29 私、枯れそうです
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
冬がきたから、植物の宿命として私も落葉してしまうかもしれないの。
枯れたりする花や植物は多い。
もし私の花が冬に命を散らすことになるのだとしたら、私も自動的に枯れて、地面へと落ちて、土へと還ってしまうのではないだろうか。
うぅ、それはイヤだよ。
こわすぎるよ。
植物とはいえモンスターだから他の花よりも体力あるだろうし、冬も枯れないで過ごせるよね。そうだと信じているよ、私。
針葉樹みたいなのだったら落葉はしないけど、私は針葉樹ではないしなー。
スギやマツみたいだったら針葉樹なんだろうけど、あいつら裸子植物だしね。
私、被子植物。
それによって落葉樹か針葉樹を決まっているわけじゃないんだろうけど、私はスギやマツの仲間だとは思えない。
どちらかといえばナスが仲間なの。
私はナス科の女。
とにかくどうにかして冬の間、落葉しない方法を考えなければ。
そのためには栄養を大量に得るしかない。
けれども、野生の動物たちは身を潜めたまま。
ならず者のモンスターも食べつくしてしまった。
万事休すである。
どうせなら冬に強い種族の植物だったら良かったのに。
アルラウネって、どっちなんだろう。正直わからない。
もしかしたらモンスターだから落葉とかしないのかもしれないけど、そうでないとも言い切れない。
そこまで博打は打てないよ。
なる様になって、いきなり枯れたりでもしたら心の整理が追いつかなくなる。できる限りの延命はしたいよね。
私が冬に強いという証拠があれば安心するんだけど。
もしくは、私が冬に強い植物になるという手段しかないのだけれど。
考えろ、私。
──そうだ。
耐寒性がある花を食べれば、私も冬を確実に乗り越えられるのではなくて。
捕食した植物の特性を得る能力を持っているわけだし、そうすれば落葉の危機は去る。
問題は、周りに花が一輪も咲いていないということだ。
この真冬に咲いているような花でなければ、耐寒性を持っていることはないからね。
枯れている花はダメだろう。
でも、寒いのに咲いているということは耐寒性を手にしている花ということ。
せめて歩いて花を探しに行くことができれば、希望が持てたのにね。
そうは問屋が卸してくれない。だって私、植物だから。
あ、こんにちは白い鳥さん。
私はね、あなたが羨ましい。
白い鳥は良いよね、だって自由に森の中を散策できるんだから。
そうだ、白い鳥がいたよ!
こないだ白い鳥のために音楽教室を開いたとき、この鳥は少しだけ言葉を理解していたような気がしたのだ。
だから、もしかしたら私の願い事が通じるかもしれない。
「鳥さん、お願いが、あるの」
こんなに寒いなかで声を発しても、白い吐息が出ない。
自分が植物になってしまったことを改めて感じさせられた。
「花、取って、きて」
助けて白い鳥。あなただけが頼りです。
言葉が通じていると推測しているのだろうが、どうだろうか。
ついでにジェスチャーで花が欲しいことを猛烈にアピールする。
白い鳥は何も鳴かずに、飛び去ってしまった。
冬に咲いている花ならきっと耐寒性もあるはず。
ローズマリーやクリスマスローズみたいな花なら、耐寒性が強いから安心できるの。
ああ、神様女神様白い鳥様。
どうか私の願いを聞き入れてくださいませ。
翌日。
なんと、白い鳥が花を持ってきたのだ。
それは、白くて少し高級感があるような花だった。
クリスマスローズによく似ている。
もし女子高生時代の世界にあったクリスマスローズの仲間であれば、この花はかなり強力な耐寒性を持っていることになる。
クリスマスローズ並みとなれば、摂氏マイナス15度くらいまでは耐えられるようになるはず。
そうなればもう冬は怖くない。
さて、いただくとしましょうか。
パクリ。
よし、これで寒さに耐えられるようになったはず。
心なしか、なんだか寒いのに慣れたような感覚がするね。
多分、耐寒性を手に入れたのでしょう。
私はまた品種改良されたのだ。
白い鳥、ありがとう。
クリスマスローズ、よく冬に強い花に進化してくれたよ。
おかげで私も冬を越すことができそうだ。
そういえばこの世界にはクリスマスはないけど、女子高生時代の世界ではクリスマスがあったんだよね。
今の時期は冬。
日本はクリスマスの真っ最中かもしれない。
恋人と一緒に過ごすクリスマス。
憧れるなあ。
私の婚約者だった勇者様は、聖女見習いのクソ後輩に寝取られてしまったから、身を寄せ合って一緒に寒さをしのぐことなんてしなかった。
新婚のあの二人はきっと、寒さを忘れて汗をかいてしまうくらいイチャイチャしているのでしょうね。
あの二人は城で何不自由なく生活している。
暖炉によって暖かくなった部屋で温かいスープを飲んだりして、そのあとはお互いの肌を重ねて体温を感じ合っているのだ。
そうやって二人が微笑みながら触れ合いを続けているというのに、なんで私は寒い森の中で一人半裸で過ごしているうえ栄養不足に嘆かなければならないの。
なんなのこの差は。絶対におかしい。
寒さを克服したら、なんだか嫌なことを妄想してしまったね。
喉が渇きました。
お水欲しい。
でもね、勘違いしないで欲しいの。
お水欲しいとはいったけど、別に凍らせているものが欲しいと願ったつもりはないのですが。
空から白くて小さな結晶がゆらゆらと舞い降りてきた。
雪が降って来たのだ。
溶ければ水になるから、悪くはないのかな。
地面に湿り気が戻ればもうなんでもよいや。
雪、おいしい……!
いや、おいしいけど、ダメだって。
なんなのこの雪の量は。
大雪なのですが。
ここは豪雪地帯ですか?
もう一面、白銀の世界です。
既に下の球根が雪に埋まってしまって見えなくなっている。
もう何十年に一度の大雪に直面してしまったのではないかと思うくらいの大雪だった。
雪が積もると、私は危険なんだよ。
寒すぎて枯れちゃう。
身を守るために雪かきを始める。
だが、蔓で雪かきをしても限度があった。
あまり雪を運ぶことができないうえ、それ以上の雪が空から滝のように下りてくるのだ。
時間とともに雪の高さは増していく。
耐寒性があっても、大雪に埋もれたりでもしたら耐えられないかも。
誰でも良いので私を雪吊りして雪から守って。
それに、寒さだけじゃない。
このまま私の雌しべすらも雪に埋まってしまったら、私は雪の中で凍りついてしまう。
そのうえ、光合成するための日光が届かなくなる危険もある。
酸素も二酸化炭素も供給されない。
雪に妨げられて呼吸も光合成もできなくなる。
そうなれば耐寒性を持っていても、関係ない。
私は枯れてしまうのだ。
雪が降っても、足があるなら這い出ていけばいい。
動けるなら雪から身を守れる場所に移動すれば良い。
そんな森の動物どころかほとんどの生物ができる移動という手段を私は持っていない。そのため大雪が降るだけで埋まってしまうのだ。
なんでなの。
なんで私は植物なの。
なんで移動できないの。
もう、嫌だよ。
何度となく呪ってきたこの植物という身。
歩けないだけで、雪に囚われて身を散らしてしまうのだ。
そうか。
私、雪の中で死んじゃうのか。
一人ぼっちにはふさわしい最後だよね。
あぁ、人肌が恋しい。
温もりが欲しい。
身も心も、寂しいままなの…………。
すでに雪は胸の高さまで降り積もっていた。
凍ってしまったようでもう蔓も動かない。
諦めるように、私は瞳を閉じる。
植物としての新生活。
意外と、短い命だったね。
ハチさん、せっかく再会できたのに、もう会うことはないかもしれないよ。
タヌキ長老、お願いされたから応えてあげたいけど、もうぽんぽこたちを守れないよ。
白い鳥、花を探してくれてありがとう。でも、無駄になっちゃったよ、ごめんね。
ああ、ダメ。
我慢できない。
光が足りないし、やっぱり寒いし。
もう眠くて、頭も真っ白で。
みんな、おやすみなさい…………。
明日からは毎日1回更新となります。余力があれば2回更新をしたいとは思っているので、その時はまたこうやって告知するかもしれません。よろしくお願いいたします。
次回、春よ、来いです。







