98 予期せぬ来訪者
私、植物モンスター娘のアルラウネ。
この森に来てからの初めての平和を体験しています。
とはいっても、四天王を倒してからまだ一日しか経っていません。
ずっとこのまま静かな日々が続いてくれれば良いな。
ポカポカした日差しを浴びて気分が良くなった私は、つい暇を見つけると蔓に白い百合の花を咲かせてしまいます。
魔女っこからプレゼントしてくれた百合の花がね、なんだか嬉しいの。
いまではこうやって、いつでもどこでも魔女っこの百合の花を咲かせることができる。
文字通り、私の一部となっています。
魔女っこと私の心がこの花を通じて繋がっているようで、見ていて微笑ましくなる。
そんなことをしている間に、魔女っこが小さな樽を背負いながら、塔の街へと蜜を売りに行こうとします。
手に持っているバケツの中には、小さな木筒が詰まっている。
実は、魔王軍から森を守ったご褒美を、ドライアド様におねだりしたの。
それがあの樽と木筒。
バケツよりも容量が多い樽を手に入れたことで、蜜を売る量も増えました。
なにせ、いまの私はもう幼女ではない。だから前よりもたくさんの蜜を用意できるようになったのだ。
そして木筒です。
本当は竹筒が良かったのだけど、見つからなかったので木製にしてみました。
ドライアド様の精霊魔法によって、蜜を小分けできる木筒を内職してもらったというわけ。
これで木筒ごと蜜を売ることができる。販売方法が広がったね!
「じゃあアルラウネ、行ってくるね」
「お気を、つけて。頑張ってね」
「妹のためにも頑張る……!」
勘違いしてはダメよ魔女っこ。私はね、姉なの。
妹はあなたのほうよ。
大人ぶって背伸びをする妹を、蔓を振りながら見送ります。
姿が見えなくなるまで蔓を動かし続け、気を落としながら蔓を下ろしました。
あぁ、暇だよ。
妖精キーリは妹分のトレントと一緒に森の見回りに行っている。
四天王の残党が東の森にいないか確認しているみたい。
トレントを護衛につけたから、なにかあっても大丈夫だとは思うんだけど、魔王軍に襲撃されたばかりだからちょっと心配だね。
私たちの安寧のためにも、パトロール頑張ってください。
そのせいで一人になってしまったから、やっぱり暇なの。
私の周囲に百合の花を咲かせるという仕事も終わっちゃったしね。
誰かお客様でも来てくれないかなー。
上の口で蔓にかぶりついて、蜜をその辺に漂わせます。
蜜の香りに誘われて、私のご飯が遊びに来てくれるかもしれないね。
そんなことを思っていたせいか、本当に来客がやって来ました。
遠くの方から、何かが飛んでいるような重厚な音がしてくる。
少しずつ近づいてきているね。
これは飛んで火にいる夏の虫だよ!
ヘリコプターのような重音を轟かせながら現れる軍団。
そしてひらひらと舞いながら飛んでくる貴婦人のようなモンスター。
あれ、この音、前に聴き覚えがあるような……。
懐かしい音に反応して、私は視線を上げます。
すると、森の向こうからハチ型モンスターのツォルンビーネが群れを成して現れました。
それに続くのは蝶型モンスターのルストシュメッターリング。
あの特徴的な白い模様のてふてふは間違いない、お蝶夫人だよ!
炎龍様に燃やされた森で生き別れになったままになっていた、森サーのみんなです。
まさかの私の知り合いが会いに来てくれたのだ!
「み、みんなー!」
感動の再会をするように、森サーのメンバーが私の蜜蔓へと吸い込まれていきました。
私の蜜の味を吸うと、ハチさんとてふてふたちが喜ぶようにひらひらと舞い出します。
どうやら私があの森にいたアルラウネだと気がついてくれたみたい。
うぅ、凄いよ!
またみんなと会えるなんて夢のよう!
火事から逃げられたか心配していたけど、無事でよかった。
実はね、もしかしたらこのドリュアデスの森にみんなも来ているんじゃないかなとは思っていたの。
なにせ、前の森にいた枯れ木のトレントがこの森にたどり着いていたからね。
だから他のモンスターも、このドリュアデスの森に流れ着いていてもおかしくないと考えていたの。
とにかく、こうしてお友達と会えたのが嬉しい!
私、大盤振る舞いしちゃうよ!!
すかさず、蔓の先端にかぶりつきまくります。
蜜でべっとりとした蔓を数本こしらえて、ハチさんとてふてふと手を繫ぐのです。
さあ、みんなで踊りましょう。
森サー恒例の舞踏会だよ!
