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異世界に転生した元暗殺者は、回復魔法使いになっても剣を振り回す。  作者: 御峰。


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第52話 ある集団の基地に襲い掛かる絶望

 ミガンシエル王国。その王都の東にある崖の中に建設されたある集団の基地。


 普段より陰で生きている集団は、自分達が狙われている身であることは理解しており、彼らは防衛に手を抜くことはない。


 その場所に暗闇よりも黒い影が舞い降りる。


 ところどころに松明が設置されており、暗い洞窟内を照らしている。何人かのガラの悪そうな荒くれ者が鋭い眼光で洞窟の入口を睨み続けていた。


 そんな中、目で捉えることも難しい極細の糸が洞窟内を舞う。


 誰一人、糸に気付く者はいない。


 次の瞬間――――糸は一斉に荒くれ者達の全身を締め付ける。音一つ響かせることなく、男達を絶命させた。


 男達も自分がすでに死んでいることに気付かないほどに。


 洞窟をゆっくりと歩く二人の女性。歩く音も響かせず、悠々と歩いて奥に向かう。


 彼女達が座ったまま死んでいる男達を通り過ぎると、極細糸が解ける。それでも男達は微動だにせず、座ったままである。


 二人を追いかけるようにゆっくりと一人の男が追いかける。前の女性と似た黒いマスクを着けており、一体型になっている黒い外套を羽織っている。


 洞窟を進みながら荒くれ者達の命を刈り取っていく。誰一人、自分が死んでいることを認識できずにいた。


「あら? ダークさま~道が分かれていますわ~?」


 振り向いた彼女は、暗黒よりも深い色の黒い瞳を覗き込む。感情を一つ見せることもなく、何を考えているのか読むことすらできない。


 幼い頃から暗殺者である父の背中を追いかけ、最前線の暗殺者から教育も受けている彼女は、まだ暗殺者ではないが、第一線級の実力を持っている。


 そんな彼女でさえも、彼の感情を読み取ることはできなかった。動き一つ一つにも無駄はなく、何度シミュレーションを繰り返しても彼を暗殺できるビジョンが見えない。


 自身と同じ年に生まれた自身よりも暗殺者らしい彼の不思議さに、彼女が心を寄せるのはごく自然の出来事でもある。


「左が荷馬車が通った場所だ」


「右はどうしますの?」


「…………」


 何かを考え込んで左右の道を眺める男。


 その瞳を彼女はうっとりと眺める。


「右側も気になる。右は俺が向かおう」


「かしこまりました~左側は私とアハト(レイ)で対応致しますわ」


「ああ」


 そして、女二人は左に、男は一人で右の道に進んだ。




「先輩。主を一人にしてよかったんですか?」


 黒い装束の女が聞く。


「ふふっ。問題ないわ。あの人はもう――――」


 女はそれ以上答えることなく、笑みを浮かべて道を歩き進めた。


 しばらく歩いた二人の前に一人の男が立ちはだかる。


「あらあら……これは大変ね」


 男から放たれる圧倒的な殺気。闇に生きる者だからこそ伝わる冷たいオーラが二人の女を襲う。


「まさか……こんな場所までネズミが入っているとはな……」


「うふふ。ネズミというのはどっちがかしら~こんな地下路に住む貴方たちの方がネズミでしょう?」


 次の瞬間、男の体が消え、女の後ろに現れて、剣を振り下ろした。


 が、剣は空中に浮いたまま降りることはなかった。


「せっかちな男はモテなくてよ~?」


「小娘だと思ったら不思議な力を使うものだな」


「うふふ。アハト(レイ)。貴方は先に行きなさい」


「かしこまりました」


「ふん! 逃がすと思うのか!」


 男が黒い装束の女を斬り付けた瞬間、彼女の体が湯気のように消えていった。


「…………ふん」


「あ~あ~こんなに可愛い女の子を前に、別の女に目移しだなんて、酷いですわよ~?」


「われの前でずいぶんと余裕だな……貴様のような小娘なんぞ、すぐに斬り捨ててやろう」


「うふふ。やれるならやってみれば~?」


 彼女の言葉を皮切りに二人の戦いが始まった。


 男は目にも止まらぬ速さで動き回りながら目で捉えることも難しい極細の糸を全て叩き斬る。


「ふははは! 小娘! 貴様がどんな特別な力を持っていても、われの圧倒的な速度の前では何をしても無駄だ!」


 その言葉の通り、女の周りを待っていた極細糸は剣に斬られ数を大きく減らしていた。


 微動だにしなかった女が動いて手を差し出すと男に極細糸が襲いかかる。が、男の姿はすでにそこにはなく、女の後ろに現れる。


 男が立っていた場所に極細糸が無数に舞う。


 瞬く間に、男の剣が女の首を斬った。


「ふっ……たわいもない。この程度でここにくるとは。愚かなり」


 女の首を斬ったはずの男は、後ろを向いて剣を仕舞うために、鞘に剣を入れようとした。


 そのとき、鞘に入れようとした刀身が、ボロボロになって地面に落ちる。


 その様子を見て男は呆然と立ち尽くしてボロボロになった刀身を見つめた。


「あらあら~さっきも教えてあげたけど、せっかちな男はモテなくてよ~?」


「な、何をした!」


 焦った表情を振り向いた男は、彼女を睨む。


「何をしたか~何も難しいことはしてないわよ~? ただ――――糸をもう少し強化させただけ」


 女が前に出した極細糸。それを包む黒いオーラ。それでも極細糸で目で捉えることは難しいが、糸一本一本に込められたオーラは、男が想像していたものを遥かに超えていた。


「ありえない……その年齢でセカンドステージに入ったということか!?」


「うふふ。せっかくだし、見せてあげる。私の本気をね」


 男は懐から緊急用のナイフを取り出して身構える。


 女の美しい黒色の髪がふんわりと上がったと同時に、彼女から背を向けて自身が出せる最高速度で走り逃げた。


 速さには自信があった男。だが――――一瞬だけ視界の右側に彼女の姿が見えた。と同時に視界が歪んで前を向いていたはずなのに天井を向いていた。


 そこに映っていたのは――――頭部を失くして倒れる自身の胴体だった。


 キラキラと光る極細糸が舞うのが見え、美しい女の姿が一瞬映り、男は意識を失った。

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