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第一話 その1 「異界屋稼業」

この話は、閃撃のレイドラインを一人称にて再度改稿したものになります

内容も、ほぼ新しくなっているのでよければこちらから読んで切って下されば嬉しいです

 蒼い海に囲まれた緑豊かな島の集まり。セーシャル諸島。本島であるセーシャル島の西部の海岸に広がる魔導機関と人が共存する都市、アクアレムリア。

 数千人の人々が暮らす巨大な街は、いつでも賑わいに溢れており、石造りの白い家が街の清潔さを際立たせ、人々の闊歩する商店街はこの街の陽気な様子をよく表している。

 そして、先人の知恵によって育まれてきた魔術機関都市から一歩外に出ると、そこには、人の手は到底及ばない美しい大自然が広がっている。

 しかし、この島には、魔導機関や大自然の他に、人知を超えた遺物も存在する。


異界漂流物(オーレリアル・アーツ)


 外の世界から流れ着いたとされるモノで、古くからセーシャルの人々が言い伝えてきた人知を超えたモノ達。その規模は、巨大な建物から、手のひらに収まる小さなものまで様々。

 そしてそんなモノたちは、世界のあちらこちらに散らばっている。

 そんな、オーレリアルアーツを調査、管理する特別な仕事を、人々は親しみを込めてこう呼ぶ。

異界屋リアライズ』――と。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……よく寝たな」

小鳥のさえずりが1日の始まりを知らせる。いつもと同じ日常。いつもと同じ朝が俺の部屋にも訪れてきた。時間的には結構寝ていた気もするが、その割には少し眠気が残っている。

昨日の仕事のせいだなと思いながら、眠たい目を擦りながら俺はポストの中身を確認した。

ポストの中身は、宛先にユーリ・ローランド様と書かれた青色の封筒と新聞や勧誘のチラシが数枚。

「俺宛に届く手紙なんて仕事関係のモノぐらいか……」

 封筒を掴み取るとダイニングのテーブルに置き、いつもの朝食を作る。保冷庫の中身は思った以上に少なく、本日の朝食はトーストに簡単なサラダのみとなってしまった。

 今日の夜までには市場で買い足さないとな思いながら、俺はパンを咥えながら俺は封筒の封を切った。封筒もそうだが、中に入っている便箋もごく一般的に出回っているモノに比べて少しお高いものである。

 便箋には、本日の仕事内容が簡素に書かれており、左下には蒼い鳥の捺印が押されていた。

「今日はチカテツか……」

 手紙を封筒の中へと戻し、戸棚の中へと他の郵便物と一緒にしまい込む。食器を洗い、今日の仕事ために身支度を始めることにする。

「さて。行くか」

 ダラダラとしていてはいつまで立っても動かなくなりそうだったので、少し自分に対して気合を入れて、俺は壁に掛けていたコートを羽織る。そして、商売道具の一つでもある太刀と細身の長剣を装備し、外へと続く玄関の扉を勢いよく開けて飛び出していった。

 いつもと同じ朝。いつもと同じ1日。

 今日もそうなるはずだった……。



 街の郊外にある緑豊かな草原に今日の仕事場所がある。若草の匂いに混じって、錆びた鉄の匂いが俺の鼻にその存在感を押し付けてくる。

 草原のど真ん中に、地下へと向かって暗く伸びる穴が存在する。ポッカリと開いたその穴は不気味で街のものを含め誰ひとりここには足を踏み入れない。

「チカテツ。どこかの世界から紛れ込んだ異界の建物。その殆どは地下にあり、未だに全体像が見えていないオーレリアルアーツか……」

 アクアレムリアの大図書館に眠っていた古い文献の一文を思い出しながら、俺は腰に巻いているカバンから光結晶の欠片を取り出して空中へと投げる。

 一瞬の静寂の後、小さな光の玉が暗闇の中から現れて俺の周りをぐるぐると回り始める。

「意外と便利だな」

 道具屋で売っていた道具。暗闇に反応して光を放ちながら一定の時間使用者の回りを明るく照らしてくれるというマジックアイテム。

 少々値は張ったが、ランタンを持って歩くことを考えたら両手が自由な分雲泥の差あると言えるだろう。

「目的地は地下2階層か。今回は楽な仕事だな」

 朝、自宅に届いた手紙に書かれていた依頼は、チカテツの2階層にいるというとある人物を連れてきて欲しいと書かれていた。いや、この場合、人とは、少し間違っている表現だった。

