132 炎龍様に捕まりました
悪魔メイドさんに連れられて、魔王城へと帰ります。
寝室に戻ると、炎龍様が私たちを待ち構えていました。
最近の定位置になりつつある窓際に、私は置かれます。
仕事を終えてそのまま退出しようとする悪魔メイドさんを、炎龍様が呼び止めました。
「事情は聞いた。メイド、見聞きしたことを全て話せ」
「かしこまりましたグリューシュヴァンツ様」
どうやら悪魔メイドさんは数週間前からの出来事の記憶が曖昧になっていたみたい。
それで気がついたら、あの空き部屋でアルラウネがトロールを燃やしていたのを目撃したんだって。
最後に他のことはなにもわからないと炎龍様に弁明しました。
「わかった、もう下がってよいぞ」
悪魔メイドさんが退出すると、今度は私の番のようです。
炎龍様とテディおじさまが、私に視線を向けました。
「フェアギスマインニヒトの部下に襲われたと其方は申したが、あのメイドはなにも見ていないようだな。それにトロールなど、この魔王軍はいくらでもいる」
この流れはまずいよ!
私が四天王に襲われたと信じてもらえないかもしれない。
ここは正直に話してしまいましょうか。
「メイドさんは、青い花で、操られて、いたから」
「青い花とはなんのことだ?」
「精霊姫は、青い花を、使って、メイドさんを、操っていた、のです」
「ほほう。そんなこと、いったいどこで知ったのだ?」
「前に森で、精霊姫が、青い花で、モンスターを、操って、いたのです」
「…………其方、魔王城で生まれたばかりなのだから、森に行ったことなどないだろう?」
────あ。
私、まだ生後数日の設定だったよー!
「以前から不思議に思っていたのだ。流暢な言葉、豊富な知識、新しい料理の開発、なにより自分の能力について十分に理解しているその戦闘センス。其方はまるで、何年も外の世界で生きていた記憶を持っているのではと疑いたくなるような行動ばかりする」
「つまり……?」
「其方は生まれながらの天才か、もしくは生後数日のアルラウネではないということだ」
あわわわわわわ!
これ、絶対怪しまれているよねー!
姉ドライアドに襲われた報告会をするはずが、いつの間にか私の詰問会に変わっているよ!!
「我はこう見えてかなり長いこと生きている竜だ。その間、必ず守って来たことがある。なんだと思う?」
炎龍様が守ってきたこと?
なんだろう、仲間を大切にするとか、そういうことかな?
部下の仇である私を燃やした仲間想いのドラゴンさんだったもんね。
「決めたことは必ず守るということだ。部下の仇を討つと約束したならば、なにがあっても仇を殺す」
──ボッ!
炎龍様が手のひらに青い炎を出しました。
その炎は、森で私を焼き殺した魔法の青い炎と同じ色をしていたの。
ぶっちゃけ、私のトラウマです。
「ひっ!?」
「ただの青い火だ。見ただけで怖がるとは、植物モンスターというのは火が苦手なのだな」
「それとも」と口にしながら、ギロリと炎龍様が私を睨みつけます。
「もしや其方、この炎に見覚えがあるのか?」
──ギクリ。
見覚えどころか、あの青い炎の殺気溢れる熱気ですらいまだに覚えているよ。
「やはり其方にはなにか秘密があるらしい。せっかくだ、この場で洗いざらい吐いてもらおう」
青い炎が輪のような形になり、私のほうへと飛んできました。
そのまま私の胴体に巻き付きます。
大きな手錠で体を拘束された形になりました。
私、捕まっちゃったよー!
「おかしなことをしたら、その青い炎は其方を焼き殺す。大人しく我に全て打ち明けなさい」
──うぅ。
ど、どうしましょう。
せっかく魔王城から脱出できると思ったのに、まさかこんなことになるなんて。
私、どうしたらいいかわからなくて泣いちゃいそうだよ。
「もし其方の裏に誰かいるようなら、ここで話せ。悪いようにはしない」
え、私の裏?
いったい何のこと言ってるのですか、炎龍様?
「そのとぼけた反応……どうやらこちらの疑惑に関しては白のようだな。アルラウネは嘘をつくのが下手だということはわかっている。ということは、精霊姫は本当にアルラウネを襲ったということか」
もしかして炎龍様、私と姉ドライアドが繋がっていないかと確かめようとしたの?
たしかに同じ植物同士、仲が良いと勘違いされてもおかしくないよね。
「私が、精霊姫と同じ、ドリュアデスの森、出身だから、そう思ったの、ですか?」
「……其方はやはり賢い植物だ」
つまり、私が姉ドライアドに魔改造されたアルラウネの可能性もあると炎龍様は思っていたんだ。
たしかにそれなら、知識もあって色んなことができるアルラウネだとしても、納得がいく気がするね。
「そうでないなら、残る可能性は一つ。だが、こちらのほうが我は不思議でならない……其方、なぜ生きているのだ?」
なぜ生きているって聞かれても困りますよ、炎龍様。
生きているから生きているのですと、答えるしかないよね。
「我の寝床近くにアルラウネを置いて、起床したらすぐ目に入るようにした。朝食の蜜の味も美味だ。だが我は、また其方を燃やす運命にあるらしい」
「それって……?」
「秘密をすべて話せ。でないと、我は其方を燃やさねばならない」
まだ疑惑は解けていなかったみたいです。
私の秘密って、どこまで話せばお許しいただけるのですか?
