行き届いている証拠だ。


 店内の品の並びも歪み一つなく、整理整頓されている。他の商会を覗いたことがあるが、どこも仕事は雑で、並びも見栄えを良くするというのがない。そのうえ、サービスもよくない。


 ナンバーズ商会はその点では、王国内……いや、世界全体でも最高峰のサービスを提供している。制服一つにしても身だしなみは綺麗だし、商品も大切に扱ったり、店内の清掃状況もいい。


 こうなった一番の理由は俺の指示だからというものもあるが、俺がこういう指示を出したのには理由がある。


 前世で俺が生まれ育った町は、お世辞にも綺麗な街ではなかった。街並みは世界的に有名で観光客も常にいて、人でごった返していた。だから仕事(暗殺)には困らなかった。


 引退後に住み着いたある島国で、俺のサービスという観念が大きく変わった。


 それを俺はこの世界で体現している。どこも雑な仕事や低品質の物を売る。一番の理由はその利益を働いてもいない貴族が全て持っていくからだ。従業員たちは明日食べる物すらなく、仕事に情熱など持つはずもない。


 食堂で酒を運ぶ店員の方がよほど仕事にやる気のある世界だ。だからこそ、ナンバーズ商会のやり方は、目立っている。


 紅茶クッキーが美味しいからだけではない。この店を訪れてクッキーや商品を購入した人たちは笑顔になる。老若男女問わずに。


「大変お待たせ致しました。紅茶クッキーと当店自慢の紅茶バッグも入れておきました」


「ありがとう」


「また必要なものがございましたら、いつでもお越しくださいませ」


「ああ」


 店を出るとき、ちょうど開店の時間だったようで、少し離れたときに「開店になります! 順番通りにお呼びしますので、並んでくださいませ!」と店員が大きな声で呼びかけていた。


 最初に入る客も、待っている客も、みんなが笑顔で並んでいた。



 ◆



 久しぶりに中層の教会をさらに通って到着した場所は、冒険者ギルドだ。


 中に入ると、相変わらずの統一性のない人々がテーブルを囲って作戦会議をしたり、待っていたりと、朝早くから賑やかだ。


 依頼掲示板の前では混まないように各パーティーのリーダーたちだけで依頼を探しているようだ。


 そのとき、一人の大柄の男が俺の前に立つ。


「おいおい。王都学園の坊ちゃまが何しにこんなところに来たんだ? あぁん?」


 威圧的な態度の大柄男に、周りは絡まないように身をひそめる。


冒険者ってこういう者が多いのか……? ビラシオ街でもこういうことがあったが……冒険者のルールはあくまで冒険者ギルド内で問題を起こすな。のはずなんだが。


「人を探している。リゼという女性冒険者だ」


「あぁん? おめぇ――――アダム様なのか?」


「ああ。名前はアダムという」


「うんうん。黒目黒髪の細身優男の貴族らしい出で立ちでそうだと思ったぞ。こっちに来な。あ、貴族だからってここでは冒険者だから敬語なんて使わねぇぞ」


「ああ。構わない」


「……ほっんと、聞いてた通りに無感情なやつだな」


 彼に連れられ、一階から二階へ上がった。


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