なりは人だが、その力は人ならざる者。妖魔と呼ばれ、この世界に人とともに歴史を築き、あるいは文明を滅ぼしてきた者たち。

悪魔とも神とも言われてきた悠久の時を生きる存在。

幸い、今回会う人物は、その中でも古くから人との関わりが深く、人に近い存在だったのであり、俺にとっては身近な妖魔だったので簡単な仕事だった。

 とはいえ、チカテツは人が踏み入れない場所なだけはあって、モンスターの巣となっている。

 チカテツの入口で再度自分に気合をいれ、いつでも商売道具を抜ける格好で地下へと続く階段を一歩ずつ降りていった。

「いつもと違う?」

 その感覚が確かなものとなったのは、階段を降りきった直後だった。日の当たらない地下は幾ばくか地上に比べて冷たいのはいつものことなのだが、今日のチカテツ内の気温はいつも以上に冷たかった。

 それは、巨大な氷の塊で閉ざされた部屋の中にいるような感覚に陥るほど。

「異常だな」

 太刀の柄に右手を添えながらゆっくりと冷の奥へと進んでいく。奥へ行けば行くほど、冷気は強くなっていく。

 口から吐き出される息が真っ白に染まり始めた頃だった。つい先日までは、落盤で道が塞がっていたはずの場所が目の前に現れた。

「道をふさいでいた岩がどかされている?」

 奥へと続く通路いっぱいに詰められていた岩が綺麗さっぱりどけられていた。いや、どけられたというよりは、強い衝撃で吹き飛ばされたという表現をした方があっているかもしれない。

 部屋のあちらこちらに割れた岩が転がっており、壁に突き刺さっている岩の姿もあった。

「ユーリ。来ていたのか」

 後ろから聞こえてきた聞き覚えのあるその声に振り向くと、シルバーブロンドの髪の女性がランタンを片手に立っていた。

 端正な顔立ちで、艶やかに輝く銀髪。見た目は25歳前後の女性。だが、実際の年齢はそれの数十倍とも言える年月を生きてきた人ならざる存在。

 彼女が、今回の依頼の人物。狼神、フェンリアだった。

「フェンリア。これはどういうことなんだ?」

「数刻ほど前に派手な衝撃音がしてな。気になって見に来たら君に会った。故に私も初めて現状を目にしたので原因の特定がまだ出来ていない」

 部屋中をじっと眺めながらフェンリアが顎に手を当て、そう答えた。

「謎の衝撃音か……」

 一体どれほどの量の岩があの通路を塞いでいたのか正確な量は分からないが、もしも一度の衝撃波でここの岩の全てを吹き飛ばしたのとしたら、それは凄まじい威力だったに違いない。

 そう考えながら、部屋のあちこちに転がる大きな岩へと視線を動かした時だった。先ほど以上にました冷気が通路の奥から流れ出してきた。

「ユーリ。これはマズイ事になったかもしれないな」

 左手に蒼い炎を纏わせるとフェンリアはそうつぶやいた。俺もその異様な気配に太刀の柄を握りしめ、その銀色に輝く刃を引き抜いた。

「何かが来る!」

 ゴウッ! 轟音と共に冷たい空気の塊が通路の奥から飛び出して来て俺たちに襲いかかった。

 それは、空気の塊は思えないほどの強い衝撃で、身体が吹き飛ばされるかと思った俺は太刀を地面に突き刺してなんとかその衝撃波を凌いだ。

「全く。手荒い歓迎だな」

 そう言いながらも、ニヤリと笑みを浮かべたフェンリアが左手で空中に向かってパンチすると、彼女の左手の周りにあった蒼い炎は拳の先の一点に吸い込まれていき、瞬時に蒼い光の尾を引きながら通路の奥へと放たれた。

 少し間を置いて、爆発音とともに今度は通路の奥から爆発による粉塵と生暖かい空気がモワリと立ち込めてきた。

「ちょっとやりすぎじゃないのか?」

 太刀を地面から引き抜きもう一度構え直しながら、俺は不敵な笑みを浮かべるフェンリアに問いかけた。

「これぐらいがちょうどいい。むしろ少して加減してやったぐらいだ」

「そういうものかね。全く、技を使うのはいいが、一応ここの管理は俺の管轄なんだからな。あんまりやりすぎないでくれよな」

「そういえばそうだったな」

 シレっと今思い出したかのように言うものだから、後ろからど突いてやろうかと思えたが、そんな事よりももっと重要な事態に俺はさっきまで考えていた事を一瞬で忘れていしまった。

「どうやら、先ほどの私の攻撃は過剰なんかではなかったようだな……」

通路の奥はぼんやりと青い光に包まれており、その青い光の真ん中に1人の少女が物言わず立っていた。

「一応補足しておくがさっきの技は、見た目が派手なだけの技ではないからな。そんじょそこらの鋼の盾ぐらい一瞬で溶かしてしまうほどの高温の炎をお見舞いしてやったはずなんだが」

 そんな恐ろしい技を初っ端から使うなよとも思ったが、俺の目はすぐに部屋の奥の少女へと向いた。

 少女の回りを取り囲んでいた青い光は段々とその光を弱めていき、もう肉眼では見えなくなった時だった。

 少女は膝をカクんと曲げその場に倒れそうになる。

 俺は、何故だかその瞬間彼女の元に駆け寄り、倒れる前に彼女をキャッチした。

 深い海の様な蒼く長い髪。俺と同じ16、7歳ほどの少女は、街では見たことのない服珍しい服を身にまとっていた。

 目をつむっているがその顔立ちはとても丹精で、人形屋に並ぶ人形のように白く透き通った肌だった。

「私もそこそこ長い年月生きてきたが。初めて見る人間だな」

「人間……なのか?」

「少なくとも同族ではないな。名乗らずとも私ほどになれば同族の持つ気のようなものはすぐに分かる。だが、そこのお嬢さんにはそんな気は一切感じ取れない」

「とはいえ、あんなものを見せつけれて人間だとも言い切れないがな……」

 俺の心の奥底で感じ取る異様な感覚に、不思議な気分になりながら俺は、いつもの日常とは明らかに違う違和感を拭えずにただただどうすることもできなかった。

「……ッん」

 青髪の少女はゆっくと目を見開く。青く澄んで吸い込まれてしまいそうな瞳がそこにはあった。

 そんなつもりは無かったのだが、ついつい彼女の顔を俺はじっと見つめてしまっていた。

いや、見とれてしまっていた言ったほうが正しいのかもしれない。視線が釘付けになるとはこのことだったのか納得してしまえるほどだった。

 そして、見る見るうちに彼女の顔が赤くなっていき、プルプルと震えだす。

「ちょ」

「ちょ?」

「ダ、ダダダダダ、誰なのよぉぉぉぉッ!!」

 彼女がそういった時、俺の視界は上下が逆転していた。一瞬の出来事だったのにも関わらず、体感的にはものすごく長い滞空時間だった。

地面が頭の上に見える不思議な状態で、自分が彼女に殴られて吹き飛んだとだと気づくのにそれほど時間は掛からなかった。

後は重力に身を任せて頭から地面に落下、あれほどゆっくりとた時間を感じていたのになぜ受身を取らなかったのか不思議だった。

ただ一つ、目の前で星が飛びそうなほど衝撃の後に、胸元を抑えて顔も真っ赤にして叫んだ少女の言葉だけはやけにはっきりと頭の中に入ってきた。

「最低ッ!!」



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