第二章 プロローグ
やあ、みんな。久しぶり。
相良光太郎。
神様の天使。
作戦名『ファルコン』だ。
あれからの話を少ししよう。
俺のパンチ、そして飯田と豪田の勇姿は、雑コラとして大量にSNSに投稿された。
投稿された画像は大量の『いいね』と議論を巻き起こし、とうとうサーバーを撃沈した。
バ●スの再来ということだ。
なにやってるのお前ら……それだけ俺たちが好かれているということではあるが。
とにかく俺の勇姿は伝説になったのだ。面白半分に。
さらに時は経ち、あれから二度のコ●ンドーの再放送があった。
俺は中学三年生になった。とうとう高校受験だ。
……勉学スキルに大量のポイントを振ったせいでヌルゲーなのは誰にも言えない。
言ったらマジでリンチされかねない。
模試も上位数人に常に入っているし……
目指すは難関都立! 絶対に共学のとこ。
男子校なんて絶対に嫌だからね!
こんな俺の人生は完璧なはずだった……なのに……未だに俺は童貞である。
彼女もいなければモテたこともない。
……おかしい。
健全な中学生なら自動的に彼女ができるハズじゃ……
夏場のカブトムシのように交尾し放題のハズではなかったのか!
なぜだ……なぜだ……なぜ俺だけ孤独なのだ。
俺は……世界が……憎い……
今なら世界を滅ぼそうとする魔王の気持ちがよくわかる。
彼らはきっと童貞に違いない。
神様……リア充という悪鬼羅刹の輩どもを裁く力を俺にください!
美香は俺と同じ中学に入学した。
健康状態も良くなった美香は今や美少女である。
可愛いガキではない。美少女である。
髪をショートカットにして笑顔を振りまくその姿は健康的な美しさと言えるだろう。
少し前までやたら可愛いガキンチョレベルだったのに……女の子って怖い……
男の子は体が大きくなってもガキはガキなのに。
そんな美香は、俺と同じ合気道部に入った。
美香目当ての男子部員も大量に入部し、美香と仲良くしたい女子もこれまた大量に入部した。
おかげで我が合気道部は、なんとか廃部の危機を免れたのである。
なにせ美香は地域の有名人だ。
あの事件の被害者にして、学校でも有数の美少女。
しかも、現在テレビで絶賛売り出し中のアイドル女優、北条美沙緒公認の妹分だ。
キャラも明るく、人当たりも良い。
入学当初は、親や教師の命令で仲良くしていたクラスメイトも今では大事な友人だ。
もちろん嫉妬や妬みもあった。
けなげで、可愛らしく、しかも明るくて圧倒的なコミュニケーション能力の持ち主だ。
俺が女子でも嫉妬の一つもするだろう。
だがそれも心配はなかった。
校内最強どころか、人類でも最上位の戦闘力と噂される怖い兄貴、つまり俺がいるせいでイジメは起こっていない。
美香をいじめたら、俺に『ぶっ殺される』という噂が立ったのだ。
多分に酷い誤解が含まれている。
俺が広義の意味で『ぶっ殺した』のは後にも先にも、連続殺人犯だけだ。
それも命は奪っていない。一生自分のケツも拭けないようにしただけだ。
それが怖いのだろうがな!
でも美香のためなら、えーんやこら。
新米兄貴としては、その程度の汚名は我慢しよう。
北条は母親と暮らすために引っ越した。今は有名私学に通っているらしい。
俺と美香はめったに会うことはできないが、よくSNSでメッセージをやりとりしている。
先ほども言ったように、北条は芸能界デビューをした。
事件のネームバリューと母親の七光りなのは北条自身も否定しない。
だが北条は殺人鬼のせいでメチャクチャにされた人生を取り戻すために芸能界に賭けている。
その執念は凄まじく、容赦ないレッスンを全てこなし、その美しい顔で自身の壮絶な体験までも武器にしている。
勉強も家庭教師を雇って、中学までの勉強を数ヶ月で頭に叩き込んだ。
並大抵の努力ではない。
さすが殺人鬼から美香を守り抜いたタフな女だ。素直に尊敬する。
演技の方もなんとも言えない凄味があるせいか、刑事ドラマやサスペンスドラマ戦争ドラマと引っ張りだこだ。
最近では賞まで受賞した。
……本当に遠くに行ってしまった感じがする。
だがそれでも幸せになってくれたはずだ。俺も友人としてとても嬉しく思う。
だけど「好きなタイプは?」っていう質問に、毎回毎回、年齢に似合わない色っぽい微笑みを携えながら「相良光太郎君」と答えるのはやめて欲しい。
その発言が出るたびに、ネットのどこかで俺への殺害予告がされるのだ。
写真週刊誌にもマークされるし。
でもどんなにメディアが付け火しようともスキャンダルにはならない。
世間のみんなは俺が事件を解決したことは知っている。
しかし毎日のように下衆な勘ぐりがネットを駆け巡るのだ。
俺の裸の写真と共に。
俺は良いのだが、北条のためにならないだろ!
でも、世間は俺や北条の味方だ。
俺がヒーローに見えたんだろうと好意的に解釈してくれている。
世の中は決して捨てたものではないようだ。
吉村は俺と同じ学校を目指しているらしく、必死に勉強をしている。
もともと吉村は派手な格好に文句を言わせないために勉強をがんばっていた。成績は悪くない。
なんとかなるんじゃないだろうか?
ちなみに吉村はここ半年で、驚くほど、なんというか……大人になった。
背は伸び、顔も大人っぽく、メイクも上手になった。
水抵抗の少なそうな体……だけは相変わらずだが。
狙っている男子は星の数ほどだ。
でもそんな吉村は相変わらず俺にべったりだ。
クラスの連中は、なぜか俺たちを暖かく見守っている。
そのカルガモの親子を見守るような視線はやめて!
つまりだ……吉村は中身の方はあまり変わっていない。
北条もうちの美香も、たまに遠く感じるほど変わってしまったせいか吉村は……なんだか安心する。
そんなわけで、俺たちはすっかり日常に戻っていたのだ。




