231 ルーフェの村
「それじゃあ、出発、しましょうー!」
私が勢い良く蔓を上げると、ルーフェとヤスミンさんが「オー!」と声を上げてくれました。
チャラ男との模擬戦後、約束通り私は冒険者パーティーに参加することになった。
ちなみに、私だけでなく魔女っこも参加しています。
あの後、戦闘を聞きつけてやって来た魔女っこが、「わたしもアルラウネと行く」と一緒に出掛けると言ってきかなかったんだよね。
そうして私、魔女っこ、悪魔メイドのヤスミンさん、チャラ男のカイルさん、そして女剣士のアンナさんの五人の旅が始まったのでした!
みんなと一緒に移動できるように、私は久しぶりに小さくなって鉢植えアルラウネとなりました!
やり方はこう、小さなアルラウネを生んで、私がそこに転移。
幼い姿となった私を魔女っこがバケツに移せば、久々の鉢植バージョンの私が完成です。
気分はピクニック!
転移したほうが速くて楽だけど、たまには原始的な方法で移動するのは楽しいものなのです。
私が留守の間、森の管理は子アルラウネに任せてきました。
もちろん根っこを王都まで伸ばしてもらう仕事も引き継いでいるよ。
キーリとアマゾネストレントは、子アルラウネのサポートも兼ねてお留守番です。
そうして憧れだった冒険者アルラウネとなった私は、意気揚々と魔女っこに運ばれながら旅に出たのでした。
アルラウネの森と呼ばれるようになった私の森から出発して、ガルデーニア王国南部へと続く街道に出ます。
ここは、こないだ帝国軍が通っていた道でもある。
この街道をずっと南下していくと、魔女っこが暮らしていた村にたどり着くの。
村の付近の森は、聖女であった私にとっての最期の場所でもある。
あれから色々あったけど、こうして無事に生きているだけでも奇跡かもしれないね。
私が感傷にふけっていると、チャラ男が声をかけてきました。
「まさかアルラウネの嬢ちゃんが小さくなるとは思いもしなかった。いったいどんな仕組みなんだ?」
私が小さくなれることは、お兄さんである炎龍様から聞いてはいないんだね。
もしかしたら、チャラ男は私のことをそこまで深くは知らないのかも。
そういえばだけど、カイルさんは炎龍様の兄弟にしては性格がまったく似ていないのが気になる。
あの炎龍様の弟にしては軽すぎるよね。
二人が似ているところというと、魔族にしては人間に対して比較的友好的ということくらい。
本当に炎龍様の弟なのかな。
思い切って、『あなたのお兄さんはグリューシュヴァンツ様ですか?』と訊いてみたい。
そう尋ねてしまうのは簡単だけど、この場にはヴォル兄と一緒に王国に雇われていたアンナさんもいる。
アンナさんをどこまで信用していいかまだわからないから、人前で炎龍様のことを話すのは、やめておいたほうがいいかもしれないね。
そんなことを考えていると、私を運んでいる魔女っこがチャラ男に噛みつくように反論します。
「アルラウネのことを詮索するのはやめて! またイジメるつもりなら、わたしが容赦しないから」
魔女っこの眼光に、「おーこわいこわい」と両手を上げるカイルさん。
別に私はイジメられていたわけではなく、お遊びの戦いだったんだけどね。
さすがに戦闘の規模が激しかったから、魔女っこには心配させちゃったみたい。
チャラ男のあの強さ、魔族であると思えば納得だよ。
でも、なぜ魔族が人間のフリをして塔の街にいたのか。
それも、いまとなっては合点がいきます。
チャラ男以外にも、人間に化けて暮らしている魔族がいる。
それは、悪魔のヤスミンさん!
二人は仲良さそうにしながら、わざわざ私に会いに来た。
きっとこの二人は旧知の仲で、なにか示し合わせて冒険者なんてことをやっているんだ。
いったい何が目的なんだろう。
兄である炎龍様が暴れた場所の調査でもするつもりなのかな。
もしも密かに人間の国を侵略しようとしているのなら、私は祖国を守るために立ちはだからなければならない。
とはいえチャラ男に話しかけるのには勇気がいるから、ちょっとヤスミンさんに探りを入れてみるとしましょう。
「ねえ、ヤスミンさんは、カイルさんのこと、どう思う?」
「うーん、強さは認めるしイケメンだとは思うけど、チャラチャラしているのがダメね。しかも人間だし、あたしは苦手かも」
ヤスミンさん……あなたもしかして、チャラ男の正体に気がついていないの?
