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Zero  作者: 山名シン
最終章
60/60

Zero<零>

龍牙マシラの父親、龍牙メイソンは、大和と飛鳥(あすか)には両親はいないものだと教えて育ててきた。

だが、飛鳥が5つになり、家を追い出された後に大和にだけは、本当の両親を知らせたのだ。


突然の報告に大和は戸惑っていた。

幼いながらに、唯一血が繋がった兄妹をなくした大和は悲しみに明け暮れていた。

この悲しみを乗り越えた時に、真の強さが手に入る、祖父メイソンはいつもそう言っていたのだ。


大和の心を真に掴んだ男こそが、親友である龍牙アミカスであった。


(あすか)のいない世界を見ないで済むように、目を閉じ己の触覚や嗅覚、聴覚を研ぎ澄ませ、実物をみなくともそこに何があるのかが分かるくらいに成長する。

それの手助けをしてくれたり、傷心した心を癒してくれたのも親友(アミカス)がいたからこそだと、大和は確信している。

そして時は流れ、メディスと冒険している際に本当に無くなってしまった視力は、大和を完全な闇で包んでしまった。


だがそれにより、大和は誰よりも強い心を手にいれたと確信している。


しかしーーーー。


「もう止めてよ。もう決着はついてる………あなたの勝ちよ……」


一体いくつになったのだろう?

昔よりもかなり大人びた声をしている。

綺麗な女性になったものだ。


【目を閉じなければ良かった】


この時人生で始めて後悔した大和は泣いていた。

瞑った瞳の隙間を()って、一筋の涙が溢れていった。


「君だったのか?……僕の満たされない……心の端にいたのは……?」

掴まれた右手を振り払おうともせずに大和は続ける。


「人生なんて暇潰しだと思っていたのにさ………情けないな………君みたいな女に、腕を掴まれただけで!……この僕が……」

震える腕は言うことを聞かずに大和を苦しめていく。


「君に……止められるなんて……」

身体中の力が抜けていくのを感じる。


「キーン」と鈍い音を響かせている音剣(おとけん)山越(やまごえ)が今日ほど使い物にならないと感じた事はない。


飛鳥あすか……!」

動かない左腕を無理に動かし、飛鳥を抱き寄せた。

飛鳥も大和に抱きついた。

大和(おにいちゃん)……!」


零の体を支え、竹藪に腰かけていた(つるぎ)が二人を見守っていた。


数日後、龍牙家は完全に剣山家を支配するようになった。

しかし、支配と言えども同盟のようなものだ。


龍牙がどこかでいくさを始める時、それには必ず剣山の者を寄越すようにもう一つ、互いの情報を交換しあうこと。


いつ裏切るかも分からない、元々敵同士だった両家に課せられた責務は重い。

大和や零が思っている程簡単な事ではないとはっきりと分かっている。

互いに互いの家のいざこざを解決していこうという試みでもある。


ここに剣山、龍牙とのクールタウン最強の同盟が成立した。


剣山家では約束通り、零が第13代目当主の座を降りて、第14代目当主につるぎがつくようになった。


(つるぎ)………後は頼んだぜ?お前は強いんだ。必ずやれる!」

零は笑っていった。

「…零…覚えているか?俺は一度だけ、お前に負けた事があるんだ。ダークとの修行を終えて、兄弟子のシュウとも別れて、その帰り道…」

剣は少しうつむき、そして口をあけて言った。


(剣、お前も覚えてるのか……)