実はこないだ枯れた母アルラウネは私で、種になって身体を乗り換えられるということ?
ついでに私が炎龍様の部下の仇のアルラウネで、まだ生きていたということ?
前世が人間で聖女をしていたことも必要ですか?
こことは違う世界の記憶を持っているなんて秘密もあったりするのですが……?
「失礼いたします。グリュー様、至急お見せしたいものが」
扉からテディおじさまが入ってきました。
ナイスタイミングです!
炎龍様はは「ふむ」とうなづきながら、私を鋭い視線でにらみつけます。
「そこで大人しく待っているのだぞ」
炎龍様がテディおじさまと一緒に、お部屋から出ていきました。
大人しく待っているだなんて、冗談じゃありません!
逃げるのはいまがチャンスだよ!
青い炎で拘束されているけど、そんなこと私には無意味です。
元々動けないからね。歩いて逃走なんて考えていないの。
だって私の脱出ルートは、空なんだから!
蔓で窓を開きます。
ここは魔王城の上層部。
しかも山の中腹に建っているから、標高はかなり高いです。
実はね、逃げる方法というのは空を飛ぶことなの。
私はハネフクベを捕食しました。
ハネフクベはウリ科の植物なんだけど、種がとてもユニークです。
なにせ、ハネフクベの種は、自力で空を飛ぶことができるのだから。
円形の種に、グライダーのような羽がついている。
実が割れると、その種がいっせいに空へと飛び立つのだ。
ハネフクベは種だけで3センチ、翼の幅は15センチほどにもなります。
それが滑空しながら天空を舞って、遠くまで飛んでいくの。
実はグライダーというのは、このハネフクベの種をヒントに開発されたんだよね。
つまり、このハネフクベの種となって、魔王城からドリュアデスの森まで飛んで行こうという作戦なのだ!
ぶっちゃけ、運任せです。
着陸した場所から再び種となって飛翔を繰り返して、何度もチャレンジしないと辿り着けないかもしれません。
でも姉ドライアドは魔王城からドリュアデスの森まで風が吹いていると言っていたし、きっとなんとかなるよね。
少なくとも、この場で炎龍様に捕まるよりは絶対に良いはずだよ。
だから私は、この魔王城から脱出します!
ユーカリの能力で発火させ、蔓に火をつけました。
私も証拠隠滅です。
ここで死んだフリをすれば、炎龍様に狙われる心配もなくなるよね。
このまま炎が私の身体を燃やす前にやること。
それは、受粉することです。
そういえば小さい姿のまま受粉をするのは初めてかも。
大きくなければ種にならないとか、そういう制約がなければいいんだけどね。
どうか受粉しますようにと心の中でお願いをしながら、アルラウネの雄花を蔓に咲かせました。
私はパクリと雄花にかぶりつきます。
雄しべの葯を舌で絡め取ると、ごっくんと飲み込みました。
三度目の受粉です。
雄しべの花粉は子房内の胚珠を目指して花粉菅を伸ばします。
そうして私は、お腹の中の胚珠に花粉が到達したことを体で感じてしまいました。
今回は私の身体を燃やして証拠隠滅もするので、火事になると種を飛ばすバンクシアの能力も使います。
炎から脱出するバンクシアの種と、空飛ぶグライダーであるハネフクベの種をかけ合わせて、この魔王城から飛び立つのだ。
ついでに、ハネフクベの種も巨大化させて、遠くまで飛んで行けるよう品種改良しちゃうよ。
小さかったお腹が、次第に丸々と膨らんでいきます。
どうやら成功したみたいだね。
実となる身体に覆われて視界がなくなる直前まで、扉のほうを見つ続けます。
炎龍様、色々とお世話になりました。
私、メイドを辞めさせていただきます。
ごめんなさい、私は手錠で拘束したくらいで安心してはいけない、悪いメイドだったの。
一人で受粉して、一人で飛んで行っちゃうようなヤンチャなアルラウネなのですわ。
だから、これでさようならです。
もう二度と会うこともないでしょう。
次の瞬間、体が弾け飛びました。
アルラウネの体が燃えて、実がバンクシアの能力によって弾けたのだ。
なんだかとても体が軽いです。
目が見えないからわからないけど、きっと私はハネフクベのように空を飛んでいるんだろうね。
私は再び、種となったのだ。
植物はこうやって生息地を広めるの。
歩けないからって、植物を甘く見ていては困るのです。
さて、短いようで長かった魔王城での生活も、これでお終いだよ。
魔女っこ、待っててね。
いま、会いに行くから!
ハネフクベ(別名:アルソミトラ):ウリ科。背の高い木に蔓で巻き付いて、そこから種を飛ばします。世界初の有人飛行に成功したライト兄弟と同時期に、エトリッヒ父子がこのハネフクベ(アルソミトラ)の種子をヒントに、アルソミトラ型飛行機を考え出したそうです。
次回、誰がために執事は働くです。







