表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/407

日報 新米聖女見習いのお仕事奮闘記 前編

新米の聖女見習い視点です。

 あたしの名前はニーナ。


 王都で新米の聖女見習いをしています。



 昔から目が良いだけが取り柄だと家族に言われてきたあたしですが、10才のときに光魔法の才が認められて人生が変わりました。


 強制的に聖女見習いの養成施設がある大聖堂とやらに放り込まれたときはどうなるかと思ったけど、なんとか頑張っています。



 それにしても、平民出身の私がまさか本物の聖女様がいらっしゃる大聖堂所属の聖女見習いになれるなんて、まるで夢のよう。



 夢と言えば、今でもよく覚えている忘れられない出来事が一つあります。



 あれは、あたしが聖女大聖堂に入ってから一週間のとき。

 あたしはまだ10才でした。


 家族と引き離されたうえ慣れない生活と辛い修行に耐えられなくて、大聖堂の裏庭のすみっこで一人泣いていました。


 そのとき、ある人に声をかけてもらったの。

 そのお方は黄金色(こがねいろ)の瞳をしていて、同じような淡い金色の長い髪がとても美しい女の人でした。


 あたしよりも5才くらい年上だと思う。



 女の人は、涙でびしょ濡れになったあたしの顔を、ご自分の真っ白なハンカチで()いてくださりました。


 レースのついた可愛らしいハンカチ。

 しかもお貴族さまがもつような高級なものを、平民であるあたしに使ってくださったのです。


 そのうえ、光回復魔法であたしの腫れた顔を元通りに直してくれたの。

 聖女見習いが使える光回復魔法というのは凄いんだなと、あたしは初めて身を持って体験したのです。



 女の人は、あたしに優しく声をかけてくれました。


「あなた、お名前は?」


「…………ニーナ」


「ねえ、ニーナはとても綺麗な目をしているのですね」


「あたしの、目?」


「そうです。光の女神さまの祝福を受けた、特別な目をしているように感じます。他の聖女見習いにはない、特別な力が」



 そんな特別だと言われても、まったくピンと来ませんでした。

 視力が良いだけが取り柄だと親からは言われていたけど、そんな大そうな力を持っているとは思えない。


 むしろ特別だと感じるのは、目の前の聖女見習いの先輩です。


 まるで本物の女神さまのように、慈愛(じあい)(こも)った視線であたしに接してくれました。



 しばらくすると、大聖堂のほうから騒がしそうな声がいくつも聞こえてきます。


「もう行かないと」



 聖女見習いの先輩が、あたしから離れていきました。


「ニーナは新人さんですね。聖女になる修行は辛いけど、頑張ってくださいね」


「あのうっ…………お名前は、なんと言うのですか?」



 静かに立ち止まった聖女見習いの先輩が、ゆっくりとあたしのほうへと振り帰ります。



「わたくしはイリスと申します」



 イリスと名乗った先輩聖女見習いは、名乗り終わると急ぐようにその場を去っていきました。



「イリスさま……」


 あたしはイリスさまのハンカチを持ったまま、たしかめるようにそう呟きました。

 辛い聖女大聖堂での生活が、少しだけ楽しくなるような予感を覚えたのです。




 イリスさまがただの聖女見習いではなく、歴代でも最高峰で当代一と呼ばれる本物の聖女さまであると知ったのは、それから数日後のことでした。

 


 憧れの先輩が、国中の民から(した)われる聖女さまであると知って、あたしはとても嬉しくなった。

 将来はイリスさまの隣に並べるような立派な聖女になろうと、決意します。



 それと大事なことが一つ。

 イリスさまにお借りしたままになっているハンカチをお返ししなければならない。

 

 でも、イリスさまと話す機会はほとんどなかった。

 数少ない会話のときも、いつも緊張してしまってハンカチを返すことを忘れてしまいました。


 だから、次にお会いしたときこそ、ハンカチをお返ししよう。

 それで、あの日にイリスさまに出会うことができたから今日のあたしがあるのだと、告白しようと決めたのです。



 けれど、あたしがハンカチをお返しする日は、ついにやって来ませんでした。




 あたしが11才のある日、イリスさまの訃報(ふほう)が伝えられたのです。


 詳しい経緯(いきさつ)は国の上層部での機密事項になったようですが、これだけはわかります。


 聖女であるイリスさまは、勇者さまたちと一緒に魔王討伐の旅に出ていた。

 その途中で命を落としたのだから、きっと魔王軍の手にかかったに違いない。



 聖女さまはちょっと抜けているところはあったけど、それも含めて魅力的なお方でした。


 強くて優しくて、とても美しい。

 イリスさまを尊敬している聖女見習いはたくさんいた。

 人気があったお方だから、国中の民が涙を流したのではないかとすら思いました。



 イリスさまが亡くなったことを知ったその日、あたしは涙が枯れるまで泣き続けました。

 涙を()こうとイリスさまからお借りしていたハンカチを取り出すと、さらに涙が(あふ)れてきます。


 このハンカチをお返しすることは、二度とできない。

 そして、初めてお会いしたときのことをとても感謝していると伝えることも、もう叶わない。

 

 あたしはイリスさまと初めてであった聖女大聖堂の裏庭で、空を見上げながら一人で祈り続けました。

 

