121 魔王城で受粉します
炎龍様に身バレしました。
シンデレラ、アウトです!
このままだと私は火刑だよう。
なんとか燃やされない道はないかと考えたところで、幼女アルラウネとなって他人のフリをすることを思いついたの。
というわけで私、受粉します。
幼女になって、人生やり直しましょう。
炎龍様とテディおじさまも、きっと無実のアルラウネの子どもを燃やそうとは思わないよね。
まさか魔王城で受粉するはめになるとは思わなかったけど、背に腹は代えられません。生き残るためなら私はなんだってするよ!
炎龍様とテディおじさまがお部屋に戻ってくる前に、早くことを済ませないと。こっそりと一人で受粉しているところを見られたら、怪しまれそうだからね。
私はさっそく、蔓にアルラウネの雄花を生成します。
その雄花を優しく摘み取り、上の口で雄花にしゃぶりつきました。
雄しべの花粉を体内に取り込むため、花粉が詰まっている葯を舌で絡めとります。
雄花を口に含むのはこれで二度目。
初めてのときは怖かったけど、今回はあの時ほどの恐怖はありません。
一度経験済みなせいか、前回よりもスムーズに行動することができるの。
花粉を吸い取って、ごくんと飲み込みます。
雌しべの柱頭に雄しべの花粉が付着した時点で、受粉は完了なの。久しぶりの自家受粉です。
炎龍様に燃やされたとき以来である、二度目の受粉をしたことになるね。なんだか炎龍様と会うたびに、私は受粉させられているような気がするよ。
受粉したことにより、雄しべの花粉は私のお腹部分である子房内の胚珠目指して花粉管を伸ばします。
そして私は、これまた二度目の感覚を味わいました。
雄花の花粉が胚珠に到達したことを、体で感じてしまったの。
お腹の中に、新しい命が誕生したのです。
その証拠にもうお腹が膨らんできたよ。
この感じ、なんだか懐かしいね。
子房は果実に、胚珠が種子となろうとしているのだ。
お腹を優しく擦りながら、私は超回復魔法を使用しました。
前回同様に、光回復魔法をお腹の中の種子に込めていくの。
この身体のエネルギーを全て、新しい身体となるアルラウネの種子に入れ替えます。
お腹は風船のように急激に膨張していきました。
あっという間に人間の顔部分まで、子房に包まれていく。
視界がなくなり、五感が消える。
意識が薄くなっていくのと同時に、私の身体と精神が小さな種の中に濃縮されていくのがわかります。
この感じ、二度目だから間違いない。
おそらく成功だね。
私は種になったのだ。
────どれくらい時間が経ったのかわからない。
気がつくと、私の身体は発芽し始めました。
急速に成長していくのがわかるよ。
もうすぐ、私はアルラウネとして開花するのだ。
花びらがゆっくりと広がり、蕾が開きました。
眩しい光が私の視界を襲うなか、すぐそこに人影があることがわかります。
それが誰なのか、私は声を聞くまでわかりませんでした。
「どういうことだ、これは?」
目が光に慣れてくると、すぐそこに炎龍様の顔があることがわかります。
炎龍様は私を見たあと、隣に生えていたアルラウネの残がいへと視線を移しました。
「枯れてしまったのか……」
ついさきほどまで私であったアルラウネの身体は、自殺ヤシことタヒナの能力を使って、種を産み落としたときに枯らしておいたの。
だからもう炎龍様が知っているアルラウネは、この世にはいないのです。
植木鉢のそばにはテディおじさまの姿もありました。
枯れてしまった前の私の身体を調べているみたい。
「グリュー様、どうやらこのアルラウネ、本当に枯れてしまったようです」
「見ればわかる」
炎龍様は冷静そうな表情をしているけど、少し焦っているような気がするね。
まさか始末しようとしていたアルラウネが、勝手に自滅してくれるとは思っていなかったみたいだ。
「そこのアルラウネ、我のことがわかるか?」
来ました、炎龍様の詰問タイムです。
ここで私が同じアルラウネだとバレないように気を付けなければならないよね。
だから、なにもしらない幼女のフリをするよ!
子アルラウネたちの真似をすれば、それらしくなるはず。
だから上手く演じましょう。
私、無垢な幼女になるのよ!