零と剣の過去を脳裏に浮かぶ兄弟。


《これからもっと修行して一緒に強くなろう!》

剣はそれにうなずいただけだったが、零と同じ気持ちだったに違いない。


剣山の道場で大人たちが組手をし鍛えている中、父カシラは熱心に【神話】を読んでいた。


《父さん、俺たちと手合わせして下さい!》


零はダークとの修行の成果を一刻も早くカシラに見せたかった。

ただ、他の者たちからは、父カシラは強い、とだけ話で聞いているが本当かどうかは零も剣でさえ、知らなかったのだ。

なんせ家を空けている事が多い父、今まで手合わせ願おうともそれは叶わなかったのだ。


《ほう。俺と手合わせ?うん。いいだろう》

父は息子の二人の顔を見て少しうなずき、読んでいた本を閉じ立ち上がった。


そしてーーーーー。


結果は5戦やって、5連続で完封負けだった。

全くかすりもしない攻撃を受け流されながら、隙をつかれ一撃で道場の壁に叩き付けられた。

あれは言葉で表すなら、『気功(きこう)』のようなもの。

父は軽く触れただけなのに、それ以上の威力が後からグンと重いものが来る感覚。

弟の(つるぎ)も全く同じ結果だった。

剣はやや、善戦していたかに見えたが、それは父カシラが遊んでいただけだったのだ。


《やはり強くなったなお前たち!》

カシラがかけてくれた言葉に零は喜び、剣はムッとした表情を浮かべた。


初めてみたが、やはり父親は強かった。

それを体験出来ただけでも、零にとっては修行の成果が現れたものだ。


《爺や、父さんは小さい時からあんなに強かったの?》

爺やと呼ばれた男は、剣山家に使える零と剣の世話役だ。


龍牙家はとの戦争の最中にピス一族の用いた新兵器、銃という武器で射殺されて、零を(かば)って死んだ人だ。


《えぇ。そりゃもう、強いのなんの。零様のお年齢の時にはすでに、ゲリラ様よりも強かったと聞きますからね》

《ゲリラ様よりも!?本当?すごい……》

ダークとの修行を終えて一年程がたち、零は8歳になっていた。

あの強いゲリラよりも、8歳の頃の父の方が強かったなんて、信じられないがそれだけでも誇らしかった。


父親は尊敬に値する人だ。


ある日に父が、零と剣で組手をし、勝った方に父がサケルドーサー時代に(つづ)っていた日記を見せてくれると言ったのだ。

その時零は10歳になっており、第13代目当主に着任する半年前の話だ。


初めは当然のように(つるぎ)が優勢だったのだが、前日の鍛練中に足を痛めていたのだ。

だから負けた、といえば言い訳になるといって剣は潔く敗けを認め、静かにその場を去った。

そして、カシラが大和に殺される一ヶ月前に剣は剣山家を出ていく事になる。


「今も持ってるのか?カシラの日記を」

「あぁ……」

「じゃあ行くのか?」

「あぁ……大丈夫、ちゃんと帰ってくるよ」


兄弟の会話はそれきりだった。


剣山零17歳、現在彼は放浪(ほうろう)の旅に出ている。

父カシラの書いた日記を頼りに旅に出た。

それを知っているのは、弟だけだ。

クールタウンを中心に各地を回っている。

零が旅に出る理由は、父カシラが何故、【神を憎んでいたか】それを調べる為でもある。

二年前、雅王の長[獅子のライアン]が語っていた、神が『我々人間を、生物を見捨てた』という事も調べる為に、それが分かれば恐らく父に少しでも近付けるかもしれない。

そう思って、零は一人旅だったのだ。


「……さて、行くか!……」


ナートゥーラ・シルウァ《自然の森林》の向こう、自然神の(やしろ)に赴き、またもう一度、自然神の継承者になった零は、風を切りながら駆けていく。

零の新たなステージは神と人間との関係を暴く戦いだ!


剣山(けんざん)(つるぎ)16歳。

はれて第14代目剣山家当主の座についた彼は、同盟を組んだ龍牙家との関係を改めて見直すべく、日々忙しい毎日を送っている。

勿論、剣術の鍛練を怠る事はしない。

太陽神ヘリオスの用いたと言われる太陽剣の灼熱の炎を振るい、(つるぎ)は戦う!


ー自然神の社よりー

《剣山カシラの最後の想い》


『マリア、お帰り、マリア、さようなら、マリア』

妹に想いを馳せて一言。


『ゲリラ、あんたは立派な父親だったよ』

父ゲリラに言えなかった感謝を一言。


『零、大きくなったな、父親らしいこと何も出来なくてすまないな、旅、頑張れよ』

親として何も出来なかった謝罪も込めて一言。


(つるぎ)、優秀だがどこか踏み留まっているな、だが焦るな一歩ずつ確実にな』

自分の血を最も濃く受け継いだばかりに、余った強さを出しきれずにいる事に対して一言。


『マシラ、ごめんよ俺はまだ天国(そっち)にはいけそうにないな、実はまだ生きてるし生き返るんだ、いつになるかは知らないけどな、またお前に会いたいなマシラ』

親友に対する後悔とまた会えるのを楽しみにした一言。


『大和、助かった、俺を殺してくれて、お前も妹に会えたんだってな、良かったじゃないか、大切にしろよ』

同じ妹をなくした者同士の激励の一言。


『プロセウス、お前は面倒見がいいからな、そこまでしなくていいのについつい世話してやるお前に感謝するよ』

同年代の深い絆による一言。


『メディス、薬の研究も程々にな、また後悔しても知らねーぞ』

理解して貰えない苦しみを励ます為の一言。


『ヘラクレス、両親に会えるといいな、可愛い付き添いをいつまでも大切にな』

一番仲間想いの優しいものに対数一言。


『ブラーク、リーダーに拾ってもらって俺たちと出会って、幸せだったんだな、お前は自分の気持ちを素直に言うのを躊躇(ためら)ってたからな、幸せならそれで良かった』

天賦の才を持つ男の不器用な一言。


『オーズさん、ヒューズさん、あんたらには何も言うことはないけど、一つだけ言わせてくれよ、あんたらのおかげで俺はそれなりに良い人生だったぜ、ありがとう』

命を授けてくれた、拾ってくれた恩に対する感謝の一言。


彼らに対するその想いは届いたかどうかは定かではないが、少なくともそれは天に響き世界に轟いていったはずだ。


クールもヒールもイナズマもウォールも今日は、全タウンで快晴だ。

其々の世界と、其々の想いが届き、今繋がった!


運命の糸は複雑に絡み合い、今、一本になった!


【そして、また零から始まるのだ】

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