私の女騎士であったハチさんたちが、ブンブンと飛び回ります。
お蝶夫人たちてふてふは、ひらひらと舞いながら口吻を伸ばしてちゅるちゅると蜜を吸い始める。
あぁ、この感じ、久しぶりだね。
癒されるよ。
私の蜜を必要としている友達がこんなにもいる。
みんな、格好良くて可愛らしい。
魔女っこたちと知り合う前は、この光景が私の癒しの全てだった。
だからか、いまでも特別この蜜やりという行為に満足感を覚えてしまうの。
蝶のように舞い、ハチのように刺す。
そうして蜜蔓でみんなとワルツを。
これが森サーの舞踏会です。
私、久々に羽を伸ばして遊んでいる気分だよ!
実際に伸ばしているのは羽じゃなくて、蔓なんだけどね。
けれども楽しい時間はあっという間に過ぎていきます。
蜜をふんだんに採取したハチさんとてふてふたちは、お家に帰っていきました。
みんなどこまで行くのかな。
ご近所さんだったら良いんだけどね。
また会いに来てね。
ずっと待っているからね。
見えなくなるまで蔓を振って、お別れです。
以前のように今生の別れではないから、寂しくはないの。
さて、感動の再会のあとは、ご飯の時間です。
そう、鳥の食べ放題です!
ここにはストーカー四天王さんの部下である鳥モンスターが100羽ほど置いてあります。
これを全部いただいちゃおうというわけ。
正直、黄金鳥人の光魔法のおかげで栄養は十分にある。
それでも食い溜めしておくのは有りだよね。
幼女でなくなった私なら大食いするのは簡単。
でも、今の私はもっと効率の良い食べ方ができるのです。
私は20本の蔓の先にハエトリソウ生やします。
そのハエトリソウたちで鳥さんをパクパクと丸呑みしていくの。
どうやらハエトリソウの口の中で消化された栄養は、蔓を通って私の球根へと流れていくみたい。
だから球根の口で食べずとも、私は無数の口で食事を楽しむことができるようになったのだ。
さあ、いただきます!
パクパク。
うん、口がたくさんあると早食いが加速するね。
ハエトリソウでのモグモグタイムを満喫していると、いきなり男の人の叫び声が聞こえてきました。
「ぎゃぁああああああああ!!」
な、なにごとですか!?
「化け物だぁあああああああ!!」
え、化け物?
いったいどこに?
声をしたほうを向くと、人間の男性二人が私のほうを指さしながら大声を上げていました。
──に、人間がいるよぉおおおおおおおおおおっ!!
冒険者のような雰囲気の人間二人と目が合ってしまいます。
人間さんは身体を震えさせながら、驚愕の声を上げました。
「本当にこの場所にモンスターがいるとは思わなかったが、まさか植物の化け物が鳥モンスターを食べまくっているとも思わなかった」「なんて恐ろしい……!」
どうやら私のモグモグタイムにビックリしちゃったみたい。
ごめんなさい、驚かせてしまったみたいだね。
ハエトリソウを使って100匹の鳥さんを一度に食べられるか試していただけなの。
だから地面から大きなハエトリソウが20本くらい飛び出ていて、鳥モンスターを乱食しているように見えるのは別に怖いことじゃないんだよ。
私も蔓を使って、下の口に鳥さんたちをご招待しているだけだし。
ほらあなたたち、格好からすると冒険者さんでしょう。
もしよろしければ、お二人も食べますか?
生鳥、おいしいですよ。
新鮮じゃないのが人間には傷かもしれないけど、胃袋で溶かせば一緒だよね。
おいでおいでと蔓を動かします。
すると、冒険者のお二人は脱兎のごとくこの場から走り去りました。
「この食虫植物、俺たちを狙っているぞ」「まさか聖女さまの依頼がこんなに危険なものだったなんて!」
え、ちょっと待って。
いま、聖女さまって言った?
「植物に食われるのはイヤだー!」「逃げろー!」
ちょ、ちょっと行かないでー!
聖女さまって言っていたけど、いったいなんの話なの!?
私、気になるのですがー!
走りながら背中を見せる冒険者さんたちに、蔓を伸ばします。
私が蔓を動かすと、人間さんからさらに悲鳴が聞こえてきました。
怖くないですよー。
むしろ優しいですよー。
ただの綺麗なお花ですよー。
そうだわ人間さん、少し私とお茶会をいたしましょう。
そこでゆっくりと私に教えてくださいませ。
私、肉食の植物モンスターだけど、仲良くしてくれると嬉しいの。
人間さんを食べたりしないから、安心してね。
樽と木筒はドライアド様と妖精さんたちが一日で作ってくれました。
木筒は在庫がなくなり次第、追加分ももらえる約束になっているので、魔女っこが蜜をたくさん売っても安心です。
次回、冒険者に見つかりましたです。







