最悪の一夜 3
警察をまく。
無理だ。
どう考えても無理だ。
俺はメッセージを警官に見せなかった。
見せた瞬間に吉村が殺されたら、そう思うと怖くて見せられなかったのだ。
なにせ俺たちの乗ったパトカーの後ろには報道各社の中継車が貼り付いている。
おまけに動画投稿サイトの投稿者たちも俺を追っているはずだ。
なにせ『LIVE』の表示のついた動画がトップページに乱舞している。
「中学生が人質に取られた結果wwwwww」
「童貞、怒りの裸踊りwwwwwww」
「男の娘の裸踊り(児ポ注意)wwwwwww」
やかましいわ!
『こ、光ちゃんが……それだけ、び、美少年なんですよ……た、たぶん……』
お前はヘタな慰めの方が残酷だという事実を認めような。
ちなみに動画投稿サイトはすべてモザイクなしである。
運営も対応に追われているようで、ガンガン消されてはすぐに復活している。
まさに相良光太郎祭りだった。
光ちゃん……もう……お嫁にいけない……
『もともとお嫁には行けません!』
それよりも問題は警察をまく方法だ。
どうすんだよ!
いくら悩んでも答えが出ない。
『向こうがなにか仕掛けてくるんじゃないですか?』
ですよねー。
絶対そうですよねえ。
俺が憤っていると最初に指定されたマンションに到着する。
報道にもみくちゃにされながら俺はマンションのエントランスに行く。
俺は考えていた。
どうやって犯人の裏をかくのかを。
警察は俺の盾だ。
いなくては俺はサクッと死ぬだろう。
俺は考えていた。
どうやって警官を連れて行く?
そう考えながらスマートホンでテレビを見る。
すると警官がドアを開けようとするのが見えた。
俺はただエントランスにでも置けばいい。
そう考えたのだろう。
すると、またもや知らない番号からのメッセージが届く。
「今だ。走れ」
それを見た瞬間、俺は走る。
警察からしたら俺はもうお役御免だったようだ。
警官は誰も俺に注目してなかった。
「てめえ、どこに行きやがる!」
飯田が俺を見て追いかけてくる。
豪田も一瞬遅れて走る。
くっそ、体育会系が! 警官より足が速いじゃねえか!
俺が少し走ると後方、警官が突入したアパートから「スパンッ!」という音がした。
警官が騒ぐ声が聞こえた。
俺は怒鳴る。
「犯人からメッセージが来た。向こうの家だ!」
そう言いながら俺は上着を脱ぐシャツも脱ぐ。
すると恥ずかしい落書きが顕わになった。
俺の奇行に気づいたネット実況者が俺を追う。
テレビの方は謎の音の方に行ってしまった。
テレビは謎の音の方が大事で、ネット動画では俺の奇行の方が重要だったのだ。
扱うニュースの差だろう。
「●便器」の書き込みが汗でにじむ。
「ご自由にお使いください」も「男の娘」も「正」の字も汗でにじんでいた。
俺はスマートホンを見ながら走る。
あった!
俺はネット実況者に怒鳴る。
「お前らそこの一軒家だ! 住所を拡散しろ!」
「警察をまけ」とは言われたが、「ネットに居場所を晒すな」とは言われていない。
というかそこまでは考えていないだろう。
おそらくこの一軒家を攻略するだけの時間が欲しいだけだ。
俺に攻略しろと言っているのだ。
犯人が要求しているのはそれなのだ。
俺は玄関から敷地内に入る。
SNSの通知が入っている。
「マンションに警官突入。男性の死体を発見。爆発音が響く。充電バッテリーの爆発か!?」
やはりトラップだ。
でも爆弾ってわりにはハリウッド映画みたいに爆発はしなかった。
元から仕掛けてたものを使ったのだろうか?
いやそれは考えても仕方ない。
それよりもこの一軒家に吉村がいるはずなのだ。
そちらの方が重要だ。
だがどうする?
玄関はマンションみたいになにかが仕掛けられているかもしれない。
その証拠に「玄関から入れ」って命令は来なかった。
『そこの室外機はどうですか?』
エアコンの室外機が見えた。
俺は室外機によじ登る。
そこからさらに壁によじ登る。
有刺鉄線やガラスが仕掛けられてなくて良かった。
俺は壁から屋根に飛ぶ。
屋根に手を引っかけてから、踵も引っかける。
『光ちゃん相変わらず体が柔らかいですね……』
ふふんッ!
協調性がなくてありとあらゆる競技に向いていない俺だが、身体能力だけはチートクラスなのだよ!
なにせ格闘LV435だからな!
俺は引っかけた足と腹筋に力を入れる。
さらに尻の筋肉を総動員して屋根に上がる。
そして2階のベランダに侵入する。
俺は携帯をカメラモードにしてベランダを映す。
携帯のカメラは目には見えない赤外線を映す事ができるのだ。
赤外線センサーのついたトラップは存在しない。
よかった。
なにせ電子工作レベルで起動装置が作れてしまうのだ。
「おい! 相良ぁッ!」
飯田が怒鳴った。
息が切れた豪田が倒れるのが見えた。
俺は手を振る。
「いいから俺たちを引き上げろ!」
あ、そう言う意味ね。
「室外機を踏み台にしてください!」
俺はまずは飯田を引き上げる。
飯田は無言で俺に拳骨を喰らわせる。
痛いでゴザル。
次に豪田を引き上げる。
超重いっす。
豪田も無言で俺に拳骨を喰らわせる。
超痛いっす。
なんなのお前ら!
「いいか! 次は相談しろ!」
うわあああああん仕方なかったんじゃー!
心で泣きながら俺はベルトを外す。
下まで脱ぐわけではない。
もう、期待しちゃって♪
いやーんばかーん♪
『光ちゃんお座り』
すいません。
俺はベルトの金具で窓と窓枠の隙間を叩く。
ガラスにヒビが入る。
さらに俺はもう一カ所ガラスを叩く。
ガラスのヒビが繋がってガラスが割れる。
俺は慎重に割れた破片を取り出す。
そして手を突っ込み、ガラス戸を解錠する。
マイナスドライバーを使わなくても穏便に開けられた。
『光ちゃん、神様が「その技術について、あとでじっくり話し合おう」って仰ってます』
お説教に違いない。
拒否するでゴザル。
ソースはラ●オラ●フなのに!
俺はぶつぶつ呟きながらガラス戸を少しだけ開ける。
カメラで赤外線センサーの存在を確認する。
……ない。
俺はガラス戸を開けた。
スマホの懐中電灯アプリで中を照らす。
本当は光センサーとかサウンドセンサーとかを心配すべきなのだが、犯人が俺と遊ぶ気ならないと思う。
なにせ市販されてるセンサーは扱いが難しくて誤動作するからな。
俺が来る前に爆発してしまう可能性だってある。
中を照らすと人くらいの大きさの物体が横たわっていた。
それはアルミホイルでグルグル巻きにされている。
俺はそれを見た瞬間、心臓が跳ねた。
死んでいない。
死んでいないはずだ。
大丈夫だ。
吉村は無事だ。俺は慌てて中に入ろうとする。
「待て相良!」
飯田が俺を羽交い締めにした。
「よく見ろ!」
アルミホイルでグルグル巻きにされた物体からは、ワイヤーが出ていた。
それは明らかにトラップだった。
どうする俺!?




