リムジン
北条! お前、付き人までいるのか!
すっげー!
まるでタレントみたいじゃないか! いやタレントだけど。
超すっげー!
俺は貧困なボキャブラリーを駆使して心の中で北条を褒めた。
だってすっげー!
「それで、例の件で急に美沙緒さんのスケジュールが空きましたので、連れてくるように言われました。今、マネージャーの上杉に連絡します」
意味がわからない。
どういうことだ?
「例の件ってなに?」
吉村が聞く。
「ええ。美沙緒さんから連絡があったと思いますが……」
嫌な予感がしたので俺は自分のスマートホンを取りに行く。
SNSのメッセージが俺に送られていた。
差出人は北条美沙緒。
『ごっめーん! 言うの忘れてた。光ちゃん、今から事務所に来てね~♪』
軽い。
最近の北条は、明るく元気で少し抜けている。
あの殺人鬼から母熊のごとく美香を守り通した烈女の面影はもはやない。
今の北条はひょうひょうとした狸のような性格なのだ。
いや、元々の性格はこっちなのだろう。
このくらい強くなければ生き残れなかったのだろう。
俺は顧問の飯田にバトンタッチしてすぐに着替えた。
校門に行くと迎えに来た自動車が待っていた。
なんというか……リムジンだ。
リン●ーンを改造した無駄に長い車だ。
それがこの東京北区の毛細血管のようにクソ細かい道をどうやって運転してきたのか?
それが気になって仕方がない。
「嫌がらせですよね」
美香がつぶやいた。
その表情はあきれ果ててる。
俺も同感だ。
成金趣味も行き過ぎると芸人要素にしかならない。
「絶対嫌がらせだよね」
吉村もつぶやいた。
やはり薄い。一切揺れない。素晴らしい。
俺は、と言うと少し喜んでいた。
なにせあの長い車が、壁をこすって傷だらけになると思うだけで胸がスカッとする。
一言で言うと金持ちクソザマァである。
「お兄ちゃん悪い顔してますよ……」
くっくっく。
俺は僻みと妬みによってどこまでも強くなる。
「美香ちゃん。光太郎が悪い顔してる」
「えっちなことか悪だくみをしている顔ですね」
うっさい!
お前ら仲良しか!
悪だくみや妄想くらい自由にさせろ!
俺の邪悪な願いとは裏腹に、リムジンはこすりもせずに路地を抜けていった。
俺はシャンパンはないかと漁る。
「お兄ちゃん! 行儀悪いですよ!」
「おま、せっかくマフィアが乗るような車なんだから、シャンパン開けてみたいだろ!? 吉村もそう思うだろ! この無駄に豪華な車内から『くっくっく。愚民どもめが!』ってやってみたいだろ?」
「いい。美香ちゃん。男の子には純粋さとおバカの違いがわからないのよ。でもそれを許すのが女の器量ってものよ」
「吉村お姉ちゃん! カッコイイ!」
なんとでも言え。
俺は俺の道を生きる。
そう、たとえばシャンパンを探すように。
マフィアの首領ごっこをするように。
「あの~」
皆川晶が手を上げる。
「おう、どうした皆川」
「そこに冷蔵庫ありますよ」
ドン●リとかが無造作に置かれているイメージだったが、冷蔵庫もあるのか。
俺は言われた通り冷蔵庫を開ける。
中には……ド●ペとルートビア。あと牛モツラムネと醤油コーラ。
俺よりバカがいた……
俺は皆川を見る。凝視する。ガン見する。
「そんな目で見ないでください。美沙緒さんの性格はご存じでしょう……あ、ほら、牛モツラムネ、がんばれば結構飲めますよ」
「努力しなければ飲めないものなんていらんわー! つか飲んだんかい!」
俺は皆川とは友だちになれそうだ。
ドM繋がりで。
「お兄ちゃん。じゃんけんで負けた方が飲みましょう!」
美香が目を輝かせる。
「美香ぁッ! お前も乗り気か!」
「光太郎……最初はグー」
「吉村ぁッ! お前もか! もうね、お前らドクペで我慢しなさい!」
俺は三人に強制的にドクペを渡す。
俺は隙を見てルートビアバニラ味を取る。
飲むと湿布とバニラの香りが口内に広がる。
ふふふふ、素晴らしい。
「あー! お兄ちゃんずるーい!」
美香に俺のルートビアちゃんが略奪される。
このプレデターめ!
「うっわ、すげえ味! はい春香ちゃん」
ルートビアを飲んだ美香は俺に断りもなく吉村にルートビアを渡す。
吉村は少し顔を赤くしながらルートビアを口にした。
「……」
吉村は俺を見る。
その表情は喜怒哀楽どれにも属さないものだった。
「だから●クペにしろと言っただろう……」
お子ちゃまには刺激的すぎるのだよ。吉村たん。
「皆川は飲むか?」
俺は飲みかけのルートビアを渡そうとする。
だが皆川は真っ赤な顔をした。
なによその顔。
ちょっとエロイじゃないのさ。
あたい、なにかに目覚めちゃいそう……