ということは、ヤスミンさんとカイルさんが一緒に行動していたのは、偶然ってことになるのかな。
あの人は、見た目はたしかにチャラチャラしているけど、実は魔王軍のお偉いさんの弟さんだと思うの。
だからヤスミンさんがカイルさんの頭を叩いたことは、いまのうちに謝っておいたほうがいいと思いますよ。
「そんなことより、その呼び方よ!」と、ヤスミンさんが私の顔を凝視してきます。
「なんなのヤスミンさんって? あたしとアルラウネの仲なんだから、いい加減呼び捨てで言いなさいよ」
「い、いいの?」
友達を呼び捨てで言う。
イリス時代でも、呼び捨てできる友人は一人しかいなかった。
だから、そういう距離感を掴むのはいまだに苦手なんだよね。
「ヤ、ヤスミン……よ、よろしく、ね」
「恥ずかしがってるアルラウネも可愛いわね。ちょっとあたしにも抱かせてよ」
バケツに入った私を魔女っこと取り合いをするヤスミン。
良い友人が増えて、本当に嬉しい。
その後も旅人や行商人と何度かすれ違いながら、街道を進む私たち一行。
ある程度南下したところで、森の入り口へと近づきます。
「この辺から森に入りましょう」
地図を持ちながら案内をするヤスミン。
どうやら、これからドリュアデスの森の生態調査を行うみたい。
私たちのパーティーの陣形はこうです。
先頭は至近距離が得意な剣士のアンナさん。
その後ろに案内役であり非戦闘員であるヤスミン。
中央には私の運び役である魔女っこと、中・遠距離攻撃が得意で回復担当でもある私。
後衛には至近距離も遠距離も得意なカイルさんが布陣しています。
こうやってみんなで進んでいると、勇者パーティーに在籍していた頃を思い出してしまう。
なんだか冒険をしている感が増してすごく楽しい!
ルンルン気分で進んでいると、「モンスターがいます!」と、アンナさんが叫びました。
ドリュアデスの森は高レベルモンスターが生息しているだけあって、アルラウネの森では見かけない巨大なモンスターと遭遇することができる。
たとえば、あれは懐かしのイノシシ型モンスターヴァルトシュヴァイン。
私がアルラウネになったばかりの頃、よく美味しくいただいたモンスターだね。
「ここはアタシがやります!」
剣士であるアンナさんが、ヴァルトシュヴァインに斬りかかりました。
雷を纏った剣がヴァルトシュヴァインに刺さり、モンスターの動きが止まる。
その隙をついて、風を纏った神速の剣で首を斬り落としました。
──強い。
この年齢の人間の女の子にしては、かなりの強者だ。
ヴォル兄の仲間として付いて来ていただけのことはある。
しかも彼女は二刀流で、雷と嵐を生じさせる化け物級の魔剣を所持している。
あの魔剣は、四天王のフェアギスマインニヒトの記憶で見たことがある。
たしかあれは、五十年前に女剣士フィデッサが使っていた魔剣だった。
フィデッサの正体は魔女王だったわけだけど、その魔剣は最終的には若い頃の大賢者オトフリート様が持ち帰っていたはず。
でも、大賢者様が持っていたはずの魔剣を、なんでアンナさんが持っているんだろう。
というかこの子、どこかで見たことある気がするんだよね。
私がアルラウネになる前の、どこかで……。
「アンナさん、その剣は、どこで手に、入れたのですか?」
ちょうど目が合ったので、質問してみます。
だけど、「これは、貰い物なんです……」と濁されたうえに、距離を取られてしまいました。
アンナさんは活発的な人だと思うんだけど、なぜか私に対してはそっけない態度を取っている。
もしかして私、なにか嫌われるようなことしたのかな?
ヴォル兄たちとひと悶着あったし、あり得るかも。
いっときとはいえせっかく仲間になったのだから、この旅の間にもう少し仲良くなれればいいな。
その後も森のモンスターたちは、私たちの前に現れに現れまくりました。
地獄の狼ヘルヴォルフ、ヘビ型モンスターのヴァーンシュランゲ、戦大好きトラ型モンスターのクリークティーガーを、私たちパーティーは難なく撃破していきます。
とにかく、私たちは強かった。
森の四天王クラスでは、いまの私たちを止めることはできないよ!