「パパ、です、か?」
とぼけた風に、私は炎龍様を呼びました。
するとカミナリが落ちてショートしてしまったのかと思ってしまうように、炎龍様の動きが止まったの。
「なん、だと……?」
誰かをパパと呼ぶのなんていつ以来かわからなくて恥ずかしいよう。
しかも血の繋がっていない赤の他人をパパ呼びするのは、前世も合わせて初めてなの。
「……其方、自分が誰だか、わかっているのか?」
「アルラウネ、です、パパ」
「我はパパではない…………これはどうしたものか」
ほら、見てよ炎龍様。
テディおじさまが笑うのをこらえているのが目に入るよ。どうやら子どものフリ作戦はおじさまにウケたみたいだね。
「アルラウネ、其方はそこで枯れているアルラウネとは別の個体で間違いはないのだな?」
「ママ、枯れちゃった、の?」
「不思議なことにいきなり枯れてしまったようだ。子供を産み落としたからこうなったと考えるべきであろうが、まあそういうことにしておこう」
ギロリと炎龍様の鋭い視線が全身に浴びせられます。
幼女の私は、炎龍様怖いようと身体を縮こませてみました。まだ赤ちゃんだから、優しく接してね。
すぐに視線を移した炎龍様は、テディおじさまがどうしたものかと話し合いを始めました。
どうやら部下の仇のアルラウネの子どもだと思ってくれたみたい。
話の流れ的に、私を燃やそうという意思はないようです。
良かった、私、助かったみたいだよー!
「それでグリュー様、いかがいたしましょう」
「そうだな……そこの小さきアルラウネ、其方は蜜が出せるか?」
また蜜だよ!
そんなに蜜が大事なのかね。
とはいえ、同じ個体だから蜜も同じ味がするはず。
それでシンデレラ判定はされないよね。
母アルラウネと同じ蜜だとしても、炎龍様は小アルラウネを燃やすようなお人ではないとは思うけど。
「蜜って、これの、ことですか?」
「あぁ、少しもらうぞ」
私は子どもっぽく、だらーと口から蜜を垂らしました。
その蜜を炎龍様は指ですくって、ペロリと舐めます。
「同じ蜜の味…………うむ、これなら問題ないな」
あれ、炎龍様がニヤリと笑みをお作りになられているよ。
なんだか嬉しそうな気がする。
「このアルラウネはここで飼育することにしよう。朝食のデザートにちょうど良い」
え、私をここで飼育ですか?
しかも朝食のデザートに私をするつもりだと聞こえましたが……。
「アルラウネが子どもを産んだのなら、それも良いだろう。せっかくだ、幼いころより育てれば、この魔王城により慣れるだろう」
炎龍様の提案に、テディおじさまが同意するように頷きます。
「グリュー様に反抗しないよう、躾ける必要もあるかと存じます」
「なついてくれれば良いのだがな。せっかく見た目も美しいのだから、灰にするような事態は避けたいところだ」
私の育成計画を考えているみたいだけど、まるで脅迫をされているのではないかと錯覚しちゃうよ。
『反抗=燃やされる』という運命が待ち受けている気がするの。
「ちょうど暇つぶしに植物を育ててみたいと思っていた。我好みに育ててみるか」
なんだろうね。
これにも似たようなお話を、前世の女子高生時代に聞いたことがある気がするの。
子どものころから女の子を育てて、自分好みの大人の女性にしようと画策しているようなこの流れ。
女として見られているのではなく、私は蜜を出す観葉植物という扱いだけど、この際細かいことは気にしないことにします。
だってこれ、まるで源氏物語みたいだよ。
幼い若紫は光源氏に引き取られて、彼の理想の女性になるよう育てられるの。
若紫も光源氏を慕って、紫の上と呼ばれるようになって彼の正妻格にまでなるんだよね。
私は無垢な幼女のフリをしています。
だって母アルラウネと私が同じ存在だと気づかれたら、命が危ないかもしれないからね。
だからこのままいくと、私は炎龍様の好みのお花に育てられてしまうの。
まずいよ。
このままだと私、炎龍様に光源氏計画されそうです!
タヒナ:ヤシ科。栄養の全てを使いきって綺麗な花を咲かせて種を飛ばします。すると後日、幹ごと枯れてくずれてなくなってしまうのです。マダガスカル島に分布されており、野生で残っているタヒナは世界で30本ほどしかないとのことです。
次回、炎龍様による若アルラウネ光源氏計画です。







