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異世界に転生した元暗殺者は、回復魔法使いになっても剣を振り回す。  作者: 御峰。


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第32話 暗殺者、食堂で楽しく談笑する。

 午前中の授業は終わり、昼食は学園側が用意してくれるため食堂に入った。


 多くの生徒で賑わっており、二年生三年生が興味ありげに一年生を見ていたが、Dクラスの面々が中に入ると奇妙な視線を向ける。


 席に座るとすぐに存在感を放つ――――姉が後ろから抱き着いてくる。


 しっかり女性として成長もしている姉のまだ発育途中のモノが後頭部に当たる。


「アダムちゃん~どうだった~?」


「姉上。初日にしては随分と大変な授業でした」


「ん……? 大変ってどういうこと?」


「戦士科に入ったのですが――――」


「ええええ!? アダムちゃん、戦士科に入ったの!?」


「はい。魔力がないと魔法科には入れませんでした。イヴも一緒に戦士科に入っております」


「そっか~! それなら授業で会えるかも! 何クラスなの?」


「Dクラスです」


「え……? アダムちゃんが……Dクラス?」


「はい。最後でしたので」


「そっか~意外だな~」


「姉上。そろそろ離れてはくださいませんか?」


「やだ~」


「昼食が食べれないので……」


「うふふっ」


 いたずらっぽく笑う姉が隣の席に座る。


 シャワー室で一緒だった細男も同じテーブルで不思議そうな表情で俺を見つめる。


「姉弟かい?」


「ああ。姉上だ」


「初めまして。ロスティアと申します」


「アダムちゃんの姉、ソフィアだよ~! それにしても君はどうしてそんなに疲れているの?」


「あはは……僕は体力がほんとなくて……最初の授業でこんなに走らされるとは思いもしませんでした」


「走らされる……? 走ったの?」


 姉が目を丸くして俺も見つめる。


「半日ずっと走りました」


「半日ずっと!? もしかして、ヘラル先生?」


 あの爺さん。たしかそんな名前だった。


 頷いて返すと、姉は「あちゃ~」と苦笑いを浮かべた。


「アダムちゃん。その先生だけ特殊だよ? よくわかってない方だし、とにかく走らせるしかしないし、それから寝るから」


「まさにそんな感じでした」


「ふふっ。今度からあまり聞かなくて大丈夫だよ。あの先生、落としたりしないから。そもそも授業した記憶すらないから」


 学園のレベルが高いと聞いていたのに、教師のレベルが随分と低次元だなと思ったら、そんな事情があったんだな。


「でも毎月あるクラス対抗戦で別のクラスの先生が落としたりするから、油断はしないでね?」


「わかりました。ありがとうございます。姉上」


「うん! えへへ~」


 シャワーを終えたイヴと聖女も食堂にやってきて、すぐに俺のいるテーブルにもやってきた。


「お姉さま~」


「イヴちゃん~あら? 隣はお友達なの?」


「はい~アダムさまのご友人のようですよ~?」


 視線だけで魔物を倒せるくらいの目の色に変わった姉が俺を見つめる。


「アダムちゃん……? ご友人って……私、聞いてないんだけど……?」


「こちらの方は姉上が入学したときに知り合った方です。アリサさまです」


「……ん? アリサ……?」


 首を傾げた姉が聖女をじっと見つめる。彼女のことは手紙で名前も伝えているので、姉も一応知っている人だ。


「あれ? アダムちゃん? 手紙に書いてくれたアリサさんとは違う……?」


「変装されているようです」


「あ~そっか。アリサさんって……うんうん。よろしくね~アリサさん~」


 ずっと「あうあう……」とおどおどしていた聖女は、はっとなって「よろしくお願いします!」と大きな声で上げながら立ち上がった。


 イヴたちに担任のヘラル先生のことを伝えると「やっぱりね~」と苦笑いを浮かべた。


 みんなで昼食を食べ終わった頃、一人の男性が俺たちのテーブルに近付いてきた。


「初めまして。ソフィア様」


 俺と姉の後ろから聞こえる優しい男性の声。暗殺者として大事な力の一つに声を聞き分ける力がある。ターゲットが大勢の中にいる場合、位置を目で追い続けるのは難しい。その上、不自然だ。それを解消するために声を聞き分けるのは大事な力の一つなのだ。


 彼が誰なのか。入学時に聞いた男の声。シグムンド伯爵の息子の声だ。


 だが――――誰一人も振り向かない。


「アリサちゃんは寮に入るの?」


「えっと……いえ、通いですけど……あ、あの……」


「そっか~毎朝馬車で通うの?」


「へ? え、えっと……いえ、歩きですけど…………あ、あの……」


「そっか~イヴちゃん。毎日アリサちゃんのとこにも迎えに行こうか~?」


「とてもいいと思いますわ~さすがはお姉さまでございます!」


 聖女はずっとおろおろしながら姉やイヴ、俺を見ながら、俺たちの後ろに立っている男をちらちらと見つめた。


「…………」


 それから十分くらい談笑が続いたが姉が振り向くことはなかった。


 食事が終わり立ち上がると、姉とシグムンド伯爵令息と目があった。


「は、初めまして。俺は――――」


 すっと目線を外した姉は、すぐに俺の左腕に抱きつく。


「ねえ~アダムちゃん~午後からの授業に私も行っていい?」


「姉上。二年生の授業があるのではありませんか?」


「あるけど、私、自由参加が許されているから、自習だって言って参加するよ~」


「構いませんが、姉上の成績に影響を及ぼすなら、無理には好ましくないと思います」


「大丈夫! こう見えてもお姉ちゃんは成績優秀だからっ……! …………本当だよ?」


 姉の実力を疑うわけではない。才能も努力も経験も十分だとは思わうが……。


「アダムさま~問題ないと思いますわよ~授業で落とされることはほぼなくて、試験のときに落とされるのが大半みたいですから~」


「……わかりました」


「やった~!」


 シグムンド伯爵令息を残して俺たちは食堂を後にする。


 聖女だけは最後まで彼を気にかけていたけど、誰も振り向くことはなかった。

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