 イリスさま。

 どうぞ、安らかにお眠りください。




 あたしが13才になった年は、このガルデーニア王国で新しい夫婦が誕生しました。



 勇者さまである第二王子と新しい聖女さまの結婚式です。


 先代の聖女であるイリスさまは平民出身であるあたしにも、廊下ですれ違うたびに優しくて声をかけてくれた。でも、今の聖女さまは怖いお方です。

 イリスさまの妹弟子だったというのに、性格は真反対。


 平民であるあたしには目もくれません。

 未だに一度も話したことがないくらいです。

 勇者さまはきっと新しい聖女さまの尻に敷かれていると思うのです。あの聖女さま、性格悪いし。



 そんなことよりも、勇者さまはすぐに新しい聖女さまと結婚してしまって、なにを考えているんだとあたしはカンカンです。

 婚約者であったはずのイリスさまのことは忘れてしまったのかと、許せません。


 この結婚には政治的な要因もあったのかはわからないけど、勇者さまの気持ちはどうなのかと気になりました。

 でも、あたしにそれを確かめる機会など、やってくるはずはなかったのです。




 あたしが14才になった年の冬は、百年に一度の大雪が国中を襲いました。

 それだけじゃなく、魔王軍によって城塞の街が落とされてしまったの。



 国の一大事だというのに、王国の希望である最強の男、勇者さまは新妻にメロメロでした。まったく魔王退治に行く気配がない。


 その新妻も、先代の聖女さま亡きいま、国で一番の光魔法の使い手になっている。

 二人とも国の最高峰の戦力なのに、ずっと城に(こも)ってイチャイチャしているともっぱらの噂です。


 この間も、勇者さまは夜凄いんだからという新妻聖女さまの会話を、女神大聖堂で聞いてしまった。

 国よりも愛する相手が一番だと行動するのは良いけど、二人とも立場あるお方なんだからもう少し自覚を持ってほしい。

 それにあたしはそんな噂を、聞きたくはなかった。




 15才になったある日、あたしはついに外でお仕事を任されるようになりました。

 人事異動が発表されたのです。


 でも喜んだのも(つか)()、その辞令が最前線の地へ移動しろとのことだとわかりました。

 


 戦場となるかもしれないところに行くのは正直怖い。

 でも、戦いで傷ついたものを(いや)すのが聖女の御役目(おやくめ)


 聖女見習いになると決めたあの日から、覚悟は決めました。

 故郷の家族を守るために、あたしは国のために命をかけて戦います。



 それに、赴任地(ふにんち)は教会の司教座がある場所。

 女神さまの塔がある街で暮らすことができるのだ。

 それは楽しみかも。



 けれども、馬車で塔の街へ移動しているときに、変なものを見てしまったの。


 あたしは昔から目が良い。

 だから空を飛んでいる小さな鳥が、なぜかバケツを持っていることも見えてしまった。

 辺境の地には変った鳥がいるのだなと、あたしは見分(けんぶん)を広めました。



 けれども、あたしは気がついてしまいます。


 その白い鳥が持っているバケツから、不思議な光が見えたからです。


 まるでイリスさまを彷彿(ほうふつ)とさせるようなそのバケツの光は、鳥とともに森の奥地へと消えて行きました。



 あたしはお守り代わりに身に着けているイリスさまのハンカチを取り出します。


 ハンカチには金色の糸で『イリス』と雅な文字で刺繍(ししゅう)されていました。

 

 イリスさまが亡くなってからもう4年。

 まさかまた、イリスさまを思い出す日がくるなんて……。



 そういえば、イリスさまはこの辺りで亡くなったと聞きました。


 もしかしたら、イリスさまがあたしの初仕事を見守ってくれに鳥になってやって来たのかもしれない。

 すぐ近くにイリスさまが見守ってくれているかもと思うと、なんだか元気が出てきます。


 もちろん、そんなことはあり得ないということはわかっている。

 それでも4年ぶりにイリスさまを見ることができたように思えて、あたしはとても嬉しくなりました。



 けれど、あたしはそれから数日後、再びあの光を目にすることになる。



 謎の蜜売りの女の子が持つ、不思議な蜜とともに。


今回は塔の街にいる新人の聖女見習いのお話でした。

また、このお話では聖女時代の主人公の姿を少しだけ目にすることもできます。今まで全く呼ばれることのなかった主人公の名前が、これでもかといったくらい出てきました。実は主人公の聖女時代の名前が出てくるのはこれで二度目です。主人公なのになぜ……!


次回、新米聖女見習いのお仕事奮闘記 後編です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
✿「植物モンスター娘日記」コミックス5巻が3月23日に発売しました✿
お水をあげるつもりで、アルラウネちゃんをお迎えしていただけると嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.
コミカライズ版「植物モンスター娘日記5」



✿コミカライズ版「植物モンスター娘日記」✿
コミックス1巻はこちら!
コミカライズ版「植物モンスター娘日記」


書籍版 植物モンスター娘日記も

絶賛発売中です!

html>

電子書籍版には、
まさかのあのモンスター視点の
特典SSが限定で付いております!

どうぞよろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
憧れの先輩のよだれをなめれてよかったんですねww 先代聖女様、なんて高貴で優しいお方なんでしょう。 どっかの蜜中毒者量産する凶暴な食いしん坊のアルラウネとは違うんですね。
[一言] 今と比べると『誰っ?!』ってなっちゃう元聖女の姿よ……w
[一言] 樹人やみみん「アルラ嬢になる前の名前はイリスさん……かわいいw んで、今の聖女が犯人?」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