モンスターを除けば、森で私たち以外の人間の気配はしませんでした。
帝国兵の残党なんてどこにもいない。
あの頃と同じ、モンスターばかりの危ない森。
でも、そんなこの森が、とても懐かしく思える自分がいる。
この気持ちは、アルラウネとなってサバイバルを経験した私の思い出からくるものなのか、それとも私を丸呑みした花モンスターの郷愁なのか、それはわからない。
少なくとも、私はこの森を懐かしく思っている。
久しぶりに田舎の祖父の家に遊びに行ったようなこの気持ちに、心が落ち着いていた。
そんなことを考えていたら「なんですかこれ!」と、先頭を歩くアンナさんが声を上げます。
景色が変化する。
森が突然、終わったのだ。
目の前には、真っ黒な大地。
壁で隔てたように、森と黒い大地が分かれていました。
これって、魔女っこと空から見たあの景色の場所だよね。
ここは炎龍様が燃やした森と、ドライアド様の結界の境界なのだ。
それにしても、あれから三年近くたったのに、いまだに植物が生えていないのはどうしてだろう。
普通、ここまで真っ黒になったままにはならないよね。
それに、この黒い大地。
まるで、あの炎龍様の黒い炎のよう。
「日も暮れてきたし、もう疲れたわ。今日はここで休みましょう」
ヤスミンがギブアップしたことで、私たちはここでキャンプすることにしました。
野営をしたあとは、夕食の時間です。
カイルさんが運んできた食料以外に、私が植物生成で野菜を作り出して、それを炒めて晩御飯にしたの。
みんなで食べる夕食はにぎやかで、たまにはこういうのも良いなと思ってしまった。
そして翌日。
私たちは、ついにたどり着いてしまったの。
ヤスミンが地図を見ながら、呟きます。
「ここは、村の跡かしら……?」
黒い大地が続いた先に、燃えて真っ黒になったままの場所がありました。
そこに、人が住んでいたと思わしき廃墟があったの。
焼けたままになった家の柱に焦げた井戸、そして無数の墓。
墓だけは燃えていないから、村が燃えたあとに誰かが作ったものなのかもしれません。
「こ、ここって……」
魔女っこの声が震える。
その反応で、察してしまった。
ここは、魔女っこが暮らしていた村なんだ。
炎龍様に焼かれて、壊滅してしまったという村。
「ルーフェ……」
私は魔女っこの頭をよしよしと撫でてあげます。
教えてもらった話によると、魔女っこは帝国から逃げてきて、この村で両親と暮らしていた。
両親が死んでからは、村長の家で暮らしていたらしいです。
それから村人に自分が魔女だとバレてしまい、拷問のような激しい罰を毎日受けたのだという。
死ぬような思いを一ヶ月以上耐えたあとに待っていたのは、磔にされて火刑にされるという最悪の未来だったのだとか。
殺される寸前だったみたいだけど、炎龍様の登場という波乱によって魔女っこは難を逃れたのでした。
だから魔女っこにとっては、この村は両親が亡くなった悲しき場所であり、そうして人間嫌いになったきっかけでもある忌まわしき場所でもあるのだ。
ヤスミンたちが村の調査をしようと進むのとは反対に、魔女っこの足はピタリと止まったままでした。
「ちょっとあんたたち、どうしたの?」と、立ち止まったままの私たちを、ヤスミンが不思議そうに呼びかけてきます。
私も「大丈夫?」と、魔女っこに声をかけてみる。
すると、青ざめた顔で、魔女っこが息を小さく吐く。
「ここには、いたくない……」
──魔女っこを、ここにいさせたらダメだ。
ここから離れないと!
「ちょっと体調が、悪いみたいだから、私たち、あっちで、休んでますね」
村はずれのほうを蔓で指す。
体調が優れないと思ったのか、「わかったわ」とヤスミンは快く返答してくれました。
魔女っこを先導しながら、村の外へと避難します。
いくら魔女っこが人間と交流を持つように成長したとはいえ、この場所がトラウマなのは変わりない。
なるべく離れたところまで、移動しないと。
村の外に移動すると、小川が流れている場所に出ました。
そこに、不自然な家が目に入ったの。
「なに、あれ……?」
一本の枯れた巨木の下に、簡易的な木製の小屋のようなものが建っていた。
火事で燃えたものではなく、かなり新しい建物。
この冬に建てられたのではないかと思えるくらい、最近のものだと思う。
しかも、おかしいのはそれだけではない。
その小屋は、柵のようなもので囲われていた。
しかも切られたままのマキや、水が入った桶のようなものまで置いてある。
どう見ても、誰かが住んでいる気配がする。
「こんな、ところで、いったい、誰が?」
もしかして、村人の生き残りがいるのかも。
そうなると、魔女っこと顔を合わせるのは良くない。
この場所には近づかないほうがいいかも。
「ここから、離れよう!」
蔓で別の方角を指した瞬間、カラカラと不穏な音が鳴りました。
──鳴子だ!
私の蔓が鳴子に当たって、音が出ちゃったんだ。
しまった、気がつかなかったよ。
まさか防犯用の鳴子があったなんて。
バケツに入って小さくなっていたせいで、視界が狭くなっていて見えなかった。
鳴子の音は、建物の中の人間にまで聞こえたはず。
魔女っこが後ろを向こうとした瞬間、ウッドハウスの扉が開きました。
「誰だ、そこにいるのは!」
子供の声が聞こえた。
男の子だ。
というかこの声、どこかで聞き覚えがあるような……。
まさかと思い、扉から出てきた少年に目を向けます。
建物から出てきたのは、十二、三才くらいの金髪の男の子でした。
しかも、どことなく私が知っている少年に面影がある。
驚いたね、あれから三年くらい経ったことになるのかな。
いつの間にか、こんなに大きくなっていたんだね。
「この甘い蜜の匂い、もしかしてあの時のアルラウネ!?」
小屋から出てきた人間。
それは蜜狂いになるほど私の蜜が大好きだった男の子。
あの、アルミン少年でした。
いつもお読みいただきありがとうございます。
おかげさまで、10/23(月)にコミカライズ版「植物モンスター娘日記」の第4巻が発売します!
アルラウネと魔女っこが新天地で生活を始めた辺りのお話になりまして、web版ではお馴染みになっているあのキャラクターたちもたくさん登場します!
新キャラについて私はもうひと目で気に入ってしまいましたので、是非皆さまも直接見ていただけば幸いです!
ご予約やご購入などもしてくださると、嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.ペコリ
次回、蜜狂いのアルミン少年との再会